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usagipai
2025-05-06 06:11:11
3753文字
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幽世の縁【幻影ノ戦編】
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【幻影ノ戦編】第3話
一番隊隊長・久世 燈練(くぜ とうれん)
三番隊隊長・姫々 ヒメ(ひめひめ ひめ)は、夏エリアへと急行していた。
「はぁ〜、まさか異常事態に巻き込まれるなんてね。さっさと終わらせて、みんなで焼肉行きましょうね!」
軽口をたたきながらも、足取りは決して遅くはない。
本来なら、冗談を言っている場合ではない状況だったが──
(
……
ヒメさんなりの気遣いか)
「ええ、そうですね。そのときは、お酒、注がせてください」
「ふふ、ならなおさら頑張らなきゃね」
そんな小さな約束を交わしながら、ヒメは一歩一歩と前へ進む。
なるべく早く、一人でも多くを救わなければ。
その強い想いが、焦燥の気持ちを押し込めていた。
しばらくして、ふたりは襲撃された現場のひとつへと辿り着く。
焼け焦げた建物の匂いが鼻を突き、肌がぴりつくような霊圧が空間に漂う。
「花
……
?」
ヒメの目にとまったのは、一輪の花だった。
美しいが、見たことのない品種。そして、微かに霊力を帯びている。
「こんな花
……
植えられてるわけ、ないわよね
……
」
疑問を抱きながら、すぐに通信機で花の情報を報告する。
続けて周囲の捜索を終えたころ──
轟音が、夏エリアを揺るがした。
全身がビリつくような、ただならぬ爆発音。
音の方角は──滝のある区域。
「っっ
……
久世くん、行くよ!」
「はいっ!」
二人は駆けだした。
あの方向にいるのは──ただの妖ではない。
圧倒的な、危機的存在。
爆音の鳴り響いた先──夏エリアの滝。
焦げた空気と白煙が渦巻く中、ひときわ異質な気配が立ち上っていた。
そこに立つのは、ゆったりと着物を纏った人物。
華奢な体躯にそぐわぬ威圧感が、空気ごと場を支配している。
「こんにちは。急で悪いんだけど、君たち妖部隊の諸君かい?」
その声は静かで、どこか上品ですらある。
だがその奥底には、ぞくりと背筋を撫でるような冷たい不気味さが滲んでいた。
「
……
あなたが、襲撃の犯人かしら?」
ヒメが一歩前へ出て問いかける。
瞬間、霊力が揺らぎ、空気の密度が変わる。
その問いに、男は舞台俳優のような優雅な所作で一礼した。
「まあ
……
そんなところだね。けれど、君たちと遊ぶ前に──ひとつ、伝えておくことがあるよ」
不意に、通信機がノイズ混じりに鳴り響く。
久世が即座に応答する。
『こちら六番隊、タカキ! そっちにいるかもしれないと思って連絡した。
……
カナメが、攫われた。確認済みだ。連れていったのは──“黎昊”(れいこう)!!』
「
……
!」
空気が凍りついた。
ヒメと久世、ふたりの目が真剣に鋭くなる。
そんな緊張を楽しむように──目の前の男が、ふっと笑った。
「
……
ふふ。ああ、それなら安心していいよ。カナメくんはちゃんと生きてるよ」
そして、改まったように、扇子を胸元に収めて一礼する。
「改めて──私はヒヌマ。“黎昊”達の一員で、大蛇の妖《うわばみ》だ。
……
どうぞよろしくね」
その丁寧すぎる自己紹介は、敵意を包み隠す仮面のようだった。
「君たち、今はそれどころじゃないかもしれないけど
……
残念ながら、私はここで君たちと遊ばないといけないんだ。お相手願おうかな」
ヒヌマの手が、ふわりと扇子のように空を切る。水気を帯びた霊力が地面を這い、彼の足元から広がっていく。
「構えて。来るよ」
「ええ、絶対に突破して
……
アイツを取り戻す」
霊力が波のように揺れる中、夏エリアも戦いの火蓋を切った。
花の謎、カナメの行方、そして黒幕の正体。
やるべきことは、一筋縄ではいかない
それぞれの場所で、それぞれの戦いが始まる。
長くて厄介な夜が、静かに動き出した。
***
──カナメ
????のエリア
「っ
……
!」
鈍い痛みに眉をしかめながら、カナメは目を覚ました。
冷たい地面の感触に背筋がぞくりとする。頭はぼんやりしているのに、胸だけが焦っていた。
(
……
安倍さん、タカキさん、タマ
……
みんな、無事かな
……
)
名を思い浮かべるたびに、胸が締め付けられるような不安がこみあげる。
戦いの只中にいるはずの仲間たち。自分だけが、こんなところで倒れていていいはずがない。
ふと、風に乗って耳に届いたのは、琵琶の音だった。
綺麗で、どこか切なくて、夢を見ているような響き。
その音が、自分を呼んでいるような気がした。
「
……
こんなとこで寝てる場合じゃない、だろ
……
」
自分を奮い立たせるように呟くと、カナメは立ち上がった。
気がつけば、あたりは深い霧に包まれた森。
ひとりきりの心細さと、それでも前に進まなければという使命感だけを頼りに、カナメは歩き出した──
霧が濃く立ち込める森の中、カナメはひとり、足元を確かめるように歩いていた。
「
……
早く戻らなきゃ」
焦る気持ちを胸に抱きながら、茂みを抜けると、ふいに視界が開けた。
そこには、一人の女性が佇んでいた。
まるで浮世絵から抜け出したかのような、艶やかで現実離れした美しさ。
だがその瞳は、どこか懐かしく、家族と再会したかのような安堵を宿していた。
「いらっしゃい
……
ふふ、会いたかったわ」
彼女は微笑みながら、まるでカナメがここへ来ることを知っていたかのように、やさしくそう言った。
***
一方その頃
――
季節ごとに分かたれたエリアのひとつ、秋の森では、
賀茂と乙姫が黎昊と激しく刃を交えていた。
「辻極。来るぞ」
賀茂、辻極二人が向かい合うのは、どこか人間離れした雰囲気を纏う──黎昊
その姿は静かで、けれど周囲の空気をぴりぴりと張り詰めさせる。
「黎昊と言ったか
…
お前、なぜひとりなんだ」
賀茂の低く静かな問いに、返事はない。
風が落ち葉を巻き上げる。揺れる枝々の間、黎昊はただそこに“在る”というだけで、景色を凍らせていた。
人間離れした雰囲気に、乙姫が僅かに肩をすくめる。
「(
……
タカキの情報によると、コイツがカナメを誘拐した犯人なのは間違いなさそうなんだが──)」
心の中で賀茂が呟く。警戒は緩めない。だが相手は、こちらを見てはいても“対話”する気配がない。
「
……
答える気はないか」
わずかに目を細め、刀を握る手に力を込める。そのとき、黎昊の唇が僅かに動いた。
「無駄だ。お前達は、ここで終わる」
声は氷のように低く、感情の欠片すら見えなかった。
「なに?」
「命を張ってまで何を守ろうとしている」
空気が一変する。風が止み、霊力が一気に膨れあがる。
「来るぞ!」
刀が交わる音が、秋の森に鋭く響いた。
「くっ
……
速い──!」
賀茂がすぐさま反応して刃を受けるが、黎昊の一撃は重く、鋭かった。水のように流れる動き、無駄のない踏み込み。ただの力押しではない、静かで研ぎ澄まされた技。
「貴様
……
本当に何者だ
……
」
賀茂が問いかけても、返ってくるのは冷たい沈黙だけだった。
だが──次の瞬間、黎昊の口からぽつりと落ちた言葉が、空気を震わせる。
「返してもらうだけだ。俺たちの“大切なもの”をな」
「
……
大切なもの?」
乙姫が息を呑む。
その声音には明確な“怒り”があった。
「何を言ってるのか、全然──」
「お前たちにはわからんだろうな。
……
“あの夜”、何が失われたかも知らずに、生きてきたのだから」
──“あの夜”。
言葉の意味が読めずとも、そこに滲む憎悪と悼みだけは、確かに感じ取れた。
「賀茂さんッ──!」
乙姫が叫んだ時にはもう遅かった。
黎昊の霊力が一気に解き放たれ、賀茂の身体が宙を舞った。
「ぐっ
……
く、そ
……
っ!」
賀茂の左脇腹が深く裂け、鮮血が地に広がる。踏みとどまろうとするも、膝が崩れ落ちる。
「賀茂さん
……
!」
乙姫が前に出ようとする。
「
……
下がるな、乙姫。まだやれる
……
ッ」
だが、黎昊は静かに手を伸ばす。その仕草には、まるで「処理する」程度の感情しかない。
「誰が喋るといった。もう、静かにしていてくれ」
──その言葉に、乙姫の怒りが火を噴いた。
「黙れ」
その瞬間、彼女の霊力が燃え上がる。まるで爆ぜる火花のような激しい熱が、地を焦がした。
「“陽焔(ようえん)”ッ──!」
乙姫の火が、黎昊の動きを遮るように広がる。そこへ──
「ッ今だ、乙姫!」
賀茂が拳を強く握り、金色の力を地に伝わせる。
「“金輪裂破”──!」
鋭く研ぎ澄まされた金の刃が、地を這って黎昊に向かって走る。
火と金──ふたつの属性が、絶妙な連携で黎昊を捉えようと迫る。
──一瞬、煙が舞った。
「
……
はっ!」
「ッッッ!!」
「おい、よそ見をしていいのか?」
乙姫の一撃が、かすかに黎昊の頬を掠めた。
──初めて、表情が揺らぐ。
「
……
こざかしいな」
黎昊の目が細まる。
「だが、少しは楽しめそうだ」
再び霊力が膨れ上がり──今度は圧倒的なそれが空気を押し潰した。
「まずい──!乙姫、下がれ──!」
「間に合わ──」
その時。
──空が鳴った。
何かが“近づいている”。
それは、黎昊すらも一瞬だけ動きを止めるほどの“何か”。
「
……
ふん。なるほど。“近い”のか」
誰に向けてかもわからぬ言葉が、静かに漏れた。
その視線の先には
――
何もない。だが、確かに“何か”が迫っていた。
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