haruon1018
2025-05-07 15:48:59
1947文字
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抱っこは卒業してください

犬のmr君と若手実業家のtksgさん
mr君の犬度はお好みで

 前略、高杉晋作は熊と遭遇した。
 赤い毛並みと今にでも襲いかかりそうなそれは小柄な女性に抑えられており、辛うじて高杉に襲いかかっては来ないが、獰猛な瞳をギラつかせ牙を剥いている。
「やぁ森君久しぶり、大きくな、りすぎじゃない、もう熊じゃん」
「何を云うか勝蔵は犬だと何度も云っているじゃろ、おーよしよし可哀想に」
「待て信長公、今離すのは危険……
 最後の言葉を言い切る前にリードを解き放たれ自由になった森は高杉に突進してきた。
「はっは、勝蔵そうすぐにじゃれるな、茶くらいは出さないとネ」
 ゆっくりして云ってねのリズムで信長はリビングへ誘うが、森は高杉にのしかかったまま離れない。
「森君、もう抱っこは無理だぞ」
 半年前、信長との接触に成功した高杉はあの手この手で自分優位な交渉を成立させようとしたが、惨敗した。
 そもそも若手実業家の高杉と大物実業家の信長では経験の差がありすぎる。
 今回は痛い勉強代だとため息をついているところに「おぬし犬好き?」と慰めるように信長は写真を見せてきた。
「ヤンキーと熊?」
「おぬし目大丈夫、どう見てもプリティーなワシとラブリーな犬が戯れいる写真じゃ」
 水鉄砲をかかえヤンキー座りする信長と捕らえられた小熊にしか見えないが、何を言っても無駄なことを知っている高杉はとりあえず認めた。
「いやね、そろそろ勝蔵も人慣れしないとと考えておってな、じゃがこのキュートな姿じゃ欲しいと強請るヤツがおるかもしれん」
「キュート……
「かー! おぬしには勝蔵の魅力が分からぬようじゃ、よし合わせてメロメロにさせてやろう」
 好きか嫌いかの答えなど最早不要と数時間後、高杉は熊ではなく森と初対面した。
 結果から云えばまぁ可愛いとは思う程度には高杉は森を好きでいたが、それ以上に森に懐かれた。
 一度抱えてみると良いと信長に云われ、抱っこしたら最後帰る寸前まで森が高杉が離れることがなかった。
 信長に返して帰ろうとすれば、抱えられこそしたが威嚇し最後に頭くらい撫でて機嫌を取ろうとすれば、危うくスーツが世紀末になるところだった。
 後からネットで調べれば森の身長と体重は三歳児と同じくらいで、それを華奢な高杉が半日抱えているのだから翌日、筋肉痛で休んだのも無理はない
それから半年、半年しか経っていないはずなのに森はあの時の三倍はデカくなっていた。
「森君、そろそろどいてくれないか……
 みっちりがっちりホールドされて身動きが取れないぞと云っても、犬は人間の言葉が分からないという顔をする。
 森が人間の言葉を理解しているのは信長の「うちの勝蔵天才じゃない」という親馬鹿ぶりと半年前の経験で分かっている。
「もしかして抱っこしてほしいとか、無理だろ、もうデカいから、さぁどいてくれ」
 押し返してもびくともしない森に高杉は説得するが、森は鼻を鳴らしたあと高杉の顔を舐めただけで、動こうとしない。
「何やってるの、勝蔵、部屋まで高杉を連れてこい」
 状況を察した信長はため息をつくと森に言葉を投げかけた。
 流石に飼い主に命令されては逆らえないのか森はのそっと身体を離すと高杉の袖を引っ張った。

 その後も抱っこを要求されたので高杉は信長の許可を得て、柱に線を引くと森を柱に立たせた。
「いいか森君、この前の君の身長はこの辺、君はここだからもう君を抱っこすることは出来ない」
 三倍の差をバンと叩いて森に教えたが、犬だから人の言葉を理解しないという表情を森は見せた。
「甘えても無駄だ、君を抱っこしてみろ僕の腰が今度こそ死ぬ」
 だから理解してくれと高杉がしゃがんで森の目を見て説得すると、森はゆっくりと四つ足で柱の前に立つとフンと鼻を鳴らした。
「確かにその格好なら三歳児と同じだが、面白いな、君……
 仕方がないと一度だけだぞと抱えたら蹌踉めいた高杉だが、運良くソファーがあり助かったが、衝撃で森の唇と高杉の唇が重なった。
「おい……ワシの勝蔵にチューするとは良い度胸じゃな」
「事故だろ……というかさっきも顔を舐められたんだけど」
「は~! 惚気か、勝蔵はまだ一歳なのだぞ、節度を持って貰わないとネ」
「一歳……でもまぁ犬猫の成長は一年程って聞くし」
「勝蔵まだまだ赤ちゃんだぞ、五歳まではノンストップで成長する」
「嘘だろ」
「本当、五歳になったら婿にいや、おぬしが花嫁になれそれで許す」
「娶られる気ないからね」
 今で悲鳴を上げているのに、これからまだまだすくすく成長するのかと思うと高杉は恐ろしくなった。
 流石に二歳になれば、三歳になればと月日が流れても森の抱っこ癖は直らずというよりその頃には高杉が抱えられる側に回っていた。