けろか
2025-05-05 08:56:36
4632文字
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大正竹くく♀その後の話!前編① 〜えっちパーティに参加することになった二人の話〜 

晴れて婚約者になった後のお話です。
えっちなパーティに参加することになってわちゃわちゃらぶらぶ甘々するお話の予定です。
先に本編読んでくれると嬉しいです‼︎
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24254306
前後編のうち前編のチラ見せです!🔞シーンの手前まで。

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 彼女は美しい生き物だと思う。
 羽ばたく蝶を思わせる長いまつ毛。それに縁取られた猫みたいな瞳は、意志の強さを宿して静かに煌めいている。
 透き通ってなめらかな肌はありきたりな例えだけど、真珠のようだ。丸くて小さな頭を縁取る豊かな黒髪はしなやかに波打ち、細い首筋を際立たせる。
 その精巧な容姿と感情を見せない振る舞いから、彼女を人形のようだと揶揄する輩もいるが――彼女ほど豊かに心を動かす生き物を、八左ヱ門は他に知らない。
 あの華奢な体の奥に渦巻くものすべてを、自分だけが知っている。甘い優越感を覚えながら考える。
 例えば。先程おかえりっと弾ける声で八左ヱ門を迎えた彼女。正しく八左ヱ門しか知らないだろう。ぱっと花開くように笑い白いエプロンをふわふわ揺らし駆け寄ってきて、その勢いのまま抱きしめた。彼女の耳元へただいまっと同じだけ弾んだ声で囁くと、はにかむように身じろぐその仕草の愛らしいことといったら!
 悦ぶ……の方もすごい、と思う、多分。彼女しか知らないけれど。そういうことから遠ざけられて育った反動なのかなんなのか、清廉な見た目に反して、彼女はとても貪欲だ。普段は恥じらいがちで触れただけで真っ赤になるくせに、一度火がついてしまえば驚くほど大胆に、大胆すぎるほどに八左ヱ門を求める。あの細い体のどこにそんな情熱が眠っているのか。知っているはずなのに、裏腹な二面性にはいつも煽られてばかりだ。
 思い巡らせながら彼女が楽しそうに一つ一つ豆腐料理を説明する様を眺め――湯豆腐、冷奴、揚げ出し豆腐、卵とじ豆腐。彩りには丁寧に蝶の形に飾り切りした人参もあって、どれもこれも八左ヱ門のために作られたものだ。はしゃぐ彼女に相槌を打ちつつ、風呂じゃなくてご飯を先にしてよかったー、とこっそり安堵した。一緒に湯に浸かって豆腐のフルコースの話をされたら生殺しもいいところだ。
 哀しい顔は三年前にいやというほどさせてしまっていて、だから彼女には笑っていてほしいと心から思う。たとえどんなことがあったとしても自分が必ず笑顔にしてみせるとも決めている。しかし――行きたい豆腐屋があると弾んだ声で誘ってくれたその誘いを、絶対に外せない用事があるからと、来週にしてほしいと本当に泣く泣く断った。彼女は責めなかった。小さな唇をきゅっと結んだままいいよと寂しげに笑って、胸が抉られるようになったのが一分前。
 今現在、竹谷(もうすぐ名字は変わるのだが)八左ヱ門は、最愛の婚約者である久々知兵助に、あろうことか怒りの感情を向けられていた。
「もう一度言ってくれるか? その絶対に外せない用事は何の用事なのか」
……パーティに参加しなくちゃいけなくて」
「そのパーティとやらに私も一緒に行く――って言ったらなんて言った? そこをもう一回」
……その……やらしい……いかがわしいパーティ、だから、兵助は連れてけない……
 泣きたい気持ちで、なんとかそう絞り出す。彼女は凛々しい眉をきりりとつり上げて、大きく溜息をついた。
「その……パーティに参加する意義はわかる。人も情報も動くからな。“そういうこと”だけじゃなく、企業の勢力図だとか、対外的な距離感の測り方……婚約発表でどう立ち回るべきかを見極める材料にもなる。――怒っているのは、八左ヱ門が隠そうとしたからだ」
「だって絶対怒るだろ! 現に今怒ってるじゃん!」
 うああ、と内心頭を抱える。言い訳のひとつでも用意しておけばよかった。「仕事の付き合いで」なんて月並みな――
 しかし八左ヱ門は生粋の正直者というか、嘘をつけない質なのだ。頭では言葉を探していても、口より先に顔に出る。まして兵助を前にして、うまく取り繕える自信なんてあるわけもなくて。
 だいたい、今日も明日も兵助は実家に泊まるはずだったのだ。帰ったら明かりがついてて驚いた。(本人曰く、八左ヱ門に会いたくて頑張っていろいろ巻きで終わらせたらしい。かわいい。)なので今夜はひとりでは大きすぎる家で寂しく抜いて寝る予定でいた。それがなぜこんな展開に――伏せた顔を上げれば、怒りに開いた瞳孔がじっとこちらを捕らえてくる。端整な顔立ちをしているだけに迫力がある。
「怒らないと思うか? ……許すとも言った。その代わりに、私もそのパーティに参加する。いいな」
 こうなった彼女は頑なで、てこでも動かない。観念した八左ヱ門は、いくつかの算段を立て――彼女の望む言葉を絞り出したのだった。
――わかった。……まあ兵助は言い出したら聞かないだろうから? 分かったけど……お父上には言うなよ」
 背後の書棚に挟んだ招待券を取り出して、二枚組の紙切れをひらひらと振って見せる。兵助はそれらを一瞥すると、はあ? と眉を寄せた。
「言うわけないが」
 当たり前だろうと唇を尖らせて不満気だ。だが八左ヱ門にも釘を刺さなければいけない事情がある。
「実家にも洋服取りに戻るなよ、ここにあるやつ着ていくんだぞ」
「なんで」
……えーっ、とぉ……
「八左ヱ門」
――……お父上から言われたんだよ。俺が、俺だけがこれに参加してくれって」
「へ」
「その……用事早く終わらせたって言ってたけど止められたりなかったの」
「なかったけど……えっもう終わらせたのかとは言ってた」
 その時の顔が目に浮かぶようだ。頼むね、と頭を下げる姿も一緒に。
 ――君のお父上なら、二人で行った方が効率がいいとおっしゃるだろうがね。彼女はああいう場には慣れていないから。
 八左ヱ門はごめんなさい、と心中で手を合わせた。
 それはそうだろう。兵助はものごころつく前に母親を亡くし、それはそれは大切に、蝶よ花よと育てられてきた。――自分を律しすぎる性質のせいで、厳しく育てられたように感じる部分ももちろんあるが。真面目で冷静な面が目立つけれど、彼女の本質はおっとり天然なお嬢様だ。そんな箱入り娘を、爛れた集まりに進んで連れ出したいわけがない。
……教えてくれたらよかったのに、はちも、お父様も……
 さっきまでの迫力が嘘みたいに、しおらしく肩が落とされる。伏せられたまつ毛がふるんと震えるのを見て、慌てて口を開いた。
「ま、まあ! お父上も大事な兵助にそういうの聞かせたくなかったんだろ! そりゃそうだよ、俺で済むならそれに越したことはないし。俺は慣れてるし? あとは、俺に対する心配の現れってい――
「はち、慣れてるんだ」
「あ」
 気持ちを全く映さない平坦な声音に、冷たいものが背を這い上がる。彼女の視線がゆるりと持ち上がり、八左ヱ門を射抜いた。そのまなざしにいつものような光はなく、ただ暗い輪郭だけがある。
 これが人形と言われる所以だろう。けれど八左ヱ門は知っている。彼女がこの表情をするときが、いちばん哀しいのだということを。怒って泣いてぐちゃぐちゃになった気持ちをぶつけられた方がよほど救われる。居ても立っても居られなくなり、華奢な肩に手を伸ばし――
「へいす……
――いろいろ、事情あったのに嫌な言い方してごめん。お風呂入ってくるね」
「待っ」
 うるんと膜を張った瞳が、八左ヱ門を捉えて揺れる。まばたきで見えなくなって、くるりと踵が返された。追いかけようとして、豆腐フルコース後の大量の皿が目に入る。まるで非難するようにこちらを見ているようだ。
 ――やってしまった。重たい後悔がずしんと肩にのしかかる。とりあえずこれを片付けなければと、急いで食器の山に手を伸ばした。
 
 ***
「兵助」
 仄かに灯るスタンドライトの明かりが、寝台の上にやわらかな影を落としていた。室内にはまだ、湯あがりの空気が残っている。ぬるい熱とともにふわりと漂う甘いにおい。彼女の気配が八左ヱ門を包みこむようだ。
 ――爆速で皿を洗ってそのまま風呂場へ直行したら、ご丁寧に脱衣所から鍵がかかっていた。あれだけがちゃがちゃやったのに出てきた彼女はなんでもない顔を装っていて、確実になんでもなくないのが丸分かりだった。
――へーすけ、」
 返事はない。視線の先、やわらかなシーツの中央に小さく丸まった人影がある。掛け布が膨らんだその輪郭に心臓がどくりと脈を打った。端に寄らずにわざわざ真ん中に寝転んでいるのは、つまりはそういうことだ。知らず知らず口角が上がってしまう。浮かれそうになる自分をぐっと抑えゆっくりと近づく。寝台に膝を乗せれば、ぎしりと鳴った音に細い体が掛け布の下で小さく震えた。
 横臥した柔らかな身体を囲い込むように腕をつき、その上に影を落とす。檻の中に閉じ込めるように身を屈めた。
「へぇすけー……
……っ」
 豊かな黒髪をかきわけて白いうなじを露出させる。犬みたいに鼻先を埋めて息を吸い込むと、甘く柔らかなくらくらするにおいがした。なめらかな肌を辿り、鼻で頬をくすぐるようにつつく。閉じられたまぶたにきゅっと力が入り、ゆっくりと持ち上がった。一緒に長いまつ毛も揺れる、やっぱり蝶々みたいだと思った。
――っ、くすぐったい。……はち、すぐ犬みたいなことする」
「こーすると兵助、絶対笑うから。――今日、哀しい顔させちゃって、ごめんな」
……別に、してないよ。そんな顔なんて」
「してるよ。俺わかるもん」
 ほの暗い光の中、ゆらゆら揺れる瞳。そこに自分だけがが映っていることが嬉しい。八左ヱ門の世界にも彼女しかいないのだと、分かって欲しくて瞳を近づける。
 ふ、と小さく息が吐かれて、彼女の細い指が檻にした腕に縋り付くように絡まった。
……八左ヱ門が慣れてないことなんて知ってるし……
「うん、」
「あの時、ワンピース脱がすのすごく手間取ってた、下手だったから……慣れてないの、知ってる」
――今は上達しただろ?」
「わ」
 彼女の寝巻きにするりと手を滑り込ませて合わせを乱す。肩からずり落としてその布を寝台の端に放る。灯りに透けるように彼女の輪郭が照らされた。
 自分のも脱ぎ捨て、ぺったり皮膚同士をくっつけて背中側から抱き込む。なめらかな素肌は吸い付くようで、しかし思ったより冷たい。腕の力を強くして体温を少しでも移そうと試みた。
「ふふ、これを脱がすのは前から上手いよ」
……お褒めに与り光栄です、お嬢様?」
「なんだそれ、へんなの」
「んー? お嬢様の犬……みたいな、褒められると尻尾振っちゃう」
 くるくる跳ねる生え際に唇を押しつけて、ちゅ、と音を立てる。くすぐったそうに揺れる肩がかわいい。耳の奥でとくとく鼓動が重なる。どちらが自分のものか分からくなって、ぽつりと彼女の声がこぼれた。
――はち、は犬じゃなくて……だんな、さま、だよ……
 蚊の鳴くようなか細い声。羞恥に染まった頬はシーツに埋もれて見えなくなっていく。――でも、真っ赤に色づくその耳が何より雄弁だ。
…………な、なんか言えって、ッ!」
 獣じみた衝動のまま、首筋にがぶがぶ噛み付くように口付ける。べろりと舐め上げ、逃げを打つようにくねる背を抱きすくめ、じゅうっと強く吸い上げた。ひぅと弱々しい声が上擦る。白いそこに赤く刻まれた、八左ヱ門のしるし。この美しいひとは俺のものだ。
「い、あ、いたい、いたいのやだ、……っ」
……だいじょぶ。もうあと気持ちいいことしかしないから」

(つづく)