本棚の中にある数ある作品の中から自分が読もうと腰を上げて実際に読める作品はそんなに多くなく、さいきんは特に輪をかけて誰かにおすすめされたとか、読んだ後に話す相手がいるとか、そういう理由がないと読書に身が入らなくなってしまった。
かく言うこれも妹から「とりあえずこれだけ読んでほしい」と言われた一冊で、まァ一冊くらいならいけるか……と読んでみたらめちゃくちゃいい感覚をもらえたので感想を書いている。
この話は駆け出しのお笑い芸人の子があるきっかけで知った先輩芸人に恋をする話なのだが、
わたしは”お笑い”というものが大層不得意で、主人公を取り巻く環境が
芸人・ネタ・お笑い
の三拍子が揃っているというだけで天を仰ぎ読むのをやめようか躊躇するレベルで苦手なのだが、結果として頑張って最後まで読んでよかった。苦手なジャンルこそ、こういうふうに好きなコンテンツや受け取りかたを通して徐々に慣らしていけたらいいなあと思った。
作品の感想だが、主人公・小峰があまりに相手・飯田を好きすぎてかわいかった 恋愛一色ではなく、ひたすらに
尊敬!推し!大好き!ファン!
って感じの好意が前面に出ており、確かにBLではあるのだがちょっとひねりのある恋愛感情を終始たのしめた感じがあってよかったな
飯田の所属する「他人の不幸」の漫才を見て
かっこいいかっこいいかっこいいおもしろいおもしろいおもしろいおもしろいおもしろいかっこいい
って思いながらカップ麺をすする小峰がまごうことなき推しに対する大ファン仕草すぎて、自分が推しに向ける感情に似たものを感じて共感がすぎたし、
わたしがBLを好きな理由のひとつである、BLのBLじゃない描写のpreciousさがここにもあった気がした
好意って別に恋愛感情だけじゃないし、尊敬・崇拝・憧れの対象へのちょっとした畏怖・厄介ファンみたいな思考 もない混ぜになった感情がだ〜いすきなので、小峰が主人公であることでこのあたりの感情をも楽しめたことに感謝した
入退院を繰り返す母親をもつ小峰が、そういう生育環境もあってか
「(母親と)一緒にいられないことを寂しがって泣く感情を抑え込んでいるうちに他の感情が表に出なくなった」
「自分にできることはいい成績を取ることだけだ」
という成長を遂げたある日、母親の病室を訪ねると、自分が見たことのない顔で大爆笑している母親を目にする。その時に、母親の笑顔のもとになったのはどうやらお笑い芸人「他人の不幸」のコントである、というのを知り、
・(良い成績を取ることだけが自分のできる親孝行だと考える)自分の努力って間違っていたのかもしれない
・(腹を抱えて笑う母に)悔しさと寂しさと慟哭を感じた
とする小峰が、じゃあそれを自分も見てみよう!からのこの人をもっと知りたい!!!、からの意識し始める流れ という好意の始まりが何とも胸詰まり、苦しくなった
誰かを強く意識するきっかけって別にプラスの感情だけじゃないよねという、変な納得感を抱きながら読んでいた
時は現在の時空に戻り、自分のバ先に不意に訪れた推し・飯田に対して無表情ながら内心動揺と有り難み、会話を積み上げていく小峰が、それまでは相手に全く悟られない状態でファン意識をバシバシに向けていたのが、何度目かの飯田の訪問で好意バレの兆しを見せることになる。
小峰が飯田にあまり笑わない(表情を動かさない)ことについて言及された時に、話の流れで「じゃあ逆にどんな時に笑うの?」と聞かれて
「真冬で向かい風が強い時とか、
(笑いポイント意味わからなくてかわいい)
あと「他人の不幸」さんの漫才見てる時」
と無表情ではあるが曇りなきキラキラまなこで見つめてるあたりから、飯田も「お??もしかして俺この子に推されてる??」と気づき始めるさまがなんともかけがえなくてもう……
「他人の不幸」ガチ勢の小峰が正規ルートで取れなかったチケットを「え、用意してあげるよ、来て」と飯田から言ってもらう流れで、
あ〜でも客席でキラキラ目を向けてくれてる小峰は舞台上からは見えないんだよな、
俺、内緒なんだけど目がだんだん見えにくくなってきてて、治んないらしいんだ
と告白されて、飯田の両手を取り
「だったら俺のあげます 角膜でいいですか」
と迫真の表情で言ってのける小峰が筋金入りすぎてニヤケ散らかしたし、
そこまで言われてずっと誰にも言わないでいた本当の”目の秘密”を共有してしまう飯田も、この時あたりから本格的に小峰に絆され始めててかわいかったな
この作品の、2人の関係を恋愛として進行させつつ、ファンである好意も別個のものとして並行させつつ最後まで描写し続けるところに込められたキャラへの愛情とリスペクトにときめいた
舞台袖で「他人の不幸」の2人が緊張をほぐすためのルーティンを行っているのを目撃した小峰が、そのルーティンについて言及した以前読んだ雑誌のインタビューでの飯田のコメントと、正確な雑誌No.を脳内に思い浮かべるシーン、最高に好きだった そうだよね、マジで大好きなんだもんね…になった わたしもこのページこの行のこのセリフ……みたいになる時あるから超分かるよ…
決勝進出をあと1位のところで逃してしまった「他人の不幸」が、ライバル関係にあり切磋琢磨し合ってきたコンビが決勝を辞退したことにより繰上進出が決まった際に「よっしゃあ!!」と飯田が喜んだ様子が何故かネットに拡散され、それを見てガッカリしたお笑いファンたちの間で「他人の不幸」が炎上してしまうのだが、
(このファンの筋違いな期待感を原因とする炎上、というのが「え?こんなことで?」「いや、こういう背景あるんだから喜ぶくらい許してやれや」と思うようなことで炎上する現実を絶妙に召還していてさすがすぎた)
その時には彼らの炎上に対して変なフォローや言葉掛けを行わずにいた小峰が、
決勝当日に飯田のもとを訪れて、実は自分のコンビニも連絡が来て前座を任されたから、
「他人の不幸さんだけじゃなく、皆さんが最高な漫才できるように場をあっためときますんで!」
と言ったところで飯田が「10分だけプライバシーちょうだい」という、何とも気持ちのぶち上がるセリフをその場に残して小峰を連れ去り、
「実はお前が昔学祭でやってくれたカバー漫才の動画見たよ、こっち側に来てくれてありがとう、ずっと伝えたかった」
という開示をしてくれるシーンあまりに愛おしくて涙ぐんだ
ここでこの開示パートか〜〜〜!!!
という気持ちと、
大事な決勝前に、話しておきたい相手と話しておきたい話題がこれか〜〜〜!!!
というので両手で顔を覆ってこのシーンを慈しんだ
この話のいいところは『初音ミクの消失』の歌詞か?と思うくらいの小峰の怒涛の「他人の不幸」の漫才への愛情量に対して、飯田がそれと同等の感謝やら思いをたえず小峰に返しているところなんだよな
わたしは性癖・片思いの女だが、
それとは別に両思いについて、同じ分だけお互いに好きって思い合ってるのイイナ とも感じてる人間なので、無理のない形で双方向への想いを通わせ合っているこの2人は見ていてとても気分が良くなった ちょっと濃度高めの酒を飲んで世界がちょっと浮ついて見てる時の高揚感に似た気持ちよさがここにはあった
無事恋愛としてもくっついた後に、おまけ漫画で自分のメガネをかけた飯田を、目が悪くて見れない……と無表情にポロポロ泣き出す小峰に飯田が「泣くなよ、今度それ用(小峰のメガネをつけた飯田を小峰が鑑賞する用のメガネ)買ってやるから」とフォローしててウケた ガチ勢すぎんだろ
さいきんファンとそれを受け取る側をめぐる、ちょっと行き過ぎたファンの行動や干渉言動について思うことがあり、何だかな〜と思っていたところだったのだが、この2人にその毒素を良い感じに抜いてもらえた感じがあり、今この瞬間この漫画を読めてよかったなと感じた。
序盤で言ったように、だんだんコンテンツをただ楽しむだけ、感情運動として読むだけ、みたいなことをするのが難しくなってきているのだけど、 同時に、
「今この瞬間の自分でこの作品を読めてよかった」
と思うことも増えてきているのを思い出せた感じが良くて良い読書体験だった
2人にはずっと幸せでいてほしい
この2人のやりとりによって、私が考えさせられたり思い出せる感情が、たくさんある気がするので…
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