haru_haru0704
2025-05-08 18:37:33
6720文字
Public
 

ちょっと変な会社に就職しました

哥舒臨&カカロ×忌炎 全年齢

3人が働いてる会社に、僕(モブ)が入社して色々勘違いする話です

4月1日、月曜日。
僕は緊張で手のひらをびちゃびちゃにしつつも、無事にその建物へと辿り着いた。
その建物とは、とある高級マンションだ。
大学を卒業したばかりで、特段裕福な家の出というわけでもない僕がなぜ高級マンションを訪れたかといえば、それはもちろん。
そこが、今日から僕の職場だからだ。

スーツのポケットからスマホを取り出し、「職場」という名前で登録してある電話番号をタップして発信する。
耳にあてるとコール音が聞こえてきて、あっどうしようめちゃくちゃ緊張してきた。
なんて名乗ればいいんだろう。ええと、ええと・・・
「はい。株式会社夜帰です」
わたわたしている内に、電話がつながってしまった。相手は男性で、低く落ち着いた声をしている。
「あっえっと、モブです!今日初出勤で、今マンションのすぐ外にいて・・・」
「ああ、新入社員か。少し待っていろ、迎えに行く」

電話が切れてから3分ほど待っていると、マンションの中から長身の男性が現れた。彼が先ほどの電話の相手だろうか。
ぴっちりした白いタンクトップに、動きやすそうな黒いズボン。おまけに首には恐竜の牙のような形のペンダントを付けていて、なんというか、こう・・・オフィスで働く格好じゃない気がする。あとすごく、筋肉がムキムキだ。
あれ?僕が入社したのって土木系の会社だったっけ?
「お前がモブだな?俺は哥舒臨。まあ、細かい話は中でするとしよう。とりあえずついてこい」
「は、はい!」
ひとまず、哥舒臨さんの後ろについていく。
彼の髪は白く、とても長かった。そして、よくわからないところから黒いリボンが飛び出している。
いまいち用途が分からない謎リボンだ。おしゃれで付けてるのかな?

エレベーターで上層階に昇り、とある一室の玄関を通り抜け、少し廊下を歩いて、ドアを開けた先。
そこには机と椅子が綺麗に並べられ、パソコンも置かれていた。
こじんまりとしてはいるが、ちゃんとしたオフィスだ。よかった。ちょっと安心した。
「ここがオフィスだ。会社を設立したばかりでまだ社員が少ないから、暫定でこの部屋を使ってる」
「はい」
社員が少ないというのは、web面談の時に聞いていた。たしか、3人だと言われたはずだ。
面談をしてくれたのは忌炎さんという人だったから、忌炎さんと哥舒臨さんと、もうあと1人いるはず。
「社員は俺と、カカロと、忌炎と、それからお前。今のところはこの4人しかいない。カカロと忌炎は出かけていて今はいないが・・・まあ、そのうち帰ってくるだろう」

哥舒臨さんに言われるまま書類を書いたりパソコンの設定をしたりしていたら、あっという間にお昼になってしまった。
カカロさんと忌炎さんはまだ帰ってきておらず、相変わらず部屋に哥舒臨さんと2人きりの状態だ。
「モブ、昼飯はどうする」
「あ、えっと、持ってきてないのでお店に行こうかなと・・・」
「俺が作ったものでよければ、食うか?安心しろ、金は取らん」
哥舒臨さんはハハハと笑った。
今日出会ったばかりの人の手料理を食べるのは少し勇気が要るが、ここで断るのはもっと勇気が要る。とりあえず頷いておこう。
「食べます。ありがとうございます」
「おう。今日は・・・そうだな、炒飯でも作るか。食えるか?炒飯」
「食べれます。大好きです」
哥舒臨さんって、すごくワイルドな炒飯を作りそうだな。服装からしてワイルドだし。

そして15分後。
とても美味しそうな炒飯と唐揚げがのった皿が、僕の目の前に置かれた。
「ついでにこれも飲め。でないと、栄養バランスがどうのと忌炎が怒る」
哥舒臨さんは冷蔵庫から1リットルの野菜ジュースのパックを取ると、コップに注いでくれた。
忌炎さんって、健康に気を遣うタイプなんだ。面談の時の印象と合わせると、なんだか家庭的な印象の人だな。料理上手っぽい気がする。
僕は哥舒臨さんからスプーンを受け取り、「いただきます」と手を合わせてから炒飯を口に運んだ。
「・・・!おいしいです・・・!」
たっぷりの油と、たっぷりの塩気と、たっぷりの旨味が口の中で弾ける。
おいしい。ガツンと系の炒飯だ。卵も葱も叉焼もなんだかデカくてゴロゴロしていて、予想通りのワイルドな味わい。
「そうか」
哥舒臨さんも僕の向かいの席に座り、炒飯を食べ始めた。
一口がでかい。そして咀嚼は短い。ご飯食べるのめっちゃ速いタイプの人だ。
それから今気づいたが、ご飯の量がかなり多い。3人分くらいある。この人、たくさん食べるな。

昼食を終えた僕は、引き続き哥舒臨さんに面倒を見てもらっていた。
マンションへの入り方、パソコンの使い方、トイレの場所、勤怠のルール。覚えることがいっぱいだ。
哥舒臨さんの話を聞いたり、必死にメモを取ったりしていたら、もう16時になっていた。今日は1日が短く感じるな。
ふう、と溜息を吐くと、哥舒臨さんは僕を気遣うように笑った。
「疲れたか?一気に伝えたからな」
「はい、ちょっとだけ・・・」
「しばらく休憩するといい。俺は詳しくないが、キッチンに茶が・・・」
哥舒臨さんがそう言いかけた瞬間、玄関の方から物音がした。
誰かが帰ってきたようだ。
「ちょうどいい。どっちが帰ってきたか知らんが、あいつに茶を淹れさせるとしよう」
2人で少しの間待っていると、オフィス部屋の扉が開かれた。
中に入ってきたのは・・・忌炎さんだ。
「忌炎、茶を淹れろ」
「はあ・・・いきなりですね。構いませんけど・・・」

忌炎さんは香りのいいお茶と一緒に、クッキーを出してくれた。犬の形をした、かわいいクッキーだ。
「いただきます」と手を合わせてから、クッキーに手をつける。サクッと小気味いい音を立てながらかじれば、バターのいい香りがふわっと広がった。
お茶の方は、ほどよく渋みと香ばしさのある味だ。クッキーとよく合っているし、とてもおいしい。
「おいしいです!」
「そうか、よかった」
忌炎さんは優しく微笑んだ。なんだか、ほっと安心する笑顔だ。
哥舒臨さんが怖いというわけではないのだが、比較するとやはり忌炎さんの方が優しそうに見える。なんというか、哥舒臨さんはお父さんで、忌炎さんはお母さんっぽい感じだ。
ハッ・・・!もしかしてこの既製品っぽくないクッキーは、忌炎さんが手作りしたものだったり・・・?
「あの、忌炎さん。このクッキーって手作りですか?」
「ああ、そうだ。よくわかったな」
やっぱり。
こんなにおいしいクッキーが作れるなんて、忌炎さんはすごいな。

定時間際になって、また玄関の方から物音がした。最後の1人、カカロさんが帰ってきたのだろうか。
少し待っていると、オフィス部屋の扉が開かれる。中に入ってきたのは──鋭い目つきをした、強面の人だった。
「おかえり、カカロ」
忌炎さんが彼に向かって声をかける。やっぱり、この人がカカロさんか。
「ああ。ただいま」
カカロさんはちらりと僕を見た。真顔で、ちょっと怖い。
「・・・カカロだ。よろしく」
「へぁ、あっ!モブです!よろしくお願いします!」
いきなり名乗られて、変な声を出してしまった。なんとか返事をしたけれど、変な奴だと思われてしまっただろうか。
カカロさんは短く「ああ」と答えると、パソコンの前に座って何か作業を始めた。
・・・なんか妙な空気になってしまって居心地が悪い。そう感じているのは僕だけかもしれないが。
内心冷や汗をかいていると、室内にしっとりとしたメロディが流れ始めた。18時、終業のチャイムだ。
哥舒臨さんが椅子から立ち上がり、やや大袈裟に伸びをする。
「ふう・・・モブ、定時だ。もう上がっていいぞ」
「あっ・・・はい!」
僕はパソコンをシャットダウンし、机に置いてあったノートとボールペンを鞄にしまって、席を立った。
「お先に失礼します」
「おう」
「気をつけて帰れよ」
「お疲れ様」
3人に見送られながら、僕はオフィスを後にした。

*
出勤2日目。
哥舒臨さんから教えてもらった手順でマンションに入り、エレベーターで上層階へ。
オフィスの玄関のインターホンを押すと、少しして扉が開いた。開けてくれたのは、カカロさんだ。
「おはようございます!」
「おはよう」
挨拶を交わしながら玄関に入り、鍵を閉めて、靴を脱ぎ、廊下を歩く。
カカロさんは僕の前を歩きながら、「今ちょうど、湯を沸かしているところだ」と喋り始めた。
「お前も何か飲むか?コーヒー、紅茶、緑茶、ココア。今作れるものは、これくらいだが」
「えっと・・・じゃあ、紅茶でお願いします」
「砂糖とミルクは?」
「ミルク1個で大丈夫です」
「わかった」
些細な内容の質問に、些細な返答。特に大きなことが起こったわけではないのだが、僕はとても嬉しい気持ちになった。
昨日は、カカロさんってちょっと怖い人かも・・・などと思っていたが、勘違いだったかもしれない。少なくとも、意地悪な人ではないと思う。
ところで、カカロさんは何を飲むんだろう。やっぱりブラックのコーヒーとかだろうか。
カカロさんはそのままキッチンの方へ向かっていく。僕はいったんオフィス部屋の方に寄って荷物を置いてから、キッチンを訪れた。
「僕も手伝います」
「ああ。ありがとう」
僕はカカロさんの指示に従い、カップにお湯を注いだりティーバッグを入れたりといったお手伝いをした。
どうやら、4種類の飲み物をすべて1杯ずつ作っているようだ。・・・誰がどれを飲むんだろう。
紅茶は僕だとして・・・カカロさんがコーヒー、忌炎さんがココア、哥舒臨さんが緑茶だろうか?
そんなことを考えていると、カカロさんがカップのひとつを手に取った。ココアのカップだ。
スプーンでくるくるとかき混ぜてから、ふーふーして冷まして・・・あっ、飲んだ。ココアはカカロさんのだったのか。
じゃあ、コーヒーは哥舒臨さん?
「モブ、コーヒーを忌炎に持っていってくれないか?パソコンのある部屋にいるはずだ。哥舒臨には俺が持っていく」
「わかりました」
また予想が外れた。このブラックコーヒー、忌炎さんのだったんだ。ちょっと意外だ。
それで、緑茶が哥舒臨さんか。なるほど。

午前中の業務を終え、4人揃っての昼食の時間。
今日はカカロさんがご飯を作ってくれた。メニューは・・・なんだかすごい。豪華な和食の定食だ。
ごぼうのきんぴら、薬味がのった冷ややっこ、きゅうりの漬物、鶏肉とナスのみぞれ煮、お味噌汁、白米。
「デザートにリンゴもある」
リンゴもあるらしい。すごい。至れり尽くせりだ。全部無料で食べていいなんて、ちょっと罪悪感すら感じる。
僕は「いただきます」と手を合わせ、片っ端から一口ずつ食べていった。
・・・全部、おいしい・・・!
昨日の哥舒臨さんのご飯もワイルドでおいしかったが、カカロさんのご飯は上品なおいしさがある。どっちもおいしいし、どっちも好きだ。
まあ、健康的なのは圧倒的にカカロさんのご飯だと思うけれど。
「おいしいです!」と伝えると、カカロさんは軽く微笑んでくれた。

午後の業務も無事に終え、帰路につく。
夕方はまだ少し寒いな・・・と思いながら歩いていると、前方から忌炎さんが歩いてくるのが見えた。
忌炎さんは今日の16時頃、「外で打ち合わせが・・・」と出ていったきりだった。その打ち合わせが終わり、帰ってきたところなのだろう。
道中でスーパーに寄ったのか、長ネギが飛び出したエコバッグを手に持っている。やっぱりお母さんっぽい人だ。
いつか、忌炎さんが作ったご飯も食べられるのだろうか。ちょっと楽しみだな。
「お疲れ様です」と会釈をすると、忌炎さんは「ああ、お疲れ様」と会釈をしてくれた。
ちょっと立ち止まって、雑談でもしてみようか。
「夕ご飯の買い出しですか?」
「ああ。外に出たついでにな」
「今夜は何を作るんですか?」
そう尋ねると、忌炎さんは首を傾げた。
「・・・まだ決まっていない」
そうなんだ。食材の買い出しって、大体何を作るか考えながらやるものだと思ってたけど・・・料理上手な人だと、そうでもないのかな。
その後、僕は忌炎さんと一言二言交わして、そのまま別れた。
道を歩きながら、ふと疑問に思う。
忌炎さんって、あのマンションに住んでるのかな?カカロさんと哥舒臨さんも・・・?

*
出勤3日目。
昨日と同じようにインターホンを押すと、忌炎さんが扉を開けてくれた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
忌炎さんの後ろについて歩き、いつものようにオフィス部屋へと向かう。
すると奥の方の部屋から、上裸の哥舒臨さんが出てきた。なんで裸?
「忌炎、俺のシャツがない」
「はあ?知りませんよ。いつものところに無いんですか」
「そこに無いから聞いてるんだ」
・・・・・・。
やっぱり忌炎さんと哥舒臨さんってここに住んでるのか。
なんかちょっと、聞いちゃいけない会話内容な気がするのは気のせいかな・・・
僕はそそくさとオフィス部屋に入った。2人ともよく通る声なせいで、けっこう内容が聞こえてくるけど、聞かなかったことにしよう。
「もういい、ならカカロのを借りる。おい!カカロ!シャツ借りるぞ!」
駄目だ。声がデカすぎて全部耳に入ってくる。
「好きにしろ!」
カカロさんもどこか遠いところから叫んでる。
っていうか、やっぱりカカロさんもここに住んでるのか。
この3人で・・・?同居・・・?どういう関係・・・?

哥舒臨さんは朝から出かけたまま帰ってこず、3人での昼食になった。
カカロさんが作ってくれたおいしい料理を平らげ、食後のお茶を飲みながら──僕は探りを入れてみることにした。
「忌炎さんたちって、このマンションに住んでるんですか?」
「ああ。3人で住んでいる」
平然と頷く忌炎さん。そんな彼を、カカロさんが横目でちらっと見たのを僕は見逃さなかった。
表情はいつも通り冷静だが、その視線には「お前マジか」という思いがこもっていた気がする。
「へぇー3人で!仲がいいんですね」
僕はすっとぼけた返事をした。
もっと探りを入れたいところだが、まだ勤務3日目の身だ。あまり根掘り葉掘り聞くと、下世話な奴だと思われてしまうかも。今日はこのくらいにしておこう。

***
出勤4日目。
いつも通りインターホンを押す。今日も忌炎さんが扉を開けてくれた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
あれ?今日の忌炎さん、いつもよりラフな格好だな。
いつもはワイシャツをきっちり着込んで一番上のボタンまで留めているのに、今日は黒いVネックのTシャツだ。
だから、首が見えて──
「・・・っ!?忌炎さん、その首・・・!」
僕は驚きに目を見開いた。忌炎さんの首に、くっきりと歯形がついていたからだ。
その歯形の周りには、赤い斑点状の痕もある。これってもしかして・・・
「ん?・・・ああ、見られてしまったか」
忌炎さんは軽く笑いながら、手で首を覆った。
あんまり慌てていないように見える。気のせいかな。
「実は、俺と哥舒臨さんとカカロは恋人なんだ。3人で付き合ってる。これは昨日、2人につけられた」
「え・・・、えっ!?」
忌炎さんはさらりと、とんでもない発言をした。
いや、もしかしたらそういう感じなのかなと思っていなくもなかったけれど、いやでもやっぱり3人で付き合ってるってちょっと変だ。
「まあ、そういうわけだから。変なものを見せて悪いな」
「え、あっ・・・はい」

パソコンの前に座っているが、仕事が手につかない。まだ大した仕事もしていないから、多少ぼーっとしていても大丈夫ではあるけれど。
視界の端で、忌炎さんはパソコンに向き合い、何かの作業をしている。服はいつものワイシャツに変わっていた。
あの服の下に、もっとたくさんの痕がつけられているのだろうか。
そう思うと、ちょっと忌炎さんが可哀想になってきた。1人で哥舒臨さんとカカロさんの相手をするのって、とても大変そうだ。体力的にも精神的にも、振り回されそう。
今後、忌炎さんが疲れた様子だったら気遣ってあげよう。



──それから2週間も経たない内に、僕はいくつかの真実を知った。
ひとつめは、クッキーを作ったのはカカロさんだということ。
ふたつめは、忌炎さんが料理下手だということ。
みっつめは、振り回されているのは哥舒臨さんとカカロさんだということ。

・・・人って見かけによらないなあ。