mishiadd
2025-05-09 21:25:23
6231文字
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好きな子の常設化を察知した翌日にものすごい勢いで追いかけてくるタイプの男

【FGO軸】なんだなって思い(被告人は「ぽやっぽやの節操なし浮気性伊織殿がまたぞろぽやっぽやしたまま他所のお宅の三つ編みの美少年セイバーにうつつを抜かしてると思った翌日にものすごい勢いでスライディング入場してきたヤマトタケルがあまりにもおもしれェ男過ぎたので」などと供述しており)(※伊織殿常設化/翌日のヤマトタケルPU)【剣陣営】

■2025年5月8日(木)

俺が人理修復を開始して一年弱が過ぎた。出遅れに出遅れた俺でも今はすっかり最前線まで追いついて、愉快なルーラーの仲間達と法廷で共に争ったのはつい一昨日のことだ。
そもそもルックスで一目惚れし、現地で出逢ってますます惚れ込んだメタトロンちゃんを召喚したくて結構な数の石を割り続けているのだが全然応えてくれず、さすがに確率的にそろそろ収束してもよいのでは――これはもしかして、俺ってばとっても嫌われてしまっているのでは――などとそわそわし始めていた頃だった。

突然、石を割らなくとも喚び出せる星4サーヴァントが3騎増えた。

ダ・ヴィンチちゃんとセタンタは当然知っている。爆速で人理を修復してDr.ロマンとの別れに情緒をめちゃめちゃにされていたのも束の間、あれよあれよと地球が白紙化して以来ダ・ヴィンチちゃんにはずっと助けてもらっているし、セタンタとはついこの間ホテルで一緒にコンシェルジュをやったばかりだ。どちらもマブダチと言っていい。今回ほぼ無条件で喚べるようになったのは僥倖だ。――に、対して、だ。

誰だ、宮本伊織って。

宮本武蔵ちゃんならば当然知っている。下総で出逢ってオリュンポスで別れた。対してこいつはどうだ、普通に一般知識としても宮本『伊織』なんて聞いたこともない。そもそも『いおり』とかいう可愛い響きのくせにどこからどう見ても思いっきり男だし。これこそ女であるべきでは。

まあ、来てくれるっていうんだから――ダ・ヴィンチちゃんとセタンタだけ喚んでこいつだけハブにするのも妙だし――もののついでで喚んでみた。

旧知のダ・ヴィンチちゃんとセタンタには「イェーイ」とハイタッチで挨拶をした後、一番最後にやってきた宮本某、に目を遣る。凛々しい剣士姿の割に、どことなく拠りどころのないようなぽやんとした顔で突っ立っている青年に、「あー……その」と気まずいながらも声を掛けた。

「俺、人理修復始めたのここ一年くらいでさ、ぶっちゃけセタンタもダ・ヴィンチちゃんも知ってるんだけどアンタだけ知らないや、ごめん」
――ああ」
「でさ、悪いんだけどアンタがどういう人なのか説明してもらっていい? Wiki見たけどとりあえず武蔵ちゃん――宮本武蔵の弟子ってことで合ってる?」
……あ、いや。それは合っているんだが」
「うん?」
「すまん。――ここに来て気付いたのだが、どうやら俺には記憶がほとんどない」
――うん?」

え、と言って慌てて霊基グラフを開いて宮本伊織と二人で覗き込む。現時点でこいつとの絆が殆どない、ということも相まってそもそも開示情報が極端に少なかったのだが、肝心かなめのところにロックがかかっているのを見つける。――『慶安四年の特異点を解決した場合のみ閲覧可能』?

「慶安四年の特異点って何?」

馬鹿正直に隣の青年を見ると、こちらこそ困ったような顔で答えた。

「慶安四年――は、確かに俺がここにくる直前まで暮らしていた江戸の年号だ。……が、『特異点』というのは皆目見当がつかない」
……あー、うわ、まじか、そっかあ。そういうことかあ」

つまりこれは、恐らく俺が人理修復を始める前にどこかで発生した特異点だ。――であるならば、その特異点に再び出向けるようになる目途が立たない以上、少なくとも現時点では、俺にもこいつにも、こいつ自身の情報をこれ以上探る方法はない。ぽりぽりと頭を掻きながら、どこか心細そうな――それでいてどこか夢見心地であるかのようなぽやんとした横顔に、ダメ元で訊いてみる。

「あー……『伊織』? 伊織。――その、全然、なんにも、思い出せないんだよな? 逆に何なら思い出せる?」
「多分――俺は、江戸の浅草で独り暮らしをしていた浪人で――

「まずいな」と直感的に思う。先程一応閲覧してみた汎人類史の『宮本伊織』の情報とこの時点で大きく食い違っている。つまりあのWikiはこいつのことを知るためにはなんの役にも立たない。

「師匠――――妹が、多分、ひとり――
「師匠! 師匠か、武蔵ちゃんだよな? 元気溌溂って感じの女の」

ようやく突破口を見つけたと思って食い気味に言ってみれば、「お、女……? 俺の師匠の宮本武蔵は……男性だが……」と戸惑い気味に言われて脱力する。そこはWiki通りなのかよ。

「いや、でもそういうこともあるのかもしれん。師匠が女性であるということも」
「そこで妙に理解を示さなくていいよ。……で? 他には」

だんだん面倒になってきた――というか、こいつも自分のことを知らない、俺もこいつのことを知らないなら、つまりそれって誰も困ってないということで、それはもうそれでいいんじゃないか? という気にすらなってきつつあったところで――顎でしゃくって先を促す。
すると、「――あ、」とぽつりと伊織が漏らした。

「お。なんか思い出した?」
「というほどでもないのだが。――朧げに、記憶にある。――確か俺は――俺には――近しい誰かがいて――
……ふうん?」
「『運命』――のようなものだったと思う。俺にとっての、運命」
……大きく出たな」

記憶のないわりに――いや、記憶がないからこそか? 随分ロマンティックで情緒的な言葉を使った伊織に肩を竦める。すると、伊織が肩を竦め返してきた。

――のわりに、何も覚えていない。……ただ、そう、確か――そいつは、長い三つ編みを揺らした、綺麗な顔をした子供――だったような気がする」
「長い三つ編みを揺らした、綺麗な顔をした子供」

鸚鵡返しにして、伊織と顔を見合わせる。――それから、ほぼ二人同時に同じ方向を見遣る。ダ・ヴィンチちゃんと楽しげに話しこんでいるセタンタだった。

――って、もしかしてアレのこと?」
……いや、実は」

ぽそり、と伊織がひそひそと秘めやかな声で言った。

「俺も――実はそうではないかと思っていたのだ。ここに喚ばれる前――待合室のようなところで、あのふたりと一緒になったときから。ぼんやりと――そいつの輪郭しるえっとのようなものしか覚えておらず、それすらも朧げなのだが――あそこにいる彼に――セタンタ殿に、よく似ていたような気がするのだ。声の感じも――あんなような、高い少年の声だったような気がする」
「いっそ本人に訊いてみるか? アンタと違ってあっちは記憶とかはっきりしてそうだし」
「いや。――これも朧げな記憶なんだが、恐らくそいつは――俺の『運命』は、サーヴァントであった気がするのだ。……セイバークラスの」
「ん、そんなら伊織がそいつのマスターだったってこと?」
「そこまでは。……ただ、もしそうだった場合――あちらのセタンタ殿は、俺との記憶を覚えていない。サーヴァントとはそういうものだろう」
「そう言われてみればそうだ。そうか」

ふうむ、と腰に手を当てて遠くからセタンタを眺める。元気な笑い声を上げている彼に、伊織が眩しそうに目を細めているのを見る。

……聞き覚え、ある?」
「わからん。嫌な感じはしない」
「まあでも、十中八九セタンタで合ってるんじゃない? 『長い三つ編みで綺麗な顔をした子供のセイバー』、なんてそう何人もおらんでしょ」
「ああ、そうだな。――うん、そんな気がする。……セタンタ。彼が、かつての俺の『運命』だったような気がする。――そう――セタンタ、というのか」
「呼び慣れた感じする?」
「さあ。――でも、そもそもあいつには真名を呼ばせてもらっていなかった気がする。だから、呼び慣れていなくても不思議はない」
「へえ」

ああ見えて気難しいんだな、セタンタ。――などと思う。

かくして、なんにも覚えていない宮本伊織は、なんにも覚えていないなりにわずかに残った朧げな記憶を頼りにセタンタとの縁を一方的に胸に抱き――とはいえ本人にはそうと告げることはせず、遠くから静かに彼を眺めている、ことと相成った。

全然知らなかったとはいえこうしてそれなりに話してみて、わりかし話しやすい相手だな――などと思い――見た目もまあ、男とはいえ、というか男なので、俺だって別に嫌いじゃないタイプのかっこいい感じの凛々しい侍だし――あとなんか霊基グラフ見ていて気付いたが理不尽にやたら強そうだったので、完全にその場のノリで聖杯も食わせてやり(「よくわからんがいいのか?」と遠慮していたので無理やり食わせた)「明日からよろしく」ということでセタンタ、ダ・ヴィンチちゃんともども伊織を解放してやった。

そのあと、日課になっているメタトロンちゃんの召喚を試み――いつものように撃沈した。






■2025年5月9日(金)

今日も今日とてメタトロンちゃんを召喚しようとして失敗し、ふと横を見てみたところ召喚陣が増えていた。

「ヤマト――タケル……?」

といえば言わずと知れた日本神話の大英雄である。さすがに俺でも知っている。というか、少なくとも宮本伊織よりは聞いたことがある。

ぱっと見どっちだかわからない見た目――だけど、これは恐らくは女の子――で、なにより可愛い。すごくすごく可愛い。メタトロンちゃんも可愛いけどこの娘もすごく可愛い。大きなくりくりの古き良きツンデレっぽい勝気そうな瞳が古のオタク魂に刺さる。
ほんの少しだけ逡巡したあと、「……ごめん、メタトロンちゃん!」と謝って一度だけ石を砕いた。

――途端に虹色に光り輝く召喚陣であった。

メタトロンちゃんに振られ続けた上に金色に輝くところすらしばらくご無沙汰だったからか、突然のことに「え!? ――え!?」と狼狽しまくる。その目の前に――厳かな顔つきで美少女が立ち顕れたのだった。

「サーヴァント、セイバー」

――あれ、と思う。……そういえばこの娘も三つ編みだな。長い三つ編み――の、セイバー

とりあえず、とあまりの可愛さにどぎまぎしながら、声をかけてみる。

「あ、あの、ええと。タケルちゃんって呼べばいいかな? よ、よろしく、俺は人理修復を始めて一年くらいの新米マスターで――
「イオリはどこだ」
「まだ全然慣れなくて、星5セイバーが来てくれるのは初めてだから力になってくれたら嬉しいなって――はい?」
「ここにイオリがいるのはわかっている。だからメタトロンを留め置いて私がここに召喚されるように確率を調整していたのだ。イオリはどこだ」

――はい?

ちゃりん、と脳裏でメタトロンちゃんのために割った石ががらがらと音を立てるのが聞こえた。――おかしい、とは思っていた。そろそろ確率的にはさすがに来てくれなければおかしいとは思っていた。……留め置い――何?

「ま、ま、ま、待って待って待って待って、タケルちゃん、ちょっと一旦落ち着いて話そう? ええと、まずタケルちゃんはあのヤマトタケルノミコト――ってことで――
「マスター、悪いがきみのことを含めて私は誰のことも『マスター』と呼ぶつもりはない。それから、私にマスターがいるとすればただのひとりだ。たとえ今生で経絡パスが繋がっていなくとも」
「ええ? ――え、えええ?」
「だがあの……――~~ッ!!」

古の英雄に相応しいようなしかつめらしい顔が突然崩れ、顔を真っ赤にしたタケルちゃんが頬をぷっくりと膨らませて苛立たしげに地団駄を踏む。「ンンンンーーッ」と散々地面に八つ当たりをしてある程度気が済んだのか、ハアハアと肩で息をしたタケルちゃんが俺を振り返り、「見苦しいところを見せた」と言った。

「あの浮気性で節操なしのすっとこどっこいは常人離れした理解不能な思考回路でまたぞろとんでもないことになっているに違いない――と私のイオリセンサーが察知したので急ぎやってきたのだ。――さあ、イオリはどこだ。ここにいるのはわかっている」



――俺だって馬鹿ではないので。



昨日、宮本伊織と交わした一連の会話を思い出す。――『とんでもない』ことが既に発生してしまっているということが、事情をほとんど知らない俺にでもわかった。

「ちょ、ちょっと待っててくれるかな、タケルちゃん。伊織――だよね、すぐ呼んでくるから」
「居場所を教えてくれればそれでいい、私が自分で出向く」
「いや! いやいやいやいや、ちょっとここで待っててほしい、このまま、ここで」

自分の『運命』をセタンタだと思い込んでいる伊織とそれこそ何も知らないただ気のいいだけのセタンタがふたりで仲良く歩いているところにでも出くわされたりしたら何が起こるかわからない。地球白紙化現象が解決する前にこの宇宙が消滅するかもしれない。

わたわたと慌てているところに、「マスター?」と穏やかな凛とした声がかかる。びくり、と背筋の凍る思いがしつつも振り向く。――伊織が、ひとりで、立っていた。

「あ、伊織」

よかった、セタンタと一緒じゃなかったか――と喉まで出かかった安堵の言葉をごくりと飲み込む。

「おや、新しいサーヴァントかな」と一瞬タケルちゃんに目をくれた伊織はしかし、すぐに俺に目線を戻してうっとりとはにかんだような顔をして言った。

「彼と――セタンタ殿と、少し手合わせでもしてみようかという話になったのだ。ここにはしみゅれえたあというものがあると聞いたのだが、使用許可を貰えるだろうか?」
「え? あ、ああ、勿論――いいけど――
「もしかしたら、彼と――俺の運命と剣を交えてみたら何か記憶が戻るかも――と、彼が」



――うわあ。



読める、読めるぞ。なにがあったのか手に取るようにわかる。きっと伊織は相手が覚えていないことを見越したなりに、セタンタに事情を話したのだろう。それが事実だろうとなかろうと自分に記憶がないのは道理であるから一旦『正』であるとした気のいいセタンタは、よかれと思って提案したのだ。

――が、多分。

今、伊織が俺に告げたその発言のすべてが、恐らくはタケルちゃんにとってはことごとくが地雷アウトだった

……イオリ。――イオリ」
「? ――ああ、ええと、貴殿。すまない、挨拶が遅れてしまった。宮本伊織という。昨日からこちらで世話になっている。……貴殿は……?」

真っ蒼に蒼褪めた――およそその言葉に相応しくないような余裕のない、わなわなと震えるような唇で、それでも古代日本の大英雄の矜持を最大限に保ったまま、タケルちゃんが厳かな声で言った。



「私はきみの『運命』だよ、宮本伊織」



「うん?」と小首を傾げた成人男性にさすがにそのお綺麗な顔の横っ面をひっぱたいてやろうかと思いつつ、それをするのはきっと俺ではない。そしてこれからシミュレーターが入用になるのはきっと伊織とセタンタではないし――というか、きっとこの新設カルデアの新米マスターとしてせめてセタンタだけはこの地獄の巻き添えにさせてはダメだ。

背後で膨れ上がるLv.1とは思えない古代日本の大英雄の重圧とそれに呼応するかのような伊織の剣気から目を背けながら、俺はせめてセタンタの身の安全を確保するため、一目散にその場から駆け出した。






好きな子の常設化を察知した翌日にものすごい勢いで追いかけてくるタイプの男・了