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彼方
2025-05-09 06:57:05
3631文字
Public
お題箱より
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【005】propose+propose(全年齢)
【いただいたお題】
兎さんがネックレスに付けたお揃いの指輪にキスをするお話、
または、名前は言わなくても公開プロボーズ
こちらをアレンジしました
首に下げていたペアリングがチラ見えしちゃったbktさんの話
bktさんの会社周りとかいろいろ捏造、bkak以外のキャラあり🦊
「なあぼっくん、昨日サムんとこ行った?」
シーズンオフに入ってしばらく、珍しく内勤で一緒になった宮侑が声をひそめて話しかけてきた。一応会社に準備されてる机は隣同士だけど、会社で会うことはあんまり無い。シーズン中は毎日顔を合わせてるけど、今は別行動が多いから。
おしゃべり上手でスルドイツッコミ? のツムツムは動画配信やテレビによく出ていて、俺はいろいろシツゲンしちゃうからと修正のきく雑誌の取材やしゃべるより動く方が多い子供向けバレーボール教室に出てることが多い。だからこうやって隣同士で話すのは久しぶりな気がする。
「うん。昨日は赤葦が来てて、帰る前におに宮でテイクアウトしたいって言うから連れてったよ」
「ほなぼっくんと一緒に居たんは赤葦くんやってんな」
「そうだけど、宮治がなんか言ってたの?」
「いや、サムが言うてたわけちゃうねんけど
……
これ見てみ」
ほれ、とツムツムは自分のスマホを俺の方に向けた。なんだろうと画面を覗き込んだら、おに宮でテイクアウトが出来るのを待つ間に『ちゃちゃっと書いてえな』とミャーサムに頼まれたサインを色紙に書いている時の俺の姿。あとでSNSに載せたいから写真撮ってもいい? って聞かれたから、いいよ〜って答えたやつだ。
「頼まれたからサイン書いてたんだけど
……
なんかまずかった? あ、実はツムツムも書きたかったとか?」
「俺はプロになってすぐに書いたわ
……
ってそうとちゃう! ここ見てみ、これ」
ぐいーっと画像を拡大して、これ! ってツムツムが指を差したところ。そん時着てたTシャツの襟元からチラッと見えてるのは、チェーンに通したプラチナのリングだ。広めのVネックだったから、見えちゃってたらしい。
「あかーしとお揃いでつくったやつだよ」
「
……
せやな。少なくとも俺やサムはぼっくんとあかーしくんが付き合ってるんは前から知っとるからええねん。でもな、オフィシャル情報の木兎選手は独身やんな」
「うん、そうだけど」
「ええ歳した独身の男がいかにもペアリングっぽいですーみたいのん首から下げてたら、目立つんわかるやろ
……
」
「そうなの?」
はあーっと大きいため息をついて、ツムツムはぐしゃぐしゃと頭を掻きむしってる。前はオフで赤葦と過ごす時に指に嵌めてたけど、ちょっと前に旅行先で無くしそうになったのを心配した赤葦がチェーンを付けてくれた。おかげでオフシーズンのビジネススタイルの時なんかでもシャツの下に着けられるから便利なんだけどな。
「指にしてるよりマシじゃない?」
別に俺と同じことしてる選手はいるし、見せびらかしてるつもりもないし、ツムツムが気にしてるだけだと思うんだけど。
「指だと外す時に無くしそうになっちゃうんだよ、だからあかあしが」
「
……
あかーしくん、わりと爽やか系の見た目してるくせに
……
」
「えへへ」
「別に褒めてへんわ!」
ブツブツ何かを呟きながら、小さい声のままツムツムの話は続く。
「どう見てもペアリングの時点でアウトやねん、見てみぃこの数字」
おに宮公式アカウントから発信されたそのポストは、俺が見ている今この時点でも数字がどんどん増えていってる。いわゆる〝バズってる〟ってやつだなこれ。
「おおー」
「どーすんねんこれ」
「親しいひとたちは知ってるし、ずっと隠せるわけでもないからなあ」
高校の頃から付き合っている俺たちは、そろそろ両手で数えても足りなくなるぐらいの日々を過ごしてきた。お互いに〝そろそろ結婚は?〟なんて言われる歳でもある。それに指輪は赤葦が飲み会とかでイイヨラレルことが増えたから、着けてたほうがお互いに安心だよねって相談して作ったものだ。むしろ良いタイミングかも?
「ダメっぽかったら赤葦の方から連絡来るだろうし、おに宮が迷惑じゃなかったらそのままでいいんじゃない」
言われてとりあえず自分のスマホを見たけど、赤葦からの連絡はない。ただほとんど動かしてない俺のSNSのアカウントの通知はすごい数ついてる。おお、バズるじゃなくてエンジョーってやつか。
「通知えらいことになっとんな」
「そうだねえ」
とりあえずSNSの通知を切って次にどうしようか考えようとしたら、赤葦からのメッセージが届いた。短い文章だったけど、画面の向こうで赤葦が苦笑いしてるのが目に浮かぶ。
『バレちゃいましたね』
「だってさ、赤葦が」
画面をツムツムに見せたら、うわぁって顔になる。
「ノロケかい
……
ほんまかなわんわ
……
」
「まあ、赤葦だから」
指輪を作った時に〝いつかこういう時が来るかもね〟っていう話は赤葦としたことがある。受け入れられるか、そうじゃないか。世間的にはまだまだ認められない関係かもしれないけど、バレるときはバレちゃうから仕方がない。
「大丈夫、なんかそんな気がする」
「心配して損したわ、まったく。んで、なんか良い考えでもあるん?」
「うん。ちょっと手伝って」
俺が思いついたことを伝えたら、しゃーないなって言いながらツムツムは立ち上がった。俺たちが目指すのは同じフロアにある広報さんの部屋。一応、念のため、会社にも話しておいたほうが良さそうだし。そしてその日の夜、俺のSNSのアカウントが久しぶりに動いた。
◆◆◆
『まあバレたのはしょうがないですけど、落としどころとしては良かったんじゃないですか』
通話の向こうから聞こえるのはため息まじりの赤葦の声。昔から俺が何かしでかすたびに〝本当にしょうがないひとですね〟って赤葦は言う。でもその呆れた声がいつの頃からかちょっと甘い声に変わったのは、ごく最近だ。ウヨキョクセツがありすぎてもう考えるのをやめちゃったけど、俺たち二人は何度となく別れの危機を乗り越えてきた。
『巻き込まれたミャーサムには悪いことをしました
……
次行ったら全種類買ってお詫びしないと』
「それは赤葦が嬉しいやつじゃん」
『まあそうですね』
家に帰り着いてすぐぐらいに俺のアカウントから発信したポストを見た赤葦から連絡があった。でも『あの画像はさすがにやりすぎですよ木兎さん』って怒られちゃった。
【お相手は一般の方なので、プロポーズが成功するまではそっと見守ってもらえたら嬉しいです】
木兎光太郎公式アカウントから久しぶりに発信したのは、スーツ姿の俺が襟元からチェーンを引っ張り出して指輪にキスをする画像。一緒に載せた文章は、実は赤葦が考えたやつ。広報もチェック済みだ。
もしもの時には、とりあえずこういう文章を出そうねって二人で相談してた。プロポーズが成功したともしなかったとも書かないけど、相手がいることはちゃんと書く。下手に隠すよりもちょっとだけ情報を出したほうがいいからって赤葦が。
一応広報にも確認をして、今後取材とかで俺の結婚絡みのことを聞かれるときは全部会社のチェックを通すようにお願いした。たぶんこれでしばらくは大丈夫なはず
……
それに赤葦のことはいっさい出してないから、たとえ何か来たとしても俺の方だけだ。
「で、赤葦はいつ俺のプロポーズを受けてくれるの?」
ツムツムからもツッコミが入ったけど、この文章『これからプロポーズしますみたいなテイやけど、実は公開プロポーズやろがい!』ってさ、たしかに俺もそう思った。それにプロポーズじたいは指輪を作った時にしてる、でも返事はまだ。だからSNSに投稿したことはほんとのことなんだよね
……
。
『お相手の方はまだ仕事が楽しいそうなので、もう少し時間がかかりそうです』
「やっぱりまだダメかぁ
……
」
東京を拠点に仕事をしている赤葦は、何人かの担当作家さんを抱えてずっと忙しそうだ。その中でも入社したてのころから担当している宇内先生は俺も知ってるし、なにかと縁のある烏野高校出身でもある先生の漫画がヒットするのはすごく嬉しい。でも先生の漫画がヒットすればするほど赤葦は忙しいままだから、プロポーズは保留だし遠距離恋愛はもう少し続くっぽい。
『でも、とても嬉しかった。とのことです』
「へへ、よかった」
『それにここまで頑張れたんで大丈夫です、成功しますよ。だそうで』
どちらかというと〝大丈夫〟という言葉は今までは俺の方がよく使ってた。何のコンキョも無かったけど、とにかく大丈夫であってほしくて祈るみたいに使ってた時もある。だから赤葦の口から出てくる〝大丈夫〟は、ホンモノだ。
俺たちは大丈夫。
「成功するまでは何度でもプロポーズしちゃおうかな」
『お手柔らかにお願いしますね』
「どーだろ?」
『ふふふ』
電話の向こうで赤葦が笑う。お揃いの指輪にキスをする俺の画像を見ながら、しょうがないですね
……
みたいな顔をして笑ってるに違いない。
「愛してるよ、赤葦」
『俺もです、木兎さん』
俺のプロポーズは、まだまだ続く。
2025.5.8
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