【クラルタ小説(R18)】魔力を溶かすクラルタのはなし2/4

特殊設定あり/恋愛関係になる前のキス以上の行為あり/※ここだけ年齢制限なしです…。

あの熱の日からしばらくたって、ルタはもうすっかりいつも通りになっていた。優しくてやわらかくて、僕のことを甘やかしてくれる兄に。
けれど、ふたりですることは少しだけ変わった。
「クラ、キスして」
ん、とルタに唇を向けられて僕は自分の唇を合わせる。当然のようにルタの口の中に舌を入れ込みながら、刺激の度合いをじっくり確認する。熱があったときに強く感じたほどの刺激は、どこにもない。
(まだそこまで、固まってはいないみたい)
良かった、と安堵しながら少しでもリスクを緩和したくて、僕は丁寧にルタの口の中を舌でなめとっていく。ほとんど刺激を感じなくなるまで、あちこちに舌を這わせた。
「大丈夫そう」
口を離して僕がそう言えば、ルタは「ふふ」とうれしそうに笑った。
「良かった。今日はちょっと、疲れちゃっていたから」
そう言って僕の肩に頭を乗せる。かわいいな、と思いながら僕はその頭に自分の頬を押し付けた。
(確かに、ちょっと疲れたかも)
ルタの頭の重みを肩に感じながら、僕は機械仕掛けの馬車内につけたモニターを見る。表示されているマップを見るに、帰るべき城まではまだまだ遠い。普段あまり行けない国の端で行われた会議は充実していたけれど、それでもこの距離と多かった議題に、疲労は否めない。
「寝てていいよ。お城の近くまで行ったら起こすから」
「でも」
「疲れたときは、無理しない方が良いよ」
心配そうにこちらを見るルタにブランケットを渡した。馬車の中は長時間の移動でも快適に過ごせるよう、床に低反発のマットを敷き詰めている。たくさんのクッションも柔らかいブランケットも準備しておいているので、もはや移動式のベッドのようなものだった。僕はそこに座ったままモニターを操作して、馬型の機械に異常がないことを確かめる。自動運転にしてあるので基本的に放置していても問題はないのだけれど、それでも心配でつい外の様子や速度などを何度も確かめてしまう。
「クラは寝ないの?」
「んー眠くなったら少し寝るかも」
馬車のエネルギー残量や道中の天気などをモニターに表示させながら言えば、ルタが「もう」と声を上げる。
「そんなの見てたら、全然眠くならないでしょう?」
”ぶるーらいと”っていうんでしょ、とルタに言われて僕は苦笑する。機械に弱い兄がどこでそんな言葉を知ったんだろうと思いながら、言われるがままにモニターから目を離した。
「ねえクラ。もう一回、キスして」
うん」
これはあくまで確認と治療の一環のはずなのだけれど、ここのところの僕はルタとキスをしているとどうしても心地良さを覚えてしまう。最初は痛みすら覚えていたパチパチとした刺激にも少し慣れて、もしかしたらそのうち僕からキスをねだってしまうのではないかとすら思う。
「ん
さっきは僕の舌をルタの口の中に入れたけれど、今度はルタの舌が入り込んできた。あちこちを舌でなぞるようになめられて、くすぐったくなって僕は少しだけ笑ってしまう。
本当にクラの口の中って、気持ちいい」
唇を離してルタが言い、僕は首をかしげる。この間も「冷たくて気持ちいい」と言っていた気がしたけれど、それは熱があるからだと思っていた。
「そうなの?」
「うん。なんていうのかな。しゅわしゅわってする感じがする」
「しゅわしゅわ
いまいちピンと来なくて、僕は自分の舌で自分の頬の内側を触ってみる。しゅわしゅわ、ともう一度呟けば、ルタが楽しそうに笑った。
「俺もクラが前に言ってたパチパチ、って言うのがよくわからないから」
そっか、と僕は言って、それから髪をほどいてごろりと横たわったルタの頭を上から撫でる。比較的大型の馬車は、僕たちふたりが寝そべっても余裕がある。それから無意識にモニターを見ようとして、慌てて目をそらした。またルタに怒られてしまう。
特にやることもなくなって、僕は座ったままルタの髪を撫で続けた。
クラはあんまり自分からキスをしてって言わないよね」
ぽつりと言われた言葉に、えっ、と僕は聞き返す。いつかキスをねだってしまうのではないかと心配していたような、そんな心の中を見透かされたような気がして、ルタの顔を見る。ルタはぱっと両手で顔を隠した。
――ごめん、何でもない」
どうしよう、と僕は表情が見えなくなってしまったルタを見下ろして、あ、そうかと思う。いくら体調管理のためとはいえ、自分からキスすることを提案するのはやっぱり勇気がいるはず。ルタは優しいから、きっと僕の忙しさだとか気分だとか、そういうものを気遣ってしまうんだろう。
「ごめんね、僕からもちゃんと言うようにするね?」
僕がそう言うと、ルタは指の隙間からこちらを見た。
ちゃんと?」
「うん。あっ、でもそれより時間とか決めておいた方がいいのかな。例えば朝ごはんの前とか、おやつの後とか。そっちの方が変化も分かりやす――
「クラは、俺とキスすることをどう考えてるの?」
あれ、と嫌な予感が僕の背中をつつく。多分、ルタと僕の考えていることがきっと違うんだということは、なんとなく理解した。けれど何が違うかが、いまいち僕にはわからない。
どう、っていうのは
「嫌なの?」
じっと指の隙間からルタの目に見つめられて、僕はひどく慌てる。
「嫌じゃないよ!」
「でもだったらどうしてそんな義務みたいに
呟いてからルタは、「ごめん」と言ってごろりと僕に背を向ける。
俺、やっぱり疲れてるみたい。ちょっとだけ寝るね」
「えっ」
やだ、と僕は子どもみたいにルタに覆いかぶさるようにして顔を近づけた。
「ルタが何考えているか、教えて」
お願い、と言えば、ルタはむくれたような顔をする。
クラはずるいよ」
「ずるくていいよ。僕が悪くていいから、ルタの本当の気持ちを聞かせて」
ほんとにずるい、とルタは呟いて、さっきまで顔を覆っていた手を僕の頬に添わせる。
ルタはじっと僕を見上げて静かに深呼吸をひとつしてから、口を開いた。
「俺はクラのことが好きなんだよ。だから、魔力とか治療とか関係なしにキスがしたいし、ずっとそばにいてほしい」
へ?」
僕は間抜けともいえるような音を吐き出す。瞬きを繰り返せば、そのたびにルタの顔がどんどん赤くなっていく。
「えっ?」
多分、どの言葉も今までに言われたことがあるような気がした。好きっていう言葉は繰り返し僕らの間を飛び交っていたはずだし、そばにいてほしいという言葉だって何度も言われた。キスがしたいという言葉も、ここ最近ではあるけれど、出ているはず。でも。
「クラは、でも、違うでしょう?」
「え?」
「俺の好きとクラの好きの意味は違うし、キスする意味だって、そばにいることの意味だって、きっと違う」
だから、とルタは少し苦しそうに言った。
「このままでいいから、でもキスだけはして」
そのままぐい、と顔を近づけられたと思ったら舌を差し込まれて、僕はすぐそれに気づく。ルタの口の中が、強い刺激で満ちている。
ルタ、と名前を呼ぼうと思うけれどルタの舌が僕の舌に絡みついて、それができない。このままだとまたこの間みたいにルタが熱を出してしまう、と思いながら僕は抵抗できないままその刺激を享受する。ルタは、僕との間に違いがあると言っている。けれどそもそも僕はルタが言う意味が分からないのだから、比べようがないと思った。分からないことばかりでどうしていいか判断できなくて、それでも悲しいはずの刺激が心地よく感じてしまう。
「ルタ」
一瞬舌が離れた隙をついて名前を呼べば、ようやくルタの手が緩んだ。
聞きたくなかったでしょう。こんなこと」
「そんなことない」
僕はそう言って、ルタを見下ろす。この間のようにルタが、何かにおびえる小さな子のように見えて、なぜだか泣きたくなる。ルタの身体と心と、どちらのケアを優先すべきかわからないまま僕は自分が欲しい方を選ぶ。
「そんなことないから、ルタの気持ち、ぜんぶ聞かせて」
ルタは僕の目をじっと見る。
「分からなくてごめん。でも僕はルタの気持ちをちゃんと知りたいから」
ルタは、うん、と小さく頷いた。


馬車の中は心地よい揺れと小さな機械音で満ちている。僕はルタの隣に体を横たえて、天井を見つめた。有事の際は移動型の要塞としても使えるようにと作った馬車の天井は、鉄板とボルトがむき出しになっている。僕はこの天井をもっと見栄え良くできないかな、と考えながらルタの言葉を待った。綺麗な布やタイルで覆うのもよさそうだし、星屑を敷き詰めてみるのもいいかもしれない。
俺は」
ふと小さくルタがつぶやいて、うん、と僕は無意味な相槌を打つ。
「クラのことが好きで」
うん」
「それは家族としてではなくて」
そう言ってルタはふう、と深く息を吐く。
「恋人、みたいにキスをしたり永遠を誓ったりしたい」
うん」
「そして、クラには別の誰とも、そういうことをしてほしくない。俺だけにしてほしい。……俺の気持ちはこれだけ。おしまい」
「うん
僕は天井を見つめたまま、相槌だけを打つ。ルタが正直な気持ちを言ってくれたからには、僕もきちんと言わなくてはいけない。天井から目線を外せば、ルタは両腕で顔を隠していた。えっと、と言えばルタは腕を外して、こちらを見てくれる。
僕は僕なりにルタのことが大好きだし、えっと、キスも気持ちいいと思うし
ん」
「でも、家族としてとか、恋人としてとか、そういうのはまだよくわからない」
ごめん、と言えばルタは「いいよ」と言って少し笑った。それから、「そうだなあ」と無機質な天井を見る。
例えば俺が別の誰かとキスしても、良いと思う?」
「えっ?」
「クラじゃない誰かとキスして、一緒に寝て、どこかに出かけても平気?」
「そんなの嫌だ
想像しただけで信じられないほどの嫌悪感が沸いて、僕は子供のようにルタにしがみつく。
「俺がそれを幸せだって言っても?結婚したいほど好きな人がいるって言っても?」

僕は言葉に詰まる。自分の甘えやわがままとルタの幸せと。どちらが大事かなんて分かっているはずなのに。正解の言葉は分かっているけれど、でも言いたくない。
「本当のこと言って」とルタに促されて、僕は渋々口を開く。
……無理強いはできないからちゃんとおめでとうとは言う。一応。でも絶対うれしくないし、すごく嫌だし、相手のこともたぶん許さないし、そんなやつと仲良くしたくはない、と思う」
口に出せばあれもこれも嫌だとごねる子どものようで、僕は酷く恥ずかしくなる。こんな時ルタならきっと「クラの幸せが俺の幸せだから祝福するよ」なんていう正解の言葉を言うんだろうなと思いながら。
ふふ、とルタは笑った。
「嫌なんだ」
嫌だよ」
そう、とルタは言って僕の頭を撫でる。子どもじみた非倫理的なことを言ったであろう僕をどうして褒めるようにするのか、そしてうれしそうな顔をするのかが分からなくて、僕は首をかしげる。
「じゃあ今のところそれでいいよ」
ルタはそう言って再び天井を見る。
え?それでいいっていうのは?」
「クラはそのままでいて。分からなくてもいいよ」
そう言ったルタはどこか幸せそうで、僕はますます首をかしげる。さっきの話のどこにルタを納得させるものがあったのかはよく分からない。けれどルタの笑顔が柔らかくて、まあいいか、なんて思ってしまう。そして、ふと、本当にふと、ルタとキスがしたいと思った。
ねえキスしてもいい?」
そう問えばルタは嬉しそうに笑った。
「俺がさっき色々言ったから、気を使ってるの?」
「違う。ほんとうにしたいだけ」
いいよ、と言ってルタが目を閉じる。唇同士をくっつけるだけのキスをしながら、僕はルタの頬を撫でる。それから、この頬を誰かが触る想像をして顔をしかめた。それはひどくひどく嫌な想像で、この先、僕以外の誰にも絶対に触ってほしくないと、強く思った。