みずあめ
2025-05-07 01:56:52
2624文字
Public brmy
 

神麗

周年ストも衣装も最高だね

ジャケットを脱いでソファーに放り、ベストの留め具を外しながら鏡の前に立った途端、ぬっと後ろに神家が現れオレの手を掴んだ。
「は、……なんだよ」
「着替えるんだろ? 手伝う」
「はぁ?」
鏡の中に映る神家はいつものアホみたいな笑顔じゃなくて、怒った顔を隠すような作った無表情だった。何バカなこと言ってんだ?と向けた視線も声も無視して、神家は許可なくオレのチョーカーに触れる。反射的に振り払おうとして上げた手は、神家の視線に咎められてビクッと動きを止めた。
……なにキレてんだよ」
「え? キレてないよ」
「だったらいつもと同じ顔してろバカ。その顔見たら十人中十人がキレてるって思うわ」
……本当に怒ってるとかじゃなくて。……やきもち」
小さく呟かれた言葉に、心当たりはない。だけどこの言い方からして本心だろうと分かったから、眉間に皺を寄せて「何にだよ」とストレートに聞いた。チョーカーはまだ外されないまま首に巻き付いていて、神家はそれをジッと見つめているようだった。
「麗が俺以外に触られるの、嫌みたいなんだ。自分にこんな独占欲があるなんて知らなかった」
はぁとため息を吐いて物憂げな表情をする神家には悪いが、オレはおまえにも勝手に触ることを許してはいないし、他の誰でもそれは同じだ。そもそもオレがいつ誰に触られたって……と、そこまで考えて昼間の祠堂の行動を思い出した。
ムカつきすぎて記憶から消していたが、祠堂が衣装チェックだとかで予告なくオレのチョーカーに指を突っ込んできやがって、まあ緩くはないか、なんて呑気に言っていたからすぐに手を払い落として触んなとキレたんだった。思い出してチッと舌打ちをし、鏡の中でまだ情けない顔をしている神家を睨み上げた。
「バカ」
……神家です」
「おい、バカ」
……なぁに」
「オレは相手が誰だとしても勝手に触られんのは嫌だし、触られたくない」
……ん、ごめん」
……んで、今は、許す」
「え……?」
「チョーカーさっさと外せ。これうざってぇんだよ」
「え、でも、……いいの?」
「着替え手伝うって言ったのはお前だろ。つーかお前の服もごちゃごちゃしてんだから人の世話焼いてねぇで先に着替えろよ」
手離せ、と掴まれている手を揺り動かせば神家は素直に従い、オレが自由になった両手でピアスを外し始めるとわっと小さく声を上げて頬を赤くした。キモい反応すんな、と足を後ろに蹴り上げてスネを蹴飛ばすと呻き声を上げるから、ハッと笑ってやる。
「痛い……
「早くしろ」
「わかったってば…………麗、首細いね」
「あ? 首の細さなんて別に変わんねぇだろ」
「いや、全然違うって。麗の方が顔も頭も小さいし」
「喧嘩売ってんのか?」
「身長の話はしてなっ、痛いっ!?」
「もういい。お前もさっさと着替えろ」
「えぇ〜」
振り向いて外されたチョーカーを奪い取り、神家の体を押し退け部屋の奥へ。ベストとシャツも脱いで自分の私服に着替えると気が楽になった。
祠堂が選んだということはムカつくけれどそれが質のいい服だということは着ればよく分かった。今回の仕事でオレたち特務部が体を張るような場面にはならないはずだけれど、乱暴に動いて服を壊してしまうような事態はできるだけ避けたい。
「麗、甘えてもいい?」
「は?」
「このネックレス、うまく取れなくて」
……貸せ」
「ありがとう」
言い方どうにかなんねーのか、と心の中で文句を言いながら、むこうを向いて少し膝を曲げる神家のネックレスの留め具を外した。さっきまで被っていたベレー帽の跡が残っている後頭部をジッと見つめ、舌打ちをする。変な感じがすると思ったが、普段はこの頭がもっと上にあるからだ。コイツのつむじなんて見た記憶がない。別に見たくもないけれど。
「? とれない?」
……とれた。ん」
「ありがとう、麗。手伝うって言ったのに手伝ってもらっちゃったな」
「どーでもいい。寝るから静かにしてろ、もしくは出てけ」
「え、寝ちゃうの?」
神家を無視して窓側のベッドに横になる。隣のベッドとの距離が近いが固定されているから動かせないだろう。できるだけ端に寄ると神家がくすくす笑った。
「仕事中だから、手出したりしないよ」
……
「麗と一緒の部屋で、やったーって思ったのは事実だけどね。それに麗が他の人と一緒だったらやっぱりやきもち妬いちゃってたと思うし」
……ぺちゃくちゃうるせえ」
「本当に寝ちゃう? この後みんなで篠信くんたちの部屋に集まるんだけど、麗は行かない?」
「行くわけねーだろ。一人で行け」
……んー、でも、もうちょっとここいてもいい? 麗といたいから」
ぐらりと揺れたのは錯覚ではなく、おそらく船が波で揺れたのだろう。決して、オレの心なんかじゃなく。
ベッドの上で寝返りを打ち、隣のベッドに腰掛けてオレの方を見ていた神家と目を合わせた。ゆらゆら、ぐらぐら、不安定に揺れて定まらない。手出さないって、どこからどこまで? 自分から聞けるわけがない問いを頭の中でぐちゃぐちゃに丸めて捨てて、ベッドの上に無造作に腕を伸ばした。神家の方に近づいた指先を少しだけ動かして、とんとんと布団を叩く。神家は何も言わずに目を丸くして、オレが恥ずかしさに襲われる前にパッとオレの手を両手で掴んだ。オレがその掴まれた手をグッと引き寄せると、神家は倒れるようにオレのベッドに乗り上げる。
「っ、まっ、て、うらら、だめ」
……簡単に釣られたのはそっちだろ」
「あんなの釣られるに決まってる。そうじゃなくて、だって、仕事で」
「今日はもう出番もねーし、打ち合わせもなんもねーんだから、明日の朝まで休みみたいなもんだろ」
「そう、かも、だけど」
……シたくねーの」
「シたい! 〜っ、したいに、きまってるだろ……三日間も麗と二人部屋だし、いつもと違う格好めちゃくちゃ可愛いし、仕事なのにペアだからってずっと一緒にいられるし……!」
赤い顔を目の前に晒して素直に吐き出す神家に、オレは気分が良くなって腕を伸ばし神家の後頭部を掴んだ。軽い力で引き寄せて、神家の頬にキスを落とす。神家はすぐに唇に噛み付くようなキスをしてきたから、乗せやすいヤツだと唇の端で笑いながらオレはそのキスに応えた。
二人部屋だって分かった上で来てんだよ。仕事だとしても、お前以外にそんなの許すわけないだろ。