ペユの瓦礫
2025-05-04 22:06:32
2275文字
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乾杯

#深夜のシャリ受ワンドロワンライ シャアシャリです。お題「乾杯」

 ソドンの廊下は移動するためのレバーが付いている。足で床や廊下を蹴らなくても低重力下で移動ができる便利な設備である。そのレバーでふたりの士官が移動していた。ソドンに帰投したばかりのシャア・アズナブルとシャリア・ブルだ。
「学徒動員、だと思います」
 小さな声で、シャアの相棒は言った。顔色は真っ青である。
「このところの出撃で急に増えました」
 シャリア・ブルがキケロガを受領して、まだ日が浅い。彼は数える程の出撃数で、すでに目覚ましい成果を挙げている。だがシャリアの心情としては自分は未だ新米パイロットであった。シャア・アズナブルという先輩のエース・パイロットと比べると、足元にも及ばないと思っている。
 しかしパイロットとしては未熟であっても、ニュータイプとしては感覚が発達しすぎているのかもしれない。戦場には敵味方含めて多くの兵士がいる。出撃の度に彼ら・彼女らの感覚を拾っていたのでは、すぐに消耗してしまうだろうとシャアは思う。
「連邦も追い詰められているのですね。しかし、子供まで……
「眠れているか? 食欲は?」
 問いかけながら、まるで船医かカウンセラーだとシャアは独り言ちた。
……大丈夫です。私は割と図太いんです」
 シャリアは無理に笑おうとする。
「今から食堂に行こう」
 シャアの提案にシャリアは虚をつかれる。シャアはシャリアの腕を掴んで自分のところに引き寄せると、レバーから手を離した。足で壁を蹴り、進路を変える。
「この後、ドレン大尉たちと打ち合わせでは」
「それは後回しだ」
 ソドンには大小合わせていくつかの食堂があるが、いつも上級士官たちが利用している食堂へとふたりは移動した。
 シャアが椅子に腰を下せばシャリアもそうしない訳にはいかない。基本的にはセリフサービスの施設だが、ソドンの責任者であるシャアが顔を見せると、下士官が給仕代わりに姿を現す。
「今出せる一番美味い食事を持ってきてくれ。私と大尉の分だ」
 雑に注文をしてから、シャアはシャリアに顔を向けた。
「サイコミュで出撃するようになって、戦場にいる兵士たちの状態を感じることができるようになった。しかし私はそれが子供かどうかまでは分からなかったな。大尉は最初から分かっていたのか?」
 シャリアは頷いた。
「ふうむ。では、ニュータイプかそうでないかは分かるか?」
 シャアに聞かれて、シャリアは考えた。自分の拡げた感覚の中の、ミノフスキー粒子散布範囲内の戦艦やモビルスーツ、兵士たちの様子はおおよそ分かる。その中にニュータイプはいたかどうか。
「多分分かります。今までニュータイプが戦場にいるかどうかは気にしたことがなかったですが」
 食事が運ばれてきた。野菜のスープ。サラダ。パン。低温で焼かれた鶏肉。シャアの注文を給仕役の下士官がコックにどう伝えたのか分からないが、全て山盛りであった。
「大佐はいつもこんなにお食べになってるんですか?」
「ああ、我々はパイロットだからな。体調を良い状態で保つのも仕事だよ」
 顔色が悪いままだったシャリアだが、シャアに勧められるままに食事を始める。
「ニュータイプが探し出せるならそんなに好都合なことはないな。ニュータイプだけで編成したモビルスーツの部隊を作りたいと思っていた。サイコミュを搭載した専用のモビルスーツをたくさん作らせて、な」
 シャアの話をシャリアは目を丸くして聞いている。
「そんなことをお考えだったとは」
「いずれ私たちがニュータイプの組織の先導者になるんだ」
 シャアの言葉を、シャリアは野菜を噛み締めながら聞いていた。ドレンたちがマメなためソドンでは補給で問題がおきたことがない。そして艦の責任者でありパイロットでもあるシャアには一般兵士たちよりも質のいい料理が供される。だからといってシャアがことさらに過食するということはなかったが、今はシャリアにはたくさん食べさせなければいけないという気がした。そのために意識的に目の前の食事を口にしていく。
「もし戦場にニュータイプがいたら、普通の兵士より生き残る可能性が高いのではないかな」
「確かに、それはありえます。今までに戦った中にも、いたのかもしれません。連邦にも、ニュータイプのパイロットが……
 ふたりが会話していく中、サラダやパンが切れると給仕がすぐに補充をする。
「ニュータイプは敵に回したくありません。できれば、なるべく仲間にしたいですね」
 会話をしながらシャリアはどんどんと食べ物を胃袋に入れていった。
……あなたは、結構大食いなんだな……
 そんなシャリアを見て、シャアの口からこんな言葉が出る。
「ああ、そうなんですよ。出てくるとあるだけ食べてしまうのが、木星時代からの悪習ですかね」
 『割と図太い』は自己申告でなく本当にそうだったのかも……とシャアは思いはじめた。さすがに片道2年の長旅をこなしてきた経歴は伊達ではない。シャリアが満腹になってきた頃、食事の給仕が終わり、一本のワインとふたつのグラスが運ばれてくる。
 シャアはワインが注がれたグラスを二人のちょうど間の位置に置いた。
「これは、今日死んだ若者たちに」
 献杯だ。それを理解したシャリアは頷いて、黙祷をした。
 しばらくの間、散っていった命たちを悼む。
「それから、これはこれからの世界を作るまだ見ぬニュータイプたちに」
 シャアはグラスをシャリアに渡し、自分の分も手に持った。
 小さな音を立てて、ふたつのグラスが重なる。
「乾杯」