haru_haru0704
2025-05-09 18:37:34
1837文字
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この銀糸は非売品

カカロ×忌炎 全年齢

漂泊者がカカロと忌炎の髪でマフラーを編もうとする話

その日、カカロと忌炎は破陣基地内に揃っていた。そして彼らは忌炎の執務室で2人きりになり、いい感じの雰囲気になっていたのだ。
──漂泊者が執務室の扉をノックするまでは。

コンコンという音が響いた後、即座に扉が開かれる。
カカロと忌炎は僅かばかり体を動かし、お互いから少しだけ離れた。他人の前で、妙に接近したままでいるというわけにもいかないからだ。
「こんにちは、忌炎。あ、カカロもいる」
「ああ、こんにちは。・・・漂泊者、ノックをした後は数秒待った方がいい」
忌炎が嗜めると、漂泊者は「ごめん」と頬を掻いた。
漂泊者はいい奴ではあるのだが、どうも感覚がずれているところがある。今回のノックくらいであれば、些末なことだから構わないのだが。
「ところで、俺に何か用事か?」
「ああ、そうそう。カカロもいるなら丁度いい。あなたたちの髪の毛で、マフラーを編ませてもらえないかな」
「・・・は?」
忌炎は己の耳を疑った。
俺たちの髪の毛で?マフラーを?編む?
・・・なぜ??
ぽかんとしている2人をよそに、漂泊者は勝手に話を進めていく。
「2人の髪はサラサラでツヤツヤだし、色もとても綺麗だから。素敵なマフラーが作れそうだ」
漂泊者はカカロの背後に回ると、髪を一房すくい上げた。そのまま髪を細くよじり始めたものだから、カカロは慌てて漂泊者の腕を掴む。
「おい、やめろ!」
「えっ、でも・・・」
「人毛はマフラーには適さない。そもそも俺の許可なく勝手に作ろうとするな。髪を切るかどうかは俺が決める」
カカロの言葉に、漂泊者は目を丸くした。まるで猫のようだ。
そして何度かぱちぱちと瞬きをした後、口を開く。
「そうか、マフラーを編むためには髪を切る必要があるのか。そして、髪は切ったらなくなる・・・!」
今気づいたのか。と忌炎は思ったが、口には出さなかった。
この浮世離れした友人は、本当に今の今まで気づいていなかったのだろう。それを責めても仕方がない。
「そうだ。だからマフラーは諦めろ。よほど大金を積むのであれば、売ってやるのもやぶさかではないが」
カカロは腕組みしながらそう言った。
よほどの大金とは、いったいどれくらいの金額を指しているのだろうか。忌炎は少し気になった。
「俺は大金なんて持ってない」
「契約不成立だな」
「残念だ・・・」
漂泊者は肩を落とした。そもそも、なぜそんなにマフラーに拘っているのだろうか。
忌炎が尋ねると、漂泊者はここに至るまでの経緯を話し始めた。
「少し前に訪れた場所が、寒いところだったんだ。だから防寒具が欲しいと思って」
「それで、どうして俺たちの髪で作ろうなんて発想に?」
「忌炎もカカロも、髪と同じ色の飾りを服につけているから。綺麗な色で、いいなって思ったんだ」
たしかに、カカロは腰に、忌炎は背中に飾り紐をつけている。
もちろんそれは、髪の色と同じ色の毛糸で編んで作られたものだ。人毛ではない。
忌炎はそれを説明した上で、「俺からマフラーと耳当てを贈ろうか?」と提案した。
「え・・・いいのか?」
「ああ。お前には世話になっているからな。色の組み合わせや、デザインの要望があれば教えてくれ」
「じゃあ、忌炎の髪の色のマフラーと、カカロの髪の色の耳当てがいい。デザインはよく分からないから、任せる」
「分かった。特注品になるから、できあがるまで1ヶ月ほど待っていてくれ」

漂泊者は大喜びで帰っていった。カカロと忌炎は再び2人きりになり、執務室に沈黙が落ちる。
彼らは離れていた距離を詰めた。それは、恋人同士だからこそ許される距離感だ。
「カカロ」
「ん?」
「いくら積まれたら、この髪を切らせるつもりだ?」
忌炎はカカロの長い髪を手に取り、指先で弄ぶ。
彼の声色に、微かに不満が滲んでいることに気づいたカカロは、慎重に言葉を選びながら答えた。
「・・・俺の恋人が納得するくらいの金額、だな」
「ふふ」
忌炎は小さく微笑み、カカロの銀糸にちゅっと口づけた。
「俺はいくら積まれても納得しない」
「そうか。なら、次からは非売品だと答えよう」
「ああ。是非ともそうしてくれ」
満足気に頷く忌炎を見て、カカロは内心ほっとした。
どうやら、彼の機嫌を損ねずに済んだようだ。
忌炎は案外、この身に執着しているということを知ってはいた。だが、まさか髪にまで独占欲を抱いているとは。
うっかり残像に斬られでもしないよう、今後は一層気をつけるとしよう。