三毛田
2025-05-05 19:27:50
1084文字
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83 03. 一歩分の距離

83日目
縮めたい。縮まって欲しい

 前後に一歩分。左右に一歩分。
 同じ一歩でも、大きく違う。そして、その分だけ距離が開いてしまう。
『丹恒、待って』
 手を伸ばして触れようとした瞬間、目の前からフッと消える。
『ぇ』
 大きな水の龍が、目の前を横切り。
 そしてそのまま、空を飛んでいく。
 手元に残ったのは、鱗が一枚。
『丹恒……
 きっと、永遠の別れではない。けれど、あれを追いかけなければそうなってしまいそうだと、本能が訴えかけて。
 走り出す。
『うわあ!』
 突然足元が消え、落ちていく。
「はっ」
 地面に激突する! と、目をつぶったはずなのに、飛び起きた。
「夢……
 む〜? と、眠そうに夢獏がこちらを見上げてくる。
「大丈夫。お前も寝ていい」
 頭を撫でてやると、納得したのかすぐに寝てしまう。
 ポポンはポポンで、走っている夢でも見ているのか足が宙をかいて。
 アウー! と一度だけ吠えて、体を丸める。
 そっとリクライニングチェアを下り、テラスへ向かう。
「丹恒」
「なんだ。起きたのか。珍しいな」
 リラックスしながら読書をしていた丹恒は、名前を呼ぶとこちらを見上げ。
「お前こそ、夜更かししてるじゃん」
「もう読み終わる。いい子で待ってろ」
「お前が隣にいないせいで、悪夢なんだけど」
「珍しいな。夢獏がサボっているのか?」
「知らない」
 ポンポン言葉をかわしていると、少しうるさくなっていた心臓が落ち着いてきた。
「穹」
 ふと名前を呼ばれ。彼の方を見ると、本を閉じて自分の太腿を叩く。
「ほら」
 さらに腕を広げられたら、もう断れない。逃げられない。
「俺、重いけど」
「ちょくちょくのしかかられているから、知っている。大丈夫だ」
「お前なぁ」
 思わず声が出てしまったが、丹恒は気にすることなく俺を抱きしめようとしてくれていて。
 失礼します。と小さく頭を下げて、跨ってから胸に顔を埋め。
「よしよし」
 優しく頭を撫でるその手を、ただただ享受する。
「嫌な夢でも見たんだろう。明るくても眠れそうなら、ここで寝ろ」
「やだ。丹恒と、中で寝る」
 だって、ここはほとんど外だ。今の状態であれば、まだいちゃいちゃしていると誤魔化せるだろう。
 でも、これ以降はそうはいかない。ずっとこうしていたら怪しまれる。
 ちょっとだけ、俺の矜持に関わるからあそこだけは譲れない。
「わかった。一緒に寝よう」
 その言葉を待っていたので、そっと床に足をつけ丹恒の上から退く。
 タオルを床いっぱいに敷き詰め、痛くないようにして二人で寝転がる。
 一歩分の距離は、今はない。