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40_umanira
2025-05-05 08:54:20
4526文字
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再会(未完)
待っているシリーズの続き
アベンシオ
失踪したアベンチュリンが5年ぶりに帰ってきた話の続きのめちゃくちゃ序盤だけ
気が向いたら続き書く用に格納
めちゃくちゃブツ切りです
今日が雨でよかった。
ビニール傘に跳ねる雨音が、世界からレイシオの心音を隠すかのように響いている。散らばる思考を必死にかき集めながら、彼は最寄り駅へと続く坂道をゆっくり歩いているところだった。
失踪していたアベンチュリンから連絡があったのが2日前。短い通話を経てすぐ再会とならなかったのは、もちろん元々詰まっていた予定を優先するほどレイシオの情が薄れていたからではない。単純な話だ。アベンチュリンが生還した星からレイシオの大学のある星までにかかる日数が、最短で2日だったのだ。その間レイシオはーー普段の彼からは考えられないことだがーーアベンチュリンに小まめにメッセージを送り、時には自ら通話までかけていたのだが、幸いその全てに応答があり、抱いた希望を打ち砕かれることなく無事に再会の日を迎えることとなった。
連絡があってからの2日間レイシオは空白の5年以上の焦燥を味わっていたが、いざそれが目前に迫ると必要な時間だったとも思える。状況を整理する猶予があった今回でさえ、どんな顔をすべきか、どんな言葉をかけるべきか、何を聞くべきか、自分が何を伝えたいのか、そもそも彼が彼のままであるのか等々、思考がとっ散らかってしょうがないのだ。数日の何気ないやり取りを経て少しずつ平静を取り戻した状態ですらこれなのだから、あの日すぐ会っていたら色々と決壊していただろう。
アベンチュリンの状況についてはごく僅かなことしか聞いていない。大きな怪我なく無事であることと、当時滞在していた星で大規模なエネルギー爆発が発生し、その結果引き起こされた星震が長い失踪に繋がってしまったこと。後者についてはそもそもが市場開拓部と合同の任務先で起こったことで、カンパニーと協力して捜索に尽力していたレイシオが今更驚くような話でもなかった。
坂を登り終えると大通りに差し掛かる。渡った向こう側が待ち合わせの駅なので、歩みを進めながら記憶の中の彼と合致する人影を探した。しかし行き交う人々の傘が邪魔でよく見えない。横断歩道を渡って駅の屋根下までやってくると、傘を閉じてもう一度あたりを見渡した。コートのポケットから端末を取り出して時間を確認する。約束の5分前だ。
ため息をつきながらレイシオは目を閉じた。何を焦っている。あれは早めに来て待っているような男ではないから、姿が見えないのは当然だろう。そう頭では思っていても、鼓動と感情は制御できない。壁に背を預け、努めて平静を装いながらそれでも視界に入るすべての人間を視線で精査していく。彼でないとわかるたびに胸の内に塵が積もっていき、肥大化する不安を抑え込むように拳を握った。待つのは慣れているはずだ、なにせ5年も待った。たった2日、たったの5分、そのぐらい穏やかに待てないものなのか。だから己はいつまでも凡人の枠に収まってしまうのだ。
段々雨音が心音にかき消され、息が苦しくなっていく。せり上がる緊張に体が慣れていないのか、胃がムカムカして、耳鳴りと共に全身から体温が引いていく感覚。まずい。経験したのは初めてだが知識として知っている、これは貧血の初期症状だ。
「レイシオ?」
ざあっと雨音とともに周囲の音が戻って来る。次いで全身の感覚が蘇り、手のひらに爪が食い込む感覚で握っていた拳から力を抜いた。よほど呆けていたらしい、気づけば真横にアベンチュリンが立っていた。記憶と変わらない顔立ちにほっとしたのはほんの一瞬で、その姿を見るなりレイシオは思わず顔をしかめる。次いで放たれた第一声は、ここに来るまで散々考え悩んで候補にあげていったどれとも違うものとなった。
「ふざけているのか?」
「あは! 絶対怒ると思ったよ」
レイシオは当然アベンチュリンがあの見慣れた孔雀の装いでやってくるものだと思っていた。だが目の前の彼は胸元の空いたシャツ1枚と薄手のスラックス姿でそこに立っていた。高級幹部時代の彼であればありえないことだが、どちらも綻びが目立ち、長年着古されたものだとわかる。その上全身びっしょり雨に打たれたようで、理由を聞くより先にレイシオは自分のコートを脱いでアベンチュリンに押し付けた。彼は特に抵抗することもなくそれを受け取ると、袖に腕を通しながら話を続ける。
「いろいろあってコートはダメにしちゃったんだ。この星に着いたらまず服を買おうと思ってたんだけどね。まいったよ、口座もカードも止まっててさ。信用ポイントが下ろせなかったんだ。端末に少し残ってた分でギリギリここまでは来れたけど、傘を買うほど余裕はなくて」
「なぜ着いた時点でそう連絡を入れられない
…
!」
「だってレイシオ、考えてもみてくれよ。戻って早々金を貸してくれなんてあまりにも格好悪いだろ?」
レイシオは額に手を当ててため息をつく。先ほどとはまったく別の理由で具合が悪くなってきた。懐かしい感覚でもある。
「季節外れの服装で街を歩いた挙句、濡れ鼠になって風邪を引く方が格好がつくと思っているのなら、カンパニーの新人向けマナー講習を受け直すべきだな。あまりに初歩的すぎて教本がカバーしきれるか怪しいところではあるが」
「はは。まだ席が残ってたらそうしたんだけどね。ところで悪いけど一旦どこか中に入ってもいいかい? あまり立ち話をしてると風邪が冗談じゃ済まなくなりそうでね」
「うちまで少し我慢しろ。5分もかからない」
言いながらレイシオはアベンチュリンのコートのボタンをしっかり留めていく。
「えっ
…
でも急に悪いよ」
「君はバカか。なんのためにここを待ち合わせ場所にしたと思っている」
心底意外そうな顔をするアベンチュリンを見て事情を察したレイシオがもう一度ため息を贈る。
「5年で記憶まで失くしたか?ギャンブラー。僕は君と別れた覚えはない」
家に着くなり身包みを全て剥がされたアベンチュリンは、以前何度も訪れていた部屋を懐かしむ余裕すら与えられぬまま、雑に風呂場に押し込まれた。1度話を
…
と振り返れば仁王立ちしたレイシオに無言で睨まれ、その圧に負けて大人しく湯に浸かることにする。
この数年、サバイバル生活と表現するに値する質素な暮らしをしていたアベンチュリンにとって、この入浴は有り難かった。上から下まですっかりホカホカになった状態で脱衣所に出ると、いつの間に用意されたのか、洗面台にはドライヤーと自分のパジャマが置いてある。記憶が正しければこの服は自宅で使っていたもののはずでは?とアベンチュリンは首を傾げた。
「レ〜イシオ〜これどうしたんだい?」
脱衣所の扉からひょっこり顔を出したアベンチュリンが毛先に水滴をぶらさげながらリビングにいるレイシオにそうきく。先に髪を乾かしてから聞け、と呆れながらレイシオはソファから立ち上がり、スリッパを鳴らしながらアベンチュリンの元へとやってくると、片手で彼を脱衣所に押し戻した。洗面台のドライヤーを手に取り電源を入れ、アベンチュリンを自身の前に立たせて蜂蜜色の髪に指を通していく。
「カンパニーが君の部屋を引き払った際、いくつか私物を引き取った。ゲストルームにまとめてあるから後で確認するといい」
「へえ!よく許可が降りたねえ!」
ドライヤーの風の音に負けないようにアベンチュリンがそう声を張る。レイシオが鏡越しにその顔を確認すると、彼は目を閉じて気持ちよさそうに髪をいじられている。トリマーとはこんな感覚だろうか、とぼんやり思った。
「処分するものが少ない方が手間が省けるだろうからな。その際ジェイドとトパーズには僕らの関係を話さざるを得なくなったが
…
」
「え
…
気まずいな
…
」
「君がいない間も彼らと働いていた僕の方が遥かに居た堪れなかったが、どういたしまして」
「
……
ごめんって」
レイシオは髪を乾かし終えると、ドライヤーを切ってブラシに持ち変えた。駅ではそれどころではなかったから気づかなかったが、アベンチュリンの髪は以前より襟足が短く、自分で切ったのか全体的に長さが不揃いだ。整えられるような環境でなかったのだろう。
つむじから毛先に向かってブラシを何回か通して癖っ毛をまとめていくと、不思議と胸がきゅっと切なさに支配された。アベンチュリンがいなくなる前もこうして髪をいじることがあった。かつての日常を思い出すと、彼は今確かに戻ってきて自分のそばにいるはずなのに、夢なのではないか、また遠くに奪われるのではないかという不安に襲われる。正面の鏡越しにその様子を眺めていたアベンチュリンはくるりと向き直って両手を広げると、視線でレイシオに抱擁を強請った。突然のことに驚いたレイシオが固まり、二人の間に沈黙が流れる。
10秒ほどそうしていただろうか。痺れを切らしたアベンチュリンが一歩レイシオの方に踏み出し、挙げていた両手を彼の両脇にするりと伸ばす。そのまま抱きつく形で身を預け背中に手を回してやれば、アベンチュリンの背にもおずおずとレイシオの手が伸ばされる。5年ぶりに愛しい人の香りと体温に包まれ、アベンチュリンは安堵を噛み締めるように深呼吸をした。
彼にとってはこの帰還も賭けであった。この5年、アベンチュリンは恋人の元に戻ることを支えに生きてきたが、それでもレイシオが待っている保証がないことは十分理解していた。もしかしたら自分は死んだことになっていてレイシオの隣には別の誰かがいるかもしれない、そうでなくとも普通に愛想をつかれているかもしれないし、仮に待っていたとして以前と同じ熱量で迎えてもらえるとも思っていなかった。だからこそ今日レイシオの最寄りで待ち合わせた時は期待と不安で内心ぐちゃぐちゃになっていたし、レイシオの方から「別れたつもりはない」と聞かされた時はその場でスキップして通行人に「僕らまだ付き合ってるみたいなんだ!」と教えてやりたいくらいだった。そうしなかったのは理性とプライドと常識があったからだが、悲しいかな、それだけではない。レイシオは律儀な人だ、この後正式に別れを告げるために時間を作ってくれたのかもしれない
…
と妙に勘ぐってしまったのだ。
その不安はこうして彼を抱いていても消えることはなく、実際本当にそうだったとしたら、きっぱり受け入れようという覚悟もあった。不可抗力とはいえ彼から5年という時間を奪ったのだ、文句を言えた立場ではない。
ふとアベンチュリンは何かに気づいて顔を上げた。以前は彼の背中で両手を組める程度の体格差だったが、今回はだいぶ無理に抱きしめないと腕が回りきらない。
「レイシオ、結構鍛えてる? ちょっと大きくなった気がする」
「
………
」
言われてレイシオは思わず抱き返す腕に力を込めようとしたが、やめた。本気で彼が何処かを痛めてしまうのではないかと思ったからだ。代わりに縋るようにパジャマの布地を握りしめる。君が小さくなったんだ、とは言えなかった。
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