タロ文庫の作品置き場
2025-05-06 23:09:15
7805文字
Public 作品
 

所有の尊厳

2020-09-08

 場内アナウンスで名前を呼ばれて、ティームは静かに手をあげるとゆっくりと飛び込み台の上へと足を乗せる。ゴーグル越しに前を見据え、自分の鼓動が程よく高鳴っているのを感じた。手足は熱い。心の中は今は怒りよりも深い色をした闘志で満ちている。
 横一列に選手が並び、飛び込み台へ指先をつける。
 ティームのレーンは左から二番目だ。一番真ん中のレーンにいる、顔の見えない相手にぐっと目を眇める。
 絶対に負けたくない。
 各大学が自分のところの部員に対して送っている声援が一瞬遠のき、ティームは方々に広がっていた神経の照準を目の前のコースへと絞った。
「いけぇ! ティーム!」
 ミューの怒鳴り声がティームの鼓動に連動する。
 スタートを伝える電子音が聞こえた瞬間、つま先に力を込めて勢いよく水の中に飛び込んだ。



「なんだよ、あのペンギンみたいなやつ、自由形出ねぇじゃん」
 ティームがミューと一緒にタイムスケジュールを掲示板で確認していると、突然隣から大きな声が聞こえた。自分達に話しかけてきたのかと横目で伺うと、見慣れない大学のジャージを着た男子学生が掲示板を指差して連れだったもう一人の男子学生に見るように促していた。
 今日の大会は大学の大会の中では大きいものの一つで、ティームのような新入生たちがエースとしてどれだけ育ったかのお披露目の場にもなっている。それとともにひとつ学年が上がった各大学の新生水泳部の主力や勢力図が固まってきた事がわかる大会でもあった。ディーンやウィンは勿論のこと普段温厚なプルックですら最近の練習への力の入れようは鬼気迫るものがあった。
 ティームも高校時代から動画を見たり話を聞いていたがいざ自分が出場するとなると腹の底に冷たい塊が重たく転がっている感じがする。プレッシャーに弱い自分を時に誤魔化し時に奮い立たせ、なんとか出場資格を獲得した。順位はどうであれせめて自己新記録は更新したい。自分につきっきりで精根尽きるまで鬼の副部長の名を欲しいままに扱いてきたウィンが、甘く笑って出場資格を喜んでくれたのだ。せめて過去の自分には勝ちたい。
 隣の学生の指先に合わせて、ティームも自分が出場する自由形百メートルの待機場所と時間をチェックする。
「ペンギンって誰だよ」
「ウィンだよ。イワトビペンギンみたいだろ、金髪で羽生えてて」
 ウィンが出場するメドレーリレーのリストにも目を巡らせていたティームは、聞き慣れた名前にピクリと反応した。
 あぁ、と笑いを含んだ声が卑下するように会話を続ける。
「空が飛べない鳥な。確か去年お前と競り合ってたやつだよな。種目変えたのか?」
「逃げられたわー」
「違いねぇ」
「あ、でも同じ大学から違うやつがエントリーしてんな。一年じゃん、誰だこれ」
 悪意がたっぷり含んだ会話にティームの目が据わる。頭に血が上ったのか頭皮が熱い。奥歯をぐっと噛んで二人の方に顔を向けた。
「おれです」
 絞り出した声は地を這うように低く、最低限の敬語が使えた自分を褒めたい。
 二人組は突然隣から声をかけられたからか、自分達だけで盛り上がってたところに水をさされ鼻白んだ。ティームの後ろではミューも同じような表情をしてたのだろう、二人は自分とミューを交互に見ている。そのうち、ウィンをペンギン呼ばわりした男がティーム達が着ている青と白のジャージに気づいた。
「お前達、ウィンとこの一年か?」
「そうです。あんたと同じグループで泳ぐのはおれです」
「へぇ……
 男の目に徐々に好奇と侮蔑の色が混じり、あからさまにティームを上から下までジロジロと見てくる。ティームは値踏みするようなねっとりとした視線に腹に力を入れて耐える。じっと黒目を動かさず相手を見ていると、男の連れが、あっとティームを指差した。
「こいつ知ってる。キュートボーイだ」
「は? なんだって?」
「キュートボーイ! オレの従姉妹がここの大学なんだけどよ。そこのSNSにあるんだよ、そういう可愛い男の子特集のアカウントがさ」
「まじか」
「で、従姉妹にこいつのこと見せられたことあるぜ。なんかちっさい男とイチャイチャしてたな」
「へぇ」
 まさか学外で以前少しだけ騒がれたことのあるSNSの話が出てくるとは思わず、ティームは顎を引き押し黙った。パームとの写真なんて彼がディーンと付き合うようになってからはほぼ掲載されなくなったとマナウから聞いているので、随分と昔の写真のようだ。
 男は、目の中に新たに違う種類のいやらしい視線を加えてティームを見る。目線が下の方を中心に止まり口が歪んでいる。
「お前、男といちゃつくのが好きなんだ。で、どっちなの? 入れる方? 入れられる方? 小さい子といるなら男役か。まぁ見た感じそっちだよなー」
「おい、見た目で判断しちゃダメだろうが。案外抱かれたいって思ってるかもしれないじゃん。可哀想だろう、身体がおっきいってだけで女役あり得ないとか」
「そりゃそうか。泳いでるならケツの締まりも良いだろうしな。よく見たら肌も白いじゃん。ふぅん」
「お前なに想像してんのー!」
「ばっか! そんなんしてねぇし」
 ティームは拳を握り、立っている重心を膝に落とした。
 ミューが後ろで息を飲む。
 世の中には様々な人間がいることはわかっていたはずがここまで初対面で悪ふざけをぶつけられる事があるとは知らなかった。
 得体の知れないザワザワした感情が全身から昇り立つ。
 仲間と盛り上がってた勢いで男はティームの方に顔を近づけると笑いと刺をたっぷり含んだ声で囁いた。
「大会の後って興奮してたまんないよな。なぁ女役やりたいならオレが相手してやろうか? オレ今シングルなんだよ」
 ティームの堪忍袋の緒がミチミチと切れ始めた瞬間、視界が青と白に遮られた。
 バァアン!
 爆弾でも破裂したかのような大きな音が間近でして、ティームは身体から負の感情が吹き飛ぶほど驚いた。
 耳が余韻でうわんと遠くなる中、少しずつ目の前の状況を把握する。自分と男の間を遮るように突き出ている腕の元を辿ると見慣れたジャージと見慣れた金髪のちょんまげが結われている後頭部。先の衝撃で微かに揺れている左耳のピアス。
 強く叩きつけた掲示板からゆっくりと手を離し、ウィンはティームの目の前に立った。彼が口を開いたのがうなじの動きで分かる。
「うちの大切なエースに、何か用でも?」
 後ろから聞いているせいかウィンの声が今までに聞いたことのない、色も温度も全く感じさせない声だった。今のはウィンの声で合っているかと疑うほど冷たく鋭角な声だった。
「うあ……
 彼越しに二人組を見ると静止画かと思うほど身体が動いておらず、目だけが大きく見開かれていた。蛇に睨まれた蛙を見ているようだった。
「随分な挨拶をしてくれたようだが、侮辱行為として君達の大学及び大会運営に報告させてもらおうか」
「ディーン先輩」
 ティームの横にすっと立ったディーンは無表情ながらもティームとミューを安心させるようにゆっくり頷いてから、その射殺しそうな黒目をウィンの向こう側へ向けた。
 睨まれて脂汗まみれになっていた蛙二人組はそんなディーンの無慈悲な声だとしてもウィンの異様な呪縛から解放されたのか、後退りながらぎこちなく口を開いた。
「侮辱なんてしてねぇよ」
 それに対してウィンの背中がゆらりと揺れたが、即座にミューがセルフォンを取り出してディーンに渡した。
「あ、部長、最初からボイスメモ録ってあります」
「は⁈」
「だそうだ」
 まさかミューがそんなことしているとは気づかず、ティームがミューを振り向くと得意げに大きな目がぱちりとウィンクをする。
「オレたちは、そんななぁ」
 このボイスメモと共に侮辱行為が認定されたらこの二人は出場停止となるかもしれない。ティームは自分を相手に見せないかのように立っているウィンの腕に手をやり、そっと脇に退いてもらう。一度大きく息を吸い込み、強めに声を張った。
「おれは平気です。こいつとはレースでケリをつけます」
「おい」
「逃げられたくない」
 眉根に盛大にシワを寄せたウィンがティームの腕をつかみ返す。自分を見つめるウィンの目に二人組を睨んでいたであろう剣呑な余韻が見えて、怒るとこんな顔をするのかと一瞬場違いな感想が浮かび少し笑ってしまった。ウィンはティームに一つため息を落としてから徐に肩を抱いた。
「ディーン、後は任せる。俺はこいつをストレッチさせてくる」
「あぁ、しっかり温めてやれ」
 そのまま建物の方へと歩き始めるウィンの歩調が早くて半ば引きずられながらティームはその場を去ることになった。ウィンの腕の中からなんとか首を動かして振り返ると、腕組みをして何やら厳しく話しているディーンとこちらに親指を立てて爽やかに笑って見送っているミューの姿が見えた。



「先輩、ちょっと!」
 建物の中に入ると肩から腕を解かれた代わりに手首を掴まれぐいぐいと引っ張られる。多くの選手が廊下やアトリウムでストレッチをしたり談笑したりしている中を通り過ぎて、ウィンは人気がまばらなプールから遠い渡り廊下を更に進む。同じ方向に進むのが嫌なわけじゃないから大人しく腕を掴まれているが、ウィンとは足のコンパスが違うので意図せぬ早足に足がもつれそうになる。離すまいと強く握られる手首が少し痛い。ジャージの上からでなければ痣になっている。
「ウィン先輩、どこまで行くんだよ」
 ティームの声が廊下に響いた。大声ではないそれが響くくらいには辺りに人気はぱったりなくなっていて、ウィンは階段の影にティームを連れて行きようやく手首を離した。
 遠くで何かのアナウンスや人の声がしている。
 向かい合ったウィンは、相変わらず眉間にシワをくっきりつけてムッとしていた。怒っている顔をされればされるほど不謹慎かもしれないがティームの心のもやが晴れていく気がした。突然傷つけられた心の擦過傷が癒えていく。
「ウィン先輩、来てくれて良かった。危なく殴るところだった」
「お前が殴らなくても俺が殴ってた」
「ダメだって、殴ったら出場停止になる」
「だからお前も我慢したんだろう? 偉かったな」
 ウィンの手がティームの頭に乗る。ぽんぽんと柔らかく撫でられて、くすぐったさに目を伏せた。ウィンの空気が元に戻ったような気がしてティームも知らずに力が入っていた拳をゆるゆると解く。顔を上げてウィンを見る。いつも許してくれることが心地いい少し生意気な口を開いた。
「なんせ、おれは水泳部の大切なエースだからね」
「は、自分で言うな。それにまだ結果出してないだろう」
「先輩がさっき言ったんだろ。うちのエースって。まさかウィン先輩がそんな風に思ってたなんて、知らなかったな」
生意気」
 ししっと歯を見せて笑うティームにウィンもつられて笑った後、ひたりとティームを見つめた。強い日差しが眩しく差し込んできてウィンの目が墨色に濡れる。艶やかで、惹き込まれてしまう。
 左手を持ち上げられてゆっくりと手のひらを親指で撫でられる。強く握っていたせいでそこには爪の跡がくっきりとついている。ウィンの指がその一つ一つをなぞった。そのウィンの手をよく見ると掌が真っ赤になっていた。あんな破裂音を響かせたのだ、内出血していてもおかしくない。心なしかいつもより熱を持っている手をティームも微かに撫でた。
「泳げるな」
「もちろん」
 高く掠れたウィンの声に自分の声を重ねるように呟く。ティームの心は今や大会の大きさに対する不安や慄きはなく、自己新記録がどうのという目標も吹き飛んでいる。
 ティームの顔に微かな揺らめきもないことを確認したウィンは、綺麗に口角を上げて笑った。
「さすが……
 持ち上げたティームの手のひらに恭しく唇を寄せる。ティームの爪痕に軽く触れてくる唇に、きっとまた部員の誇りとして称賛する言葉を紡いでくれるとティームが気持ちを高揚させると、ウィンは強くはっきりとティームの心臓を鷲掴みにする言葉を言い放った。
「俺のティーム」



 隣のレーンからの水流に影響を受けないようまっすぐ伸ばした腕を力強く後ろに掻き出す。身体を一本の線のように細く保ち、手先から足先へと水を流し圧力抵抗を逃す。いつもより前方にある水の壁が重たくない。掻き分けるというよりは突き進んでいくイメージで、ティームは自分の領域の水を支配しようとした。
 自分の作った水流が壁にぶつかり跳ね返ってくるのを自分に当たる前に身体を回転させて、壁を蹴り付けた推進力の補助に利用する。水流に押されて、折り返しゴールを目指す。
 泳いでいる間、真ん中のコースの男がどの辺を泳いでいるか見ることは出来ない。しかしあの男が言った事を頭の中で反芻してティームは心で舌打ちをした。
 誰がペンギンだって? あいつらはペンギンがどれだけ水中を自由自在に機敏に泳ぐか知らないのか。見た目のフォルムだけでウィンを侮蔑したつもりでいるかもしれないが、その本質を褒めてしまっていることに気づかなかったのか。
 水の中のウィンはその手足の長さやしなやかな身体、バネのような筋肉を余す事なく使い、とても綺麗に泳ぐ。基本に忠実なフォームに落ち着いたメンタルで水を纏う姿は、競泳らしからぬ優雅ささえも感じられた。背中を一面に覆う翼は水の中で真っ黒に艶めいて、悠々と飛んでいる。隣で泳いでいると掴まえたくて追いつきたくて堪らなくなる。がむしゃらに手を伸ばすから、いつも落ち着いて頭を使って泳げと窘められた。
 これはティームにとって大切な尊厳をかけた戦いだった。
 自分に覆いかぶさってくる水流を全力で後ろに押しやる。
 あと少し。
 緑色のコースロープの合間に赤い玉が見えた。半分まで進んだ目印で、ティームは息継ぎをしながら酸素と水を飲み込んで苦しさをグッと耐える。下半身が下がっていくのを筋力を叱咤して持ち上げる。上半身は逆に上がりそうになるから頭潜らせて流線形を保つ。全身が熱い。四肢が千切れそうだ。水がどんどん重たく身体に絡みついてくる。
 息継ぎをするために開ける口には酸素よりも水が多く入り込んでくるようになった。
 苦しい。少しだけ力を緩めたい。そう思ってしまう弱い自分を押さえつけて、ティームはゴールを目指す。徐々に水の外の喧騒が耳に入ってくる。緑の線が赤に変わった。あと五メートルでゴールのところで、ティームは前に戻す手の甲をうまく水上に出せなかった。
「っ!」
 水の抵抗をもろに受けてフォームが崩れる。まずいと思ったその時、
「ティーム、振り切れ!」
 水の中にいて明確に聞こえるはずもない自分への声がけがそれでもティームの耳にははっきりと入ってきて、強い衝動で身体を前に押し出した。
 迫りくる壁に思い切り両手をつく。大きく口を開けて水面に出ると引きつった肺の中に新鮮な空気が入り込んだ。
 ゴーグルをむしりとり真ん中のレーンを見ると男が顔を出すのが見えた。コンマ秒数の世界だ。目視は無理だったので、ティームは電光掲示板へと顔を向ける。水が目に垂れてきて何度も拭うがよく見えない。
 コース順に並んでいた選手の名前が一旦消えて、着順の一覧に変わる。
 ティームは自分の名前が一番上に表示されたのを見て、背面からゆっくり水面にダイブした。



 バスは車内にエンジン音だけを響かせて渋滞に引っかかる事なく走っていた。微かに聞こえる寝息や密かに話をしている声が、どこか耳に心地いい。ティームも全身が重怠く疲れ切っていたが、神経が冴えてしまっていて眠気がこずにぼんやりと車窓を流れる景色を眺めていた。
「寝ないのか」
 隣に座るウィンが静かに声をかける。ティームは顔を窓から車内に戻して、間近で笑っている綺麗な顔を見つめた。
「ウィン先輩こそ」
「俺はさっき一瞬寝た」
「あ、そう」
 塩素と日焼けで少しかさついている肌でもウィンの顔は整っていて、鼻の頭が少し赤くなってしまっている自分との違いにティームは少しムッとした。
 首にかけっぱなしにさせられているメダルを指で弄って今一度その色を確かめる。ウィンの首にも色違いのメダルがかけられていた。
 ティームの大健闘は、事情を知らない部員の闘志にまで火を灯し、部の設立史上一、二を争うメダルラッシュを巻き起こした。もともと常勝校の一つではあったが、記録をだいぶ上書きして他校の目の色を変えた。実力以上の力を出し切った者も少なくなかったのか、勝ち取った勝利にはしゃぐでもなく部員のほとんどは電池が切れたようにバスの中で眠ってしまっている。
 自己新記録、大会新記録、VIP賞の三立てを手にした我らが部長は前方の席で穏やかにヒソヒソと恋人に電話をしていた。微かに動く黒い頭を見てティームはふっと小さく笑う。
「なんだよ」
「いや、ディーン先輩の原動力はすごいなと思って」
「あぁ、あいつならパームの笑顔一つで世界も狙えるだろうな」
 寝静まってる車内に考慮して自然と自分たちも密やかな声になった。
「おれも」
 ウィンの揶揄いの色が篭っていない穏やかな声に合わせるようにティームの声も低く凪ぐ。
「ディーン先輩みたいに泳げた気がする」
「何?」
 小さく紡いだ言葉は、ちょうど対向車線のクラクションの音に消されて、ウィンがキュッと眉根を寄せた。ティームは少し恥ずかしくなり目と鼻の間に皺を作って、イッと歯を見せて誤魔化した。
「なんでもない。それより先輩さ、あの掲示板とこにいたクソやろうと知り合いだったの?」
 ずっと気になっていて聞く機会を見つけられずにいた問いにウィンが小首を傾げる。斜め上を見る目にティームは聞かずとも答えがわかって口角が上がった。
「知らない。全く見覚えがない」
 ティームはもう顔も思い出せない二人組に向かってざまあみろと中指を立てた。一方的にウィンを敵対視して、てんで相手にされてない。どのような形であれ不特定多数に知られている自分たちは賞賛の裏に妬みや嫉みを持たれている。流せばよかったものを、やっぱり目の前で露わにされたらティームには無視する事が出来なかった。
 自分が大切にしているウィンの尊厳を、自分の所有するものを、彼の尊厳である自分を、守れる男でいたかった。
「でももう覚えたからな。次からは徹底的に潰す」
 ティームに向けられた数々の言葉の刺を思い出したウィンがチッと舌打ちをするからティームはくすぐったくなってしまった。ウィンは根に持つタイプなことをティームは嫌というほど知っている。こと、ティームに関しては。
「さすが……
 ティームは笑ったままウィンの赤みが引いた右手に爪痕が消えた左手を重ねた。当たり前のようにウィンの五本の指がゆっくり指の股におさまるので手のひらをすりっと擦り付ける。
 少し揶揄っているようにも聞こえる口調にウィンがなんだそれと口を尖らすが、それでも見つめる先の目が甘くて柔らかくて、ティームも満足そうに目を細めた。
「おれの、ヒア」