【ロドクラ小説】まだ何も始まっていないロドクラのはなし

一問一答の後ぐらいの話/捏造いろいろ

――で?ここでエネルギー切れを起こしたってわけか」
クロードの言葉に、クラークは苦々しい顔をして「そう」とだけ答える。クロードが騎士見習いを務めるこの国の端に墜落している何かがある、と一報が入ったのは夕方のこと。陽が落ちる前にと慌てて向かえば、そこには隣国の騎士が飛行船の隣で不機嫌な顔をしていた。
「珍しいな。心配性のお前がエネルギーをちゃんと積まないなんて」
積んでたんだよ。でもシーズの襲撃を受けて、それでひとつエネルギータンクが壊れたんだ」
え、とクロードは目を見開く。そんな情報は入ってきていない。
「シーズ?」
「とっくに浄化したけどね。本当、治安どうにかしてよ」
クラークはそう言いながら、撮影したというシーズの写真やサイズ感などの分析結果をクロードのタブレットに共有する。
そりゃ悪かったけど。え、この量をひとりで浄化したのか?」
「ひとつずつは大したことなかったから。それより、飛行船ここに置いておいてもいい?お城に連絡したら、早くても明日の朝にならないと来られないみたいで」
エネルギータンクを持ってきてもらったら、すぐに飛び立つからと言われてクロードはあわてる。
「え――あ、あぁそれはいいけど。え、お前は今夜どうするんだ?」
「? 飛行船の中で過ごすよ。二、三日泊まれるぐらいのものは積んでいるし」
「え
果たしてそれでいいんだろうか、とクロードは思う。仮にも一国の騎士を、ほぼ野宿に近い形で放置するのはやはり気が引ける。
「え、あの――どこか宿屋を紹介するから
「いらない。君のとこの宿屋、どこもうるさそうだし」
「おい」
一応声を出したものの、まあそうだよな、とは思う。この国の宿屋はたいてい1階や地下が飲み屋や定食屋になっていて、夜遅くまでにぎやかな声が響いている。
じゃあ城のゲストルームに
「さすがに事前連絡もなくそんなことはできない」
どこかの非常識な騎士とは違うから、とにべもなく言う。
「でもその」
「だから飛行船の中でいいって。明日お城の人が来たら勝手に行くから。わざわざ来てもらってその、悪かったけど」
それじゃ、と言って力なく倒れている飛行船の中に彼は入ろうとする。けれど少しかしいでいるそこは、あまりに居心地が悪そうで、クロードは「なぁ」と声をかける。
――俺の家、来るか?」
は?」
「食料とかは積んでるかもしんねえけど、さすがにシャワーとかはねえだろ。たいして広い家じゃねえけど
いや、でも
「さすがにここに放置するわけにはいかねえよ。主にもウィルメッシュにもきっと怒られちまうし」
俺のためにも、とクロードに言われて、クラークは渋々、というように頷く。
「じゃあ
「よかった、こっからそんなに離れてねえから。着替えとか歯ブラシとか、積んでるんだろ。持ってこいよ」
行こうぜ、と明るく言ったクロードに、戸惑ったようにクラークは頷いた。



へえ、とクラークは小ぢんまりとしたクロードの家を見回す。
そんな珍しいもんなんて、ねえと思うけど」
「いや――人の家に入ったのって、初めてだから」
「へ?」
そんなことあるのか、と聞きそうになって、クロードは口をつぐむ。そういえばちょっと前に、物心がついたときにはすでに騎士をやっていた、と聞いたことを思い出す。友達だとか親戚だとか、そういう存在はいないのかもしれない。
国民の家、とかは行かねえのか」
「行かない。君は行くの?」
「いや——行かねえか」
それもそうか、と言いながらとりあえずスツールを勧める。ごく小さな家にはソファを置く場所もなかった。キッチンがついたリビングにあるのは、小さめのダイニングテーブルと、コンパクトなスツールが2台。もう一部屋には本棚と机と、ベッドがあるぐらいで、城で暮らす彼の部屋とはずいぶん違うんだろうな。と、そこまで思って、あ、と思う。
家に呼んだはいいけど、どこで寝てもらうんだ?)
生家にはゲストルームがきちんとあったし、ベッドとしても使えるほどの大きなソファがあった。なんとなくそのイメージで気軽に家に誘ったものの、何ひとつ考えていなかったことに気づく。自分がそうであったように、クラークもあまり何も考えていないんだろうなとは、簡単に予想がついた。人の家に来たことがないという彼は、きっとここがベッドをひとつしか有していない家だとは、思ってもいないだろう。
何となく居心地が悪そうに小さなスツールに座るクラークを見ると、すぐに鋭い目を向けられる。
「何」
「いや――
伝えたら彼はきっとため息をついてすぐ飛行船に戻ってしまうんだろうなと思うと、何かが惜しい気がする。いったん保留にして、それからキッチンに目を向けた。
「夕飯、何食う?」


「料理、上手いんだね」
意外、と失礼なことをしゃあしゃあと言いながら、クラークはクロードの作ったチャーハンをぺろりと食べた。
「辛くなかったか?」
「このぐらいは大丈夫。美味しかった」
ご馳走様と言って自然と食器を洗う姿を見て、クロードは「へえ」と声を上げた。
何?」
「そういうの、やらなさそうなのに」
「やるよ。当たり前でしょ。僕のことなんだと思ってるわけ」
主と兄と国民に甘やかされまくってる城育ちのお坊ちゃま、と口に出したら本気で怒られそうなことを思いながら、クロードは、いや、と言う。
「えーと、シャワー浴びるか?着替え持ってこいよ」
「あ、うん」
タオルは貸し出すことにしてシャワーブースに案内すると、クラークは目を真ん丸にした。
……どういうこと、シャワーしかないけど……
「あ?バスタブがねえってことか?」
……うん……
どうやら彼にとってその場所はひどく信じられない空間だったらしい。まあ確かにシャワーブースだけの家は珍しいのかもしれないけれど、例えばスポーツジムなどには普通にある光景ではないのか。と思ってから、あのふわふわした国にはスポーツジムはないか、と思ったりもする。
何で?」
「何でって……別に、湯船に浸からなくたって、身体が洗えれば十分っていうか
「へえでも寒くないの?」
「まあ、冬は寒いかな」
えぇ、と彼は困惑した顔をする。寒いのにどうしてバスタブをつけないの?と。ものを知っている風をかもし出しているのに世間知らずな一面がなんだか面白くて、クロードは苦笑する。
「いいからシャワー浴びろよ。石鹸はそれで、シャンプーはそこ」
せっけん
「さすがに知らねえってことはねえだろ」
し、知ってるし。じゃあシャワー借りるから、向こう行っててよ」
へえへえ、と言いながらシャワーブースを出て、さてどうしようか、と思う。ベッドにふたりで寝ころぶ姿を考えて、いややはり無理なのでは、と考える。例えば小柄なミュンナやシエロモートとであればギリギリ眠れそうな気もするけれど、どう考えてもあのサイズが自分と一緒に横になれるとは思えない。
(ま、寝る時は飛行船に戻ってもらうか)
中は全く見ていないけれど、それなりの広さがあるように思えたし、用意周到の彼のことだから、寝袋だのブランケットだのは積み込んであるのだろう。逆に面倒なことになっただけだ、なんて文句は言われるかもしれないが、まあ夕食を作ってシャワーを使わせたのだから、最低限の義理は果たしただろう。
ドアノブをひねる音がして、クロードは顔を上げる。そしてしばし、彼をぽかんとして見た。
何」
濡れた髪をタオルで拭いながら出てきたクラークは、ゆったりとした白いシャツに着心地の良さそうな紺色のショートパンツを履いている。暑いのかシャツは首元のボタンが数個外されていて、ふだんとは全く違う雰囲気だった。つぅ、と濡れた髪から流れた水滴が鎖骨にたまる。
目のやり場に困って、クロードは明後日のほうを見る。
「やえ、それパジャマ、か?」
「パジャマっていうか、部屋着」
へぇ、とさして意味を持たない相槌を打って、もう一度横目で髪をタオルで拭っているクラークを見る。普段よりも短い丈のショートパンツからはひょろりとした長い脚がのぞいていて、白いシャツは少し薄手なのか、透け感があった。
………
あの格好で、外を歩かせて、飛行船の中で眠らせる?もちろん飛行船はきっと鍵がかかるのだろうし、そもそも彼は騎士なのだから何かあっても対応できるのだろうし。けれど。
(さすがに、駄目だろ)
無防備な鎖骨や太ももを見て、クロードはため息をつく。いつものふわふわとしつつもかっちりとした衣装を身にまとっている人物とは全く違う人間に見えて、落ち着かない気持ちになる。
……何でちらちら見てくるの?」
「あっ、いや
慌てて目を逸らして、それからやはり言わなくてはと心に決める。
あのさ、うちベッドがひとつしかなくて」
「は?」
「一応見るか?」
そう聞いたのは、クラークが万が一にも「この広さならふたりで眠れるじゃない」と言うかもしれないという期待だった。兄との距離が近い彼なら、誰かとくっついて眠ることに抵抗がないのでは、という。
けれどその部屋を見たクラークの反応は、もちろん冷たかった。
僕飛行船に戻る」
「いやいやいや!平気だって!ふたりで眠れるから!」
「無理でしょ」
「いや、意外と寝てみると広いんだって!それに俺基本的に寝返りとかしねぇし!」
明らかに嫌悪感を顔に浮かべたクラークに、クロードは畳み掛ける。
「本当に嫌なら俺はリビングで寝るから!」
なんで家主を追い出さなきゃ駄目なの?だったら僕がリビングで寝るけど」
「いや、それはさすがに!」
「じゃあ飛行船に戻る」
あぁもう、とクロードはクラークの白くて細長い脚から目をそらすように言葉を繋げる。
「いっ、一回だけっ」
「は?」
「一回横になって、それでふたりで眠れるか、確認してみればいいだろっ」
なっ、と言えば、クラークは明らかに戸惑った顔をした。クロードと一緒に横になる所を、想像したのかもしれない。
クロードは素早くベッドに乗ると、できる限り幅を取らないよう身体を真横にする。
「ほら、お前も」
「えぇ
クラークは明らかに嫌な顔をしながら、それでもクロードの横に身体を横たえた。
狭い」
「そんな端っこにいるからだろ。もっとこっち来て
言いながらクロードは顔を上げて、そして不満げなその顔を真正面から見た。
……何?」
いつもは見上げているその顔を近くで見たのは、初めてだった。睨むような瞳に月の光のような黄色が浮かんでいる。
いや、とクロードは呟く。
「お前の目って、綺麗なんだな。夜空みたいだ」
「は?」
「あ、いや……
クロードは慌てて目を逸らし、「なっ、ふたりで寝れるだろ」と声を掛ける。
「いやでも狭
「俺もシャワー浴びてくるな。あ、あとで甘い菓子も出すから」
え、とクラークが少し嬉しそうな声を上げる。
「赤の大陸から時々届くんだよ。たくさんあるから、もし欲しかったらお土産に持って帰ってもいいし」
うん」
早々にお菓子で懐柔されたクラークを見て、じゃあ、とクロードはシャワーブースへ向かう。ふと思い立ってベッドルームの方を振り向けばきれいな脚が見えて、なぜだかクロードは深いため息をついた。