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夢篠
2025-05-07 03:57:37
2953文字
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螢籠と夜二人
病弱な娘と雑渡昆奈門
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
両手が塞がっているから障子が開けられなくて、訪いの挨拶に返事があった後、足を使った。そうしたらゆっくりと起き上がってその様子を目にした
ナマエ
が零れ落ちそうなくらい大きな瞳を丸くして「まあ、行儀の悪い」と笑った。
「良いの~。私は組頭だから」
「もう、言ってくだされば開けますのに」
無理のある言い訳に苦笑する
ナマエ
が立ち上がろうとするのを押し留めて再度後ろ足で障子を閉める。今夜は開け放っていては駄目なのだ。それに、
ナマエ
には安静にしていて貰わなければ。
「熱は下がった?先日は見舞いに来れなくて悪かったね」
「もう、すっかり良くなりました。昆奈門様はお忙しい方なのだから私の事なんて気になさらないで。尊奈門さんや高坂さんをお見舞いに遣わせてくださるのは嬉しいけれど、ご迷惑になるでしょうし
……
」
困ったように笑う
ナマエ
は、生まれた時から身体の弱い、私の想い人だ。彼女は儚くて私のような人間が触れたら、それだけで消えてしまいそうな娘だった。いつからかは分からないけれど、ずっと彼女の事が好きででも、怖くて触れられなくて、こんな児戯のような逢瀬を続けている。自惚れかも知れないけれど、
ナマエ
も私の事をきっと、想ってくれている。それでも私たちは結ばれないだろう。
ナマエ
の病がちな身体は、私が彼女を貰い受ける時の大きな障壁となった。
「良いんだよ。凄く癪だけど尊奈門も陣左も
ナマエ
に会いたいと進んで手を挙げるのだから。正直嫌々行かせるくらいなら私が来たいのだから、それを忘れないで欲しいな」
ナマエ
と視線を絡ませると、彼女の白い頬が赤く染まるのが薄暗がりの中でも分かる。ゆっくりと
ナマエ
の傍に寄る。無防備なその姿は就寝の直前だからだろうか。すぐにでももう一枚、衣を掛けてやりたかったけれど両手が塞がっていたから身を寄せる。こうすれば少しは暖かいだろうか。
「あの、昆奈門、さま
……
?」
戸惑うような
ナマエ
の声に少し緊張する。思い付いた時は名案と思ったけれど、迷惑に思われたらどうしよう、今更そんな考えが浮かんだ。
「
ナマエ
、灯を消してくれる?」
「灯、ですか?」
「そう。何もしない。
……
私を信じて」
言い訳がましく
ナマエ
に媚びるような声が出る。信頼されている積もりだったけど、違っていたらどうしよう。それでも、
ナマエ
は何の躊躇いも無く、枕許の灯に息を吹き掛けた。闇の中に
ナマエ
の青白い頬が細く入り込む清かな月光に照らされてとても美しかった。こんなに美しいものを、私は見ても許されるのかと不思議な気分だった。
「今日は、訓練でタソガレドキの西の原に行ったんだ」
静かに語る私に
ナマエ
は口を挟まなかった。時々相槌を打つように声や息を溢す
ナマエ
がただ愛おしい。
「そこでね、見付けた。
ナマエ
にも見せたくて何匹か連れて帰って来たんだよ」
ゆっくりと合わせていた手を開く。潰してやいないかと不安になったけれど、それらは生きていて、私の手からふわりと飛び立った。
ナマエ
がわあ、と息を吐いた。
瞬きの速度で点滅する光を、その虫を、
ナマエ
は見た事が無いと言っていた。ああいうのは川辺にいて、部屋から出られない自分には縁が無いのだと。寂しそうに語る
ナマエ
に見せたいと思った。
「これが、蛍
……
」
目を輝かせる
ナマエ
に、嗚呼、この小さな光を連れて来て良かったと心から思った。
「本当は、もっと沢山連れて来たかったけど、帰り際に何匹か捕まえるのが精一杯で。
……
ごめんね」
格好付けたかったけど、やっぱ慣れない事はするもんじゃないね、虫取りなんて久し振りにしたよ、と続けるつもりだった。出来なかった。
ナマエ
が、泣いていたから。
「え!?あ、ご、ごめん!嫌だよねえ!?虫なんか部屋に放たれたら、びっくりするよね!?大丈夫!ちゃんと数は数えてるから残らず始末するね!!」
やってしまった!と焦る心を宥め賺しながら立ち上がろうとするのを、弱い力で引き留められた。こんな力で私を引き留められる者なんて、もうこの世にはいないと思っていたのに。気付いたら腕の中に体温の低い柔らかな塊がいた。この手を、何処に回したら良いのか分からない。
「え、あ、
ナマエ
、
……
?」
「びっくり、しました。でも、そうじゃないんです
……
。とても、嬉しくて
……
」
ナマエ
の手が私の装束を弱々しく握る。嗚呼、しまったな。蛍を見せに来るのに、帰着して直ぐ此処に来てしまったから水浴びも何もしていない。勿体無いけれど、今猛烈に、
ナマエ
から距離を取りたい。本当に、勿体無いけど。
「ね、ねえ、私今とても汗臭いと思うから離れてほしいなあ
……
、なんて
……
」
はは
……
、と笑う声が曖昧に空間に溶ける。
ナマエ
は更に私に身を寄せるだけだった。
……
良いのかな。期待しても。
「
……
ナマエ
」
「昆奈門様は汗臭くなんかないです
……
!確かに少し外の臭いがしますけども!」
「いやまあ、うん、ありがとう。
……
いや、そうじゃなくて、あの、蛍触ってた手で君を抱き締めても良い?って聞こうと思って
……
」
「もう!聞かないでください!野暮天!」
はは、心が痛い。多分幸せだからだ。
ナマエ
の身体を反転させて背中から腹に手を回す。冷たいと思ったけれど暖かい。細い肩に顎を乗せる。薄い身体から心音がした。私が簡単に刈り取って来た生命の音だ。
「綺麗だね」
「ええ、とても
……
。蛍なんて初めて見ました」
君に言ったのに、なんて返す事は出来なかった。
ナマエ
が振り返って礼を言うのが口の形で見えた。なのに、私の心臓があまりに大きな音を立てたからだろうか。減退した私の聴力では聴き取れなくて少し寂しかった。
「
ナマエ
が見たい物は他にある?私は組頭だから何でも持って来れるよ」
髪は触りたいけど手を洗っていないから止めておいた。こんな事なら手袋でもしとくんだった
……
!自分の判断の甘さに苛立ちながら、
ナマエ
のほっそりした手を握る。
ナマエ
の手が僅かに震えたのを感じた。
「
……
私、本当は何も要らないのです」
「えっ、そうなの
……
?」
唖然としてしまう私に
ナマエ
が笑う。翻弄されているようで何だか腹立たしい。唇を尖らせているのが
ナマエ
に伝わったような気がした。
ナマエ
の手が私の傷だらけの爛れた手に絡められた。
「本当はね。
……
本当は、昆奈門様に会えるだけで嬉しいのです。烏滸がましいって、分かっているのに」
絡んだ手を握る力が強くなる。嗚呼、好きだ。その気持ちが抑えられない。言ったら
ナマエ
の負担になる事は分かり切っているのに。
「
……
じゃあ、沢山来るね。迷惑だって言われても来るよ。名代ももう送らないから。
ナマエ
が言ったんだからね。責任取ってよ?」
耳許で囁くのを
ナマエ
が擽ったそうに身を捩る。腕の中の生命を喪いたくない。生涯で唯一彼女だけは、この腕に抱いていたかった。それ以外に、何も要らない。
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