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夢篠
2025-05-09 21:50:41
2917文字
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叢雨に君の声聞ゆ
泣いちゃった奥方を慰める山本陣内
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
上り口で帰宅を告げた時、
ナマエ
が迎えに来なかった。珍しい事もあるが、無い事ではないだろうと思い直して
ナマエ
の気配を探る。どうやら寝室の方にいるようだ。そちらに歩を進める。ただ気配は少しずつ大きくなるけれど、それに動きが無いのが気になった。眠っているのだろうか。
「
……
ナマエ
?」
寝室の前で一度声を掛ける。応えは無い。もう一度声を掛けるがやはり応答は無かった。断って障子を引く。
「
ナマエ
?寝ているのか
……
、」
そこには御衣に包まった塊があった。中身は勿論
ナマエ
だろう。ゆっくりと近付くと塊が小さく動いた。どうやら起きているようだ。
「
ナマエ
?」
状況が良く分からなくて、
ナマエ
に声を掛けると御衣の中からか細く「おかえりなさいませ
……
」と声が聞こえた。その声は明らかに涙を纏っていて、ぞっ、と全身の血が下に下がった気がした。
「っ、何があった?言えるか?怪我は?っ、その、顔を見せてくれ」
「っ、いやです
……
!」
駆け寄って御衣の下を覗こうとすると
ナマエ
が更にそれに包まろうとする。無理矢理に剥がす事は流石に出来ず、仕方なく御衣の上から手を当てる。触れた手から
ナマエ
の身体が震えているのが分かった。
「っ、一体何があった?せめて顔だけでも見せてくれないか」
「いまひどいかお、なので、いやです
……
」
「それでも構わない。
ナマエ
が無事なのを確認したい」
私の声が切羽詰まっていたせいか、塊がごそごそと起き上がって私の方に寄ってくる。御衣の隙間から赤くなった目許が覗く。視線が絡むと大きな目からまた数粒涙が零れた。痛々しいその目が見ていられなくて
ナマエ
の頭を撫でる。形の良い眉がまたハの字に下がる。
ナマエ
にしては珍しく積極的に擦り寄られるので彼女を膝の上に抱えて抱き締め返す。状況は良く把握出来ていないが
ナマエ
は無事、と思って良いのだろうか。
「きょう、」
ぽつ、と
ナマエ
が呟く。涙に濡れた声は御衣の中から発せられるせいでくぐもっている。口を挟むのは憚られたので言葉を促すつもりで腕の中の塊を撫でるに留まる。
ナマエ
は少しだけ声を震わせながら続ける。
要約すると今日は朝から体調が思わしくなくて、それでも家の仕事をしようと思ったけれど身体が上手く動かなくて、追い打ちを掛けるように幾つか失敗も重ねてしまい、しかもやるべき事が一つも終わらないまま私が帰って来てしまった、との事だ。
「
……
ごめ、なさ、い
……
、だ、んなさまのおむかえ、もせ、ず
……
」
しゃくり上げる
ナマエ
を腕の中で強く抱く。先ずは
ナマエ
に何も無かった事に酷く安堵した。それと共に何も泣く事は無いのにといじらしさと愛らしさが胸に去来する。勿論
ナマエ
にとってはそれは大事なのだろうが、寧ろもっと楽にしてくれても良いのにと思った。私に嫁ぐ前から
ナマエ
は本当に良く出来た娘で、嫁入り後も私が家を空ける事も多い中良くやってくれていると思う。だからこそもっと身体を労って欲しかった。
ナマエ
は何もかも、正しく完璧にやりたいという気持ちが強いから。
「出迎えなんて良いんだ。
ナマエ
に何も無くて本当に良かった
……
」
強くその塊を抱く。塊がふるりと震えて、小さく名を呼ばれた。
「どうした?」
「いま、とてもひどいかお、なの。でもだんなさまのおかおがみたくて
……
。
ナマエ
のひどいかおをみてもきらいに、ならないで
……
」
御衣の隙間から覗く小さな白い手が私の装束を控えめに握った。私を求めるその仕草に心臓を鷲掴みにされたような痛みが走って思わず胸を押さえそうになった。
……
愛らしい。
「
ナマエ
を嫌いになる筈無いだろう?私も
ナマエ
の顔が見たい。
……
顔を見せてくれないか」
うう、ともああ、とも付かない声と共にゆっくりと塊の中から
ナマエ
の顔が覗く。先ほどは目許だけだったけれど、漸く顔が見れてほっとする。
ナマエ
の濡れた頬を撫でたら指先にまた雫が落ちて来た。
「嗚呼、もう泣かないでくれ」
「うう~
……
、ごめ、なさ
……
っ」
ぎゅうぎゅうと色気も何も無くとにかく身体を擦り付けてくる
ナマエ
の身体を抱き返す。それでも顔が見たくて身体を少し離そうとすると思惑が露見したのかより強く抱き締められる。それもそれでまた、悪くないのだが。
「
ナマエ
は本当に良くやってくれている。いつも傍にいられる訳ではなくて私の方こそ済まない」
「ちがうの、です
……
っ、だんな、さ、まのせい、では
……
」
耳許で聞こえる
ナマエ
の声にまた涙が混じり始めるからその背をゆっくりと撫でる。心臓の鼓動と同じ速さで撫でると最初は肩口に降り掛かっていた雫が少しずつ無くなって、それから
ナマエ
の輪郭が薄くなって私の腕の中で隙間無く混ざり合うような、そんな気がした。
「じんないさま
……
」
「
……
どうした?」
触れ合った所から何か暖かな物が伝わってくる気がした。
ナマエ
の声は落ち着いている。だがまだ少しその声には覇気が無くて、
ナマエ
の手は私の装束を握っていて、その手が頼りなかった気がして私は自らの手をそこに重ねた。
「
……
ナマエ
は、みじゅくものなのです。だからこれからも、こうやってじんないさまにごめいわくを、おかけするとおもいます
……
。でも、
ナマエ
はじんないさまのことがすきなの。おそばにおいてほしいのです
……
」
すり、と控えめに胸許に頬を擦り寄せられる。また心臓を握り潰された。
ナマエ
はきっと、良く人心を掌握するだろうと思った。こんな事をされていては心臓が幾つあっても足りない。だからこそ、私一人の
ナマエ
で良かったと心から思う。声を出そうとしてその鼓動の高鳴りに声が裏返ったようになったので誤魔化すように咳払いした。
「
……
ナマエ
は、私が望んで一緒になったんだ。寧ろ離れられては困る。私こそ、
ナマエ
を愛しているからお前の傍に置いて欲しい」
腕の中から強く抱き締められて、拙い言葉で好意が囁かれる。愛おしさが高まる。
ナマエ
の事を酷く愛おしいと思った。
「
…………
ナマエ
、この後しなければならない事は明日に伸ばせないか?」
「
……
あの、え、ええ、はい、」
戸惑ったように、しかし小さく頷いた
ナマエ
を御衣ごと抱き上げる。
ナマエ
が小さく悲鳴を上げた。落とさぬようにしっかり抱えて湯殿へ向かう。まだ、湯も浴びていないのを思い出したからだ。
「共に湯浴みしよう。湯浴みが終わったら一緒に飯を食って、今夜は一緒に寝よう。明日は私も休みだから久し振りに共に過ごそう。今日と明日は、二人で休みだ」
「え、っ、は、はい
……
?」
まだあまり理解が及んでいない
ナマエ
を腕に抱いて笑った。そうしたら
ナマエ
が甘えるように首に腕を回してくれた。暖かく小さな塊は、今は僅かに安堵しているのか柔らかく幸福な匂いがする気がした。
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