うずめび
2025-05-04 21:40:21
4868文字
Public ウル博
 

ウル博 潜入捜査の話 書きかけ

タイトルそのままでウル博でどっかの宗教団体に潜入捜査をする話です。書きたい場面のみの走り書きです。

コールオブクトゥルフのインスマス的なそれというか、ダゴン教会的なサムシングの団体に潜入する二人が見たかった。最後は博の言論とウルピの暴力で全てが解決するやつがみたいです。

 美しい白で統一された教団の建物の通路に二つの音が響く。片方は革靴の立てる規則正しい足音、もう片方は押された車椅子が立てる微かな車輪の音だ。

「いつもすまないね、ケートゥス」
「大した手間ではない」

 車椅子に座る男ーーードクターが声をかければ背後で車椅子を押す男、ケートゥスから声が返る。いつもの近寄りがたい服ではなく、スーツを着て見目よさが引き立っているためか通路を行く女性信者の視線を惹いているのだが、それに気づいているのかいないのか。ケートゥスーーーもといウルピアヌスはドクターに声をかけた。

「ここではお前の体に障る。部屋に戻るぞ」

 体を冷やすなと言っただろうと前に回り込み、膝掛けをなおして頬に触れる姿はいっそ献身的だ。素敵な旦那様ね、とにこやかにかけられた言葉にドクターは愛想笑いを返しながら、膝掛けをなおす際に仕込まれたメモをそっと握りこむ。

「ああ、そうだね。皆には悪いけれど私たちは部屋に帰らせてもらおうか」

 


 そも、なぜドクターが車椅子に座り、ウルピアヌスがケートゥスと呼ばれているのか。それは少し前の執務室にさかのぼる。

「ーーーお前、永寿の会というのに聞き覚えはないか」

 常と変わらない深夜の情報交流の時間。近況をとドクターが口を開くよりもはやく、珍しく自身から向き合ったウルピアヌスが口を開いた。元よりドクターもその件にはついて聞こうと思っていたものだったから、ちょうどいい。

「驚いたな、私からも聞こうと思っていたのだが。君が知っている事と重複する可能性はあるが、まずは資料を出そうか」

 ロドスの有能な諜報部からの報告をドクターがまとめた紙の資料をウルピアヌスに差し出し、ソファーに座るように促した。自身もデスクからソファーに移動しつつ端末で開きながら資料を読み上げていく。

「永寿の会。元は極東で発足した宗教団体であるようだ。発足時は生活に困る難病の罹患者のためにつくられたとのことだが、時がたつにつれて鉱石病の感染者の受け入れを主に行っている。活動の拠点は現在は極東ではなく、炎国の辺境。宗教団体ではあるが、慈善団体かつ自助会的な側面が強く、感染者を保護しては鉱石病に対する勉強会や、就労の斡旋を軸に活動を行っているようだ」

 鉱石病がテラに蔓延してからというもの、鉱石病患者の保護や就労の斡旋を行う団体は珍しいものではない。差別するものもいれば、全うな善意から保護団体を作るもの。商業主義的な観点はあれども、比較的中立な理念を持って仕事を斡旋する商会を作るものなど様々だ。
 大小無数にある感染者にまつわる団体のなかで、永寿の会と呼ばれる団体もそう珍しい存在ではないーーーもっともただ善良な団体であればウルピアヌスが気にかけることなどないのだが。

「基本的な情報は押さえているようだな。そこまで理解しているとなれば、その団体の噂も知っているだろう」

 隣で冷ややかに瞬く赤い瞳に頷いて、ドクターは端末に指を滑らせた。互いにとって重要であるのはここからだろう。

「新たな命を得られる、というものだろう?なんでも教祖の祝福を授かれば、新たな命を得られるとかなんとか。この時点で相当にきな臭いが、諜報部から不定期に深海教会とみられる信徒が出入りしている様子があると」
「ロドス側もそこまでは掴んでいるか。諜報部といったが、誰か潜入は?」
「作戦の案は出ているが、私としては手を出しあぐねている。君が考えているようにシーボーン絡みの事案であれば、ロドスのオペレーターだけでは手が余るだろう」

 シーボーンの驚異をミリアリウムで実体験として知るドクターとしてはすぐに潜入をとは言い難い。ミリアリウムの訪問とてアビサルハンターとイベリアの審問官との協力があってこそだった。

「単純に潜入の心得があるだけでは対処できるものとは考えがたい。かといってアビサルハンターや審問官を表だって引き連れては、向こうに警戒されてしまう」

 ロドスのオペレーターであれば潜入と戦闘、双方が得意な人員を揃えるだけならばそう難しい事ではない。アスカロンやスカベンジャーをはじめとした面々や、ファントムやマンティコアなども候補にあがるだろう。
 ただ相手がシーボーンとなればいくら有能であったとしても勝手が違ってくる。神経損傷に溟痕など彼らの生態に基づいた行動に対して既知であるか、そして対応できるかが生死を分ける。そう考えればこそ、すぐに潜入をとは言いがたかった。

「しばらくの様子見も進言されたが、深海教会が関わっていると知ってしまってはね。こちらとしても内部の動向を掴んでおきたいというのは本音だけれど」

 報告を聞いてウルピアヌスが眉間に皺を寄せたのをドクターは見る。ウルピアヌスがわざわざこちらにこの話をふったのは、ロドスであれば何かしらの手だてがあるだろうと見込んでだったのだろう。彼からすればあてが外れたところもいいところで。だからだろうか、普段ならば口にすることもない戯れ言を漏らしたのは。

「そんな顔をしないでくれないか。ああ、いっそ君と私で潜入してみようか?君は対シーボーンの専門家だが、永寿の会に単独で潜入するには目立ちすぎる。対して私は対シーボーンに対しての知識こそあれ、個人で対応するは難しい。だが君に比べれば相手から警戒は抱かれづらいはずだ」

 永寿の会は表向き福祉団体として存在している。ウルピアヌスのような見るからに逞しい成人男性はいささか馴染みが悪い。潜入するにしても何かしら理由づけが必要になるだろう。ーーー例えば病人と親しい関係にあり、日々の介助を行っているなど。

……存外悪くない案のように聞こえるな。もっともその実行可能性を除けばだが」
……君もそう思うか?確かに私の潜入許可が下りるかの懸念はあるが、逆に言えばそれさえクリアできれば問題ないのでは?」

 言葉にしながら、あるいは聞きながら存外悪くない案なのかも知れないと思ったのはおなじだったらしい。潜入は二人きりだが、協力者を君だけに限る必要はないと言ってドクターは隣に座るウルピアヌスを見つめた。今思えば君が群れから離れられる日数はと聞いた時から作戦ははじまっていたのだろう。





 それからの二人の行動は早かった。ウルピアヌスは早々に群れから離れる日数を確保し、ドクターも粘り強い説得のもとケルシーからの許可を取り付け、エリートオペレーターたちの協力を勝ち取ることに成功した。シーボーンがまつわる案件にもかかわらず、存外素直に許可が出たのは同行者の存在が大きいだろう。アビサルハンターの創始者の肩書きと戦闘経験は伊達ではない。
 ともあれ。潜入にあたって変装や肩書きを考える中で、いっそ極端にした方がいいと言ったのはドクターだった。ドクターはまだしも戦闘経験が所作や雰囲気からうかがえるウルピアヌスは相手に警戒心を抱かせやすい。加えて顔を半ばまで隠しているとなると、傷跡があるからなど適当な言い訳を用意したところで目を引くのは事実だろう。

「君から警戒を外すにはいっそわかりやすい弱点があった方がいいだろう。いざとなったらあれをどうにかすればいい、と思わせるようなものを傍においておくのはどうかな」
「何が言いたい」
「私がそれになるという話だ。潜入にあたって共通の設定を決めておこうか。相手を油断させるためのものだから、怒らないで聞いてくれると嬉しいな」

 福祉団体という組織の表向きの属性、加えて社会的弱者を受け入れてきた事を思えばそれらしい設定が必要だからと前置きをしてドクターは口を開く。

「君と私は同性の伴侶ということにしておこう。互いにイベリアで暮らしていたが、天災で家を焼け出され私が足に障害を持つことになった。車椅子になったパートナーをつれて人づてに炎国に仕事を求めに来たところ永寿の会を知った、なんてどうかな」

 私は常に車椅子での行動になるが、わかりやすい弱点があれば君への警戒はかなり外せるだろう。それに入会希望も私の足を理由に使えるし、介助の名目で常に傍にいるのも不自然ではない言い訳ができる。
 説明に対してウルピアヌスは目を緩やかに瞬かせ、最終的にしかたないとでも言いたげなため息とともに了承の意を返す。

「それがお前の設計であれば異論はない。任務の成功率が上がるのであれば甘受しよう」
「受け入れてくれて助かるよ」

 後は必要な物を用意するだけだ。車椅子に、相手側に気づかれない形での連絡手段など。今回の相手を思えばこそ警戒も用意もしすぎる程度でちょうどいい。メカニストやロゴスあたりと詳しく話をすべきだろう。機械と巫術、双方からのアプローチはきっと役に立つ。

「設定が決まったのであれば後は準備するだけだ。少し時間をくれると嬉しい」





 そうして急ピッチで進められた装備や道具の準備は十日もかからずに終わり。ケートゥスという偽名を名乗るウルピアヌスと車椅子に乗ったドクターは永寿の会へと潜入を成功させた。
 初日こそ遠巻きにされてはいたが元々わけありの人々が多いことや、永寿の会の表向きの活動しか知らない信者たちは善良な婦人が多いせいか三日もたてばそれなりに周囲に馴染んで来たように思う。

「ふふ、素敵な旦那さまだって。君も存外乗り気だね、ケートゥス?」
「お前も人の事を言えないだろう、しおらしい真似が得意な稚魚めーーーそれで教祖とやらについて何か話は聞けたか」

 適当な体調不良を訴え、午後の勉強会から抜け出して戻った教団に与えられた二人部屋にて。車椅子から抱き上げられて座らされたベッドの上、軽口の後で囁かれた声に頷いた。膝掛けをなおされた際に仕込まれたメモーーーウルピアヌスが作成したこの施設の地図を開きながら口を開く。

「基本的な事はそれなりに。教祖は永寿様と呼ばれているようだ。週末にこの施設に来ては選ばれた信者に祝福を与えるらしい。祝福を与えられる信者は別館に連れていかれて、そちらですごしているようだ」
「入会時に見たここに隣接した場所にある建物か。仮にお前か俺が祝福の対象になった場合厄介だな」

 分断の可能性があると言うウルピアヌスにドクターは頷きながらも、聞いた事を話していく。

「その可能性は捨てきれないな。ただ今までは夫婦、ないし類似した者は二人ともに選ばれていたようだ。親しいものを離ればなれにしておくと組織に対する不信感が募りやすいからだろう。それに口封じをするにしろ、何をするにしろ二人そろっていた方がやりやすい」
「それはある意味で僥倖か。別館内部では不明だが、少なくとも別館までは分断される可能性は薄いな」

 





 からからと自身で車椅子の車輪を回しながらドクターは施設の中を行く。三日もいればおおよその施設での生活の流れと大まかな地理は入ってくるものだが、別館については不自然なほどに情報が入ってこない。

 ーーーあちらは栄寿様に選ばれた方がいらっしゃるところだから私たちも詳しくはないの。

 教団全体で午前に行われる就労時間においても、午後に行われる鉱石病における勉強会においても、合間に信者に話しかけたところで返ってくる答えは似たようなものだ。ちらりと栄寿様のお付きの方が出入りしているようだとの証言をもらったが、それがおそらくは深海教会の信徒なのだろう。
 一般の信徒の出入りを制限して、あまつには別館からこちらに戻ってきた者はいないというのだから、おおむねこちらが本丸で間違いはない。祝福などと言ってはいるが実際は何をしているのやら。
 からりと別館が見える通路沿いを車椅子で通りながら、窓の位置や出入り口をそれとなく記憶する。ウルピアヌスに伝えれば地図に足してくれるだろう。いざというときの退路や敵の侵入口はわかっていた方がいい。