【クラルタSS】ひとつになることを考えるふたごのはなし

クラ←ルタ風味

俺とひとつになりたくない?と兄に問われた時、僕はその意味が全く理解できなかった。
「ひとつって?」
星空のもとでそう問えば、「ひとつはひとつだよ」とルタは掴みどころのない答えを返す。これは、なぞなぞか何かだろうか。
仕方なく僕は、ごく細く、切り落とした爪のような形になった月を見ながら考える。布は縫い合わせればひとつになるし、歯車は組み合わせればひとつになる。けれどいずれもひとつからふたつに戻すこともできる。それをひとつになったと言えるのかどうか。
もっと取り返しのつかないようなことだろうな、と兄を見ながら僕はまだ考える。金属やガラスは溶かしてしまえば、ひとつになる。絵の具も丹念に混ぜれば、色が混ざってひとつになる。あとは何だろう。ホットケーキだろうか。たまごと小麦粉とふくらし粉、それからお砂糖。ぐるぐるかき回せば、もうきっと元には戻らない。バターを溶かしたフライパンへ落とせば、なおのこと。そういうことだろうか。
けれどルタとそんなふうにはなれないな、と僕は思う。だって僕らは別々の生き物で、いくら手をつないだってその境目が崩れることはない。だからひとつには、なれない。仮になったとしてもそれはかちりと嵌め込んだ指輪のように一時的なもので、簡単に個に戻ってしまう。
僕はそう結論づけて、改めてルタの顔を見る。
「完全にひとつになることは、無理なんじゃないかな、とは思う」
ふぅん」
ルタはどこかつまらなそうに言って、星を見る。夜空もひとつに見えるけれど、けれどあれだって月や、たくさんの星たちが、たまたま紺色の場所にいるだけだ。きっとひとつの星がくしゃみでもしたら、途端にみんなバラバラになってしまう。
そう思ったのだけれど、寂しそうなルタの横顔を見て僕は少し焦る。そうだ、ルタはひとつになれるかどうかではなくて、ひとつになりたいかを僕に問うたのだった。
「えっとでも、ひとつになってみたいとは、思うよ」
僕の言葉にルタは顔を上げる。
「ほんとう?」
「うん。正直どうなったらひとつなのかは、良くわからないけど。でも、ルタと一緒なら、ひとつでもふたつでも、きっと楽しいと思うから」
そう言って手を繋げば(これはいずれふたつに戻るひとつの形だと思う)ルタは嬉しそうに笑ってくれて、自然と僕も嬉しくなる。それからふと、これもひとつに近いのかなと思った。ルタの心と僕の心が、すごく近くにあって、やわやわと混ざり合っているような。
それを伝えようと口を開こうとした途端、目の前がルタでいっぱいになった。
あまりに近すぎて、僕の目はルタの些細を何ひとつとらえられなくなる。バルコニーに設置されたライトに照らされた、ピンク色の髪とペールベージュの肌の色、そして睫毛のきらめきだけが視界を覆う。
「ん」
キスをしてる、と気づくのには、数秒を要した。ルタと唇を重ねたのは記憶にある限りはじめてで、その柔らかさと湿り気に僕は急にどきどきする。これは、恋人がする行為ではないのだろうか。肩や腰のあたりが温かくて圧迫感もあって、どうやらその理由はルタの腕のようで、僕はにわかに混乱する。ルタはこれをひとつになっていると思っているんだろうか。スクレーパーでも挿し込めば、あっという間に剥がされてしまうのに。それでも僕にすがるように身体を押し付けてくるルタが愛しくて、僕は強く抱きしめ返す。
結局のところこの行為に永遠はなく(だってこのままじゃ食事もできない)いつかは離れるしかないのに、それでもひとつだと錯覚してしまいそうになるのは、何故なんだろう。
「クラ」と唇を離したルタが僕の名前を呼んで、肩に顔を埋めた。僕は、僕と何も混ざり合っていないルタールステラというひとりを、ぎゅうと抱きしめる。
「俺はもうずっと、クラとひとつになりたいんだ」
そう、と言って僕はルタの頭を撫でる。ひとつになったら僕の腕はたぶん僕だけの腕ではなくなってしまう。そうなったときに、果たして僕は僕のままこうしてルタの頭を撫でられるのだろうかと、そう思った。