【クラシエSS】夜中のクラシエのはなし

付き合ってるふたりのお泊りの夜

ねぇクラーク、と呟いた声は、天蓋に包まれたくらいベッドのなかで頼りなく揺れた。
呼んだ?」
ほぼ目が開いていない状態で返事を返したクラークに、シエロモートはぎゅ、としがみつく。
「何」
どうしたの、と言いながら枕元の電気をつけた手は、滑らかだった。ごく小さな声で目を覚ましたことといい、彼が幼いころから身体の弱い兄のそばに寄り添っていたことを証明するかのようなそのことに、シエロモートは少し嬉しくなる。誰かと誰かが仲良く過ごす想像は、彼を酷く幸福な気持ちにさせてくれる。
「具合でも悪いの」
そんなシエロモートの胸中を知らないクラークは、首筋や手首に手を当てて、様子を見た。特に異常はなさそうに思えて、改めてしがみついているシエロモートの顔を見る。それから小さく息を漏らした。
ほんとに、どうしたの?」
いつもは興味深そうにあちこちに視線を這わす翡翠色の瞳は、水壁の向こうにあった。まだ壁は決壊していないけれど、それも時間の問題だろう、とクラークは思う。
「言いたくないなら、別にいいけど」
そう言いながら、柔らかな頭を撫でれば「言いたくはないかな」とシエロモートが小さく、何かをこらえるように少しいびつな声で答える。
「そう。じゃあ聞かない。何かしてほしいことはあるの?」
ない、かな」
「そう」
短くクラークは答えて、それから触れるだけのキスをする。
君からなんて珍しい」
「いつもアンタがすぐするからね」
クラークの言葉に、シエロモートはぱちぱちと瞬きをした。いつの間にか瞳の表面には最低限の潤いだけが残っているだけになっていて、目を閉じても、何かが落ちることはなかった。
「えっ、つまり君も本当は僕とキスをしたいけれど、僕が先にしてしまうから、受け身になってしまうということ?」
したいとは言ってないけど」
「さっきは?したかったから、したんじゃないの?」
シエロモートの問いに、はぐらかすようにクラークは「どうだろうね」と答える。
「ほら、もう寝るよ。明日の朝こそきちんと起きてよね」
うん」
「青空が恋しいなら、早く寝て早起きしたらいいだけなのに」
ぽつりと零されたクラークの言葉に、シエロモートは「えっ」と声を上げる。
「気づいてたの?」
「別に」
「クラーク、あの」
「だから寝るって。話は明日の朝聞くから。はい、おやすみ」
ぱちん、と枕元の明かりが消される。
それから、細く長い腕が絡まるようにシエロモートを抱きしめた。
なるほどね」
「?」 
「次の朝に楽しみが待ってると、なんだか夜もワクワクするね」
そう、とクラークは言って、寝かしつけるようにトントンとシエロモートの背中を指で叩く。
リズミカルなそれを感じながら、幼い彼とそうやって夜を過ごしていたのは誰だったんだろう、とシエロモートはぼんやり考える。
明日の朝、聞いてみよう)
朝の光がカーテンの隙間から差し込むさまを想像しながら、彼はゆっくり眠りに落ちていった。