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みずあめ
2025-05-09 01:22:01
3417文字
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brmy
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ゆづあい
付き合っていないゆづあい。
灯有、こうまおを一口分くらい含みます。
「城瀬、ちょっといいか」
「うん? どうかした?」
「皇坂が呼んでいる」
「逢さんが?」
キッチンで食器を洗っていた俺のところへやってきた有は「代わる」と言いながらシャツの袖を腕捲りした。いいよと言おうと思ったけれど積み重なった食器を見て言葉に詰まる。今日くらいはゆっくり楽しんでほしかったんだけど
……
。
「城瀬、俺も手伝うから気にせず行っていい」
「灯世
……
。でも、二人にはいつもたくさん仕事を頼んじゃってるし」
「気にするな。今日はいろんなやつと話した。少しだけ有と二人で過ごしたい」
「
……
と、いうことだから、気にするな。それに俺たちよりお前の方がよっぽど仕事量は多いだろう」
「いいの?」
「料理もまだ残ってる。食ってこい」
「
……
ありがとう」
エプロンを外してキッチンは二人に任せ、Aporiaのメンバーだけで溢れたホールに出る。今日は全員夕方で仕事は終わりにして、店に集まっての飲み会だった。芦佳さんがみんなに声をかけてくれたおかげで本当に全員で集まることができて、軽く見るだけでも部署を超えた交流ができているようで口角が緩んだ。本部の俺は他の人たちに比べたらみんなと会ったり話したりする機会が多いから一人でキッチンに入って料理や片付けをしていたんだけど、やっぱりみんなの顔が見られると嬉しい。
バーカウンターの中でお酒を作りながら飲んでいたミカさんがすぐに俺に気がついて、優しい笑みを浮かべ手招きをしてくれた。
「お疲れ様、由鶴。ほら逢ちゃん、来たわよ」
振り返ってそう言ったミカさんの視線を辿ると、そこにはカウンターに突っ伏している逢さんがいた。声をかけられてもピクリとも動かない。相当飲んだみたいだ。
「ちなみにここまで飲ませたのは私じゃなくて、あそこでニコニコしてる奴らだからね。文句と逢ちゃんの世話代の請求は、あっちにしてちょうだい」
ネイルの施された綺麗な指先がスッと指した先には吏来さん、樹帆さん、誓さんと明星がいて、俺はため息を吐くようにあぁと溢した。彼らの手元にはワインやウイスキーなど種類がバラバラのお酒があり、卓上に出ている瓶を見るにそのどれもが逢さんの好きな銘柄だった。断れないだろうなぁとその場を見ていなくたって分かる。
「逢さん、大丈夫ですか?」
カウンターの一番端の席で潰れている逢さんの側へ近づいた俺はそっとその肩に触れ、腕に埋もれている逢さんの顔を覗き込んだ。赤くなった頬にドキッとしていると逢さんがゆっくり目を開ける。
「
……
ゆづる」
「はい、由鶴です。お水飲めますか?」
「
……
みず、のむ」
「よかった。すみませんミカさん、お水頼めますか?」
「すぐに出すわ」
のろのろと体を起こした逢さんは俺をじっと見つめて、すわれ、と舌足らずに命じた。笑みを浮かべて逢さんの隣の椅子に腰掛け、ミカさんが渡してくれた水入りのグラスを逢さんの方へ滑らせる。
「どうぞ」
「ああ
……
。ふぅ
……
ねむい」
「ふふ。みんなとたくさん話せましたか?」
「ん
……
だけど、ゆづるがいなかった
……
」
「
……
今日はみんなにゆっくり楽しんでほしくて、裏方に徹していました。すみません。でも俺とはいつでも話せますから」
「おまえも、Aporiaの一員だ。
……
ごはん、ちゃんと食べたか?」
「あ、そうだった。ちょっと取ってきていいですか?」
「ゆーづる。はい、どうぞ」
「わっ
……
え! まだこんなに残ってたの?!」
後ろから声をかけられて振り向こうとすると、それより先に俺の前に料理の盛られた大皿が置かれた。残り物をもらえれば少しは腹の足しになるだろうと思っていたのに、予想以上にしっかりと食べられそうな量が盛り付けられていてつい声が弾む。
「まさか。キッチンから全然出てこないからみんなに食い尽くされる前に取り分けておいたの」
「恋くん
……
!」
「あはは、めちゃくちゃ嬉しそう。
……
ふ、陛下すごい睨んでくるんだけど。はいはい、もう戻りますって。お邪魔しました。あ、ちなみにまだこっちにも料理残ってるから、足りなかったらおいで」
「ありがとう
……
!」
「どういたしまして」
ひらりと手を振って去る恋くんを目で追うと、窓際の席に座る真央の隣へと戻っていった。こちらを見ていた真央も俺に手を振ってくれ、俺は笑みを浮かべて手を振り返す。ふはっと同時に吹き出して笑った二人が俺の後ろを指差すから首を傾げて振り向けば、むすっとした顔の逢さんが俺のことを見つめていた。
「逢さん
……
? どうかしましたか?」
「
……
なんでもない。由鶴、飲み物は?」
「お茶をいただいてます。今日は家まで送りますよ。だからアルコールはやめておきます」
「
……
一人で帰れる」
「俺が送りたいから、送らせてください」
「酒を飲まなくてもいいのか」
「お酒がなくてもみんなが一緒なら楽しいです。逢さんはもうお酒はダメですよ。でもずいぶん顔色が良くなってきましたね。お水、おかわりもらいましょうか」
「いい、俺のことはいいから、由鶴は自分のことを見ていろ。
……
このエビのやつ、おいしかった」
「よかった、ありがとうございます」
逢さんが感想を教えてくれたガーリックシュリンプを一つ食べ、その美味しさと数時間ぶりの食事に笑みを溢すと、隣で逢さんがふっと笑った。逢さんは肘をついて体を俺の方へ向け、まだふんわり赤い顔で俺のことを見ている。食事しているところをそんなにまじまじ見られると少し恥ずかしい。
「
……
えっと、俺はここで食べていますので、他の人と」
「ここにいる」
「そ、そうですか
……
?」
あまり見られると食べにくいんですが
……
。そう言えばいいのに、逢さんが俺を見てくれていること自体は全然嫌じゃないから困った。俺が逢さんの視線を独り占めしていていいのかな。
「
……
逢さん、まだ酔ってます?」
「酔ってない」
「
……
手、どうかしましたか?」
「手?
……
、
……
いつのまに」
フォークを持っている左手とは反対の、逢さん側でカウンターの上に置いていた俺の右手を、逢さんが片手で掴んで握りしめていた。酔っていないと言うけれどやっぱりまだ酔っているんだろう。驚いたように目を丸くして、だけどその手を離さないまま逢さんは呑気にパチパチと瞬きをする。俺はどうしてか掴まれていない左手まで動かせなくなっていた。
「あの
……
」
「水仕事をよくやっているわりに手荒れはしていないんだな」
「え、あ、ハンドクリームをできるだけ塗るようにしてて、
……
あ、逢さん?」
「ささくれてる。痛くないのか」
「だ、い、じょうぶ、です
……
」
なんだこれ、どういう状況だ。逢さんが俺の手を離す様子はなく、むしろぎゅっと指を絡めて繋ぎ、観察するように見ている。離してくださいと一言言えばいいだけなのに、やっぱりそれも、俺には言えなかった。
俺の手よりなめらかな肌はアルコールのせいか熱を持っていて、触れているところから溶けてしまいそうに気持ちいい。ぐらっと、思考が欲に眩む。
「由鶴、飲み物は
……
あら。お邪魔したわね。むこうで大河ちゃんたちと話しているから必要な時に声をかけてちょうだい」
「え、あ、ミカさん」
「逢ちゃん、酔ってからはずっと由鶴の話ばかりしていたのよ。甘やかしてあげて」
「へ
……
」
カウンターから出ていってしまったミカさんを呆然と見送り、振り返って吏来さんたちのテーブルを見ればわざとらしいくらいに全員がこちらに背を向けていた。明星の肩がぷるぷる震えているのを見てああもうと思う。
どうやらこの状況を打開してくれそうな人は周りにいないし、それに俺は自分からこの手を離そうとは思えない。あとで酔いが覚めた逢さんに怒られるかもしれなくても構わなかった。
「
……
」
「ふ」
逢さんに繋がれた手を俺からもそっと握ると、逢さんは嬉しそうに笑みを溢した。逢さんの指が動いて俺の指の間を撫で、離れるかと思ったけれどまたぎゅっと優しく繋がれる。せっかく恋くんが取り分けておいてくれた料理が目の前にあるのにフォークはさっきから全然動いていなかった。
慣れ親しんだ人たちの話し声が温かく響く店内の片隅、みんなが面白がって見て見ぬふりをするのを良いことに、俺は繋いだ手をそのまま解かずにいた。逢さんのこと、上司としてだけじゃなく、違う意味でも好きなんだと自覚するには十分すぎるほどの時間だった。
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