くこ
2025-05-03 11:31:59
3707文字
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シークレット・オブ・モンスター3(レインコード・CPなし)

ヨミーさん妄想話 たぶんおわり
私がマコトさんド攻めだと思っているので、まこよみ風味かもしれない…こう…物質そのものは入っていないけど同じ工場で生産されています、的な…
いったん自分がもやもやとしていたとこは書けた、はず





いっそこの手で終わらせてやったほうが慈悲深いのではないか、と、考えなかったわけではない。

独房というにはずいぶんと豪勢な一室の、ベッドに寝転びながら、ヨミーは振り返る。
中途半端は、嫌いだ。やるなら、徹底的に。完膚なきまでに。言い訳を許さぬほどに、後戻りなど出来ないように。それでいつもどうにかしてきた。この方法が間違っているとは思っていない。
どいつもこいつも馬鹿ばかりだから、己が導いてやらなくてはならない。しかし、一から十まで教えてやりたいわけではない。優秀な人間だけで固めたい。一寸の隙もない、完璧な環境が欲しい。

「画期的な軍事兵器」の研究メンバーに妥協を入れたことを、後悔している。
もちろん、当時、選択肢は無かった。でも、人数を減らしてでも、開発計画を遅らせてでも、やはり、妥協すべきではなかった。ヨミーが認めた人間以外を入れるべきではなかった。不純物が混ざっていたから、あんなことになってしまったのだ。あるいは、不純物をろ過する仕組みを、もっと真剣に考えるべきだった。油断していた。甘ったるい日々に。

部屋の照明がまぶしくて、ヨミーは手のひらをまぶたに押し付けた。

「あれ? 泣いてる?」

びき、と血管が浮き出た。死ねクソが、直截な暴言を吐くと、相手の男が笑う気配がした。
まぶたから手をどかし、上半身を起こしたところで、ぎょっとする。

……オメー、いつもの趣味わりぃ仮面は、どうしたんだよ」

最近ちょろちょろしていた探偵の子どもと、瓜二つ。まだ慣れない。
一度外すと戻れなくてねー、と、眉を下げたマコトが、断りもなしにベッドへと腰を下ろす。広いベッドだが、体重の軽そうなマコトとはいえ、勢いをつけて座れば、多少は揺れた。

「まぁ、そんな些細なことは、暇なときに話せばいいじゃないか。で、泣いてたの?」
「んなわけねえだろ、ふざけてんのか」

ヨミーの顔を覗き込むマコトの額を、手で押しのける。えー?と、不満そうな声が上がった。
指の隙間から、紫の瞳がヨミーを見る。ヨミーのクマが薄くなっているのを見つけて、その目が弧を描いた。

「よく眠れているみたいだね。枕が合わないとかがなくって、よかったよ」
……おかげさまでな」

むしろ、寝られていないのは、マコトのほうだろう。
部屋から出られないこと以外の制限は何もないヨミーは、外のニュースを手に入れることも出来ていた。そこで、彼の演説も聞いていた。たしかにその演説で、自らをホムンクルスだと信じさせるために、仮面を脱いだ場面もあった。まだ住民の記憶に残っていた指名手配犯と同じ顔に、信ぴょう性が増したのである。にわかに信じがたい真相であったが、そのような大嘘を吐く理由も見当たらない。本当に、研究メンバーの選別を妥協したことは、ヨミー一生の汚点である。

ヨミーの目から何かを感じ取ったマコトが、その頭を撫でた。子どもをあやすような手つき。自分のほうが子どものような成りをしているくせに。

「責任を感じる必要はないよ」
「うるせえ。オメーには関係ねー」

あいつも、最期に頭を撫で回してきていた。なんなんだ。
その手を振り払う元気も出なくて、もう一度、枕に頭を預けた。そのまま、マコトの手も一緒についてくる。

「いいかげん離せ」
「ん? 意外と猫毛だね」

さすがにその手を叩き落とした。
カナイ区を……、自身と同じ存在であるホムンクルスたちを、愛している、という彼の言に、嘘はないのだろう。仮面を外し、慈愛を隠さなくなったマコトは、アマテラス社、カナイ区、皆に受け入れられていた。もともと、嫌われてなどいなかったが。ヨミー以外からは。

「あんな演説をしたってことは、オメーも負けたんだな」
「勝ちを譲ってあげたんだよ。同情して、ね」
「言いやがる」

探偵機構のナンバー1。ホムンクルスの成功には、優秀な遺伝子が関係している、という説。
そして目の前の男は、それと同じ細胞と頭脳を持っている。
マコトはきっと、ヨミーを排除して、カナイ区を完全に自分の鳥籠へ閉じ込める気だったはずだ。独りよがりな男は、すべてを自分だけに押し込んで、ユートピアを維持するよう、考えていたはず。それをしなかった、ということは、他の何らかの介入があった、ということだ。

研究所での騒動のあと、連行されて。よくて固く冷たいコンクリート生活を予想していたのに、途中で保安部員とは別の者へと引き渡され、気づいたらこの豪勢な部屋にいた。ベッドもあるし、テレビもあるし、冷蔵庫もあるし、キッチンもある。ただのカナイタワーの一室。鍵だけが無い。セキュリティ設定によって、内側からも鍵が必要になっていた。それをヨミーは渡されていない。
テーブルの上に、簡素な手紙が置いてあった。差出人は知れている。マコト以外にあり得ない。眉間にしわが寄りすぎて、痕がつきそうだった。テレビでも見ながら、ボクの帰りを待っててね。いちおう、説明はするつもりらしい、というのが、そこから知れた。
通信機器が無いので、情報源はテレビしかない。言われたとおりにするのは癪だったが、それ以外にすることもないので、甘んじた。そうしてしばらくして、マコトの大演説が放映されたのである。

こんな大規模な電波ジャックをして、アマテラス社がすべての通信を傍受しているという都市伝説を、真正面から肯定する気だろうか。
ヨミーがまず思ったのは、それだった。
実際、傍受しようと思えば、できる。ただ、いざというときの備えであり、普段から常に監視をしているたぐいのものではないが。さすがにそれをするには、あらゆるリソースが足りない。
続いて思ったのは、ばか正直すぎる、ということだった。
マコトの語る真相は、確かに、真実なのだろう。しかしそれを、衆愚に説明して、理解が得られると、本気で考えているのだろうか。マコトは優秀な部類だと思っていたが、このような阿呆をしでかすのだとしたら、それは過大評価だったのかもしれない。マコトのことを評価していたのは、馬鹿に任せたりせず、馬鹿を信用したりせず、自らでのみ行動していたからだった。馬鹿を相手に目線を合わせるなど、愚の骨頂だ。

簡潔に、そのようなことをマコトに伝えたら、苦笑された。

「ボクも、そう考えていたよ。だから、この秘密を打ち明けるなんて、考えもしなかったし、カナイ区の鎖国を一生解くつもりなんてなかった」
……
「じゃあなんで、って顔だね? ……だって、仕方がなかったんだよ。ボクは、ずるをされたんだ」

同じ顔、同じ頭脳を持つ人間に。
希望をちらつかされたら、それを託されたら、実行しなければ、不戦敗みたいではないか。

ヨミーは、想像する。
もし、自分のオリジナルが生きていたとして、それをされたら(しそうにないが)。まあ、確かに、少なくとも挑戦を受けずに逃げるという選択だけは、しないだろう。

「もともと、ヨミーくんには、手伝ってもらおうと思ってたし。じゃあまあ、やってみるかあ、って」
「そんな軽いノリかよ」
「それくらい吹っ切れないと、できなかったよ」

それは、そうだろう。
秘密を隠すために、あらゆる手管を弄した男が、そう簡単に意見を翻すはずがない。
誰もカナイ区に侵入させず、誰もカナイ区から脱出させず、誰にも真実を知らせることはなく。ヨミーの名を騙ってまで、カナイ区への侵入を妨害していた男が。

……手伝って、くれるよね。ヨミーくん」

上目遣いで可愛い子ぶるCEOを、半眼で見返す。
欠陥ホムンクルスを改善するには、研究部門の協力が不可欠だろう。今までマコトがそれを実現できなかったのは、いくら最高峰の頭脳であっても、極めた専門性にはさすがに敵わないからだ。だから、対処療法的なことしか出来なかった。ヨミーの失脚は、ヨミーがマコトに対しそう考えていたように、ヨミーを自分の手駒として使うためだ。おそらく、保安部から研究部門に戻すつもりなのだろう。
きっと、今の研究部門がそれを成し遂げられたのなら、ここまでのことは画策しなかったのに違いない。しかし、3年の時を経ても、いっこうに見通しが立たない状況に、このCEOは、しびれを切らした。この男も大概、見切りが早い。

ため息をつく。

「手伝うわけじゃねえ。オレは、オレのやるべきことを、やるだけだ」

マコトが嬉しそうに笑う。
オメーを喜ばせるためじゃねえ。ヨミーの憎まれ口に、彼はいっそう笑みを深くした。




彼女の残した、たったひとつのカプセルを、手に入れる。
彼女の血液は、もう、無い。手に入れる手段が無い。自らを臨床研究に使っていたから、採取はしていたはずだが、もうだいぶ昔の話で、廃棄されてしまっていた。だから、あの男には、恨まれるかもしれない。せっかく同じところへ行けると思っていたのに、と。しかし、本物の彼はすでに同じところへ行っているはずなのだから、それくらいは許されてもいいと思う。
もじゃもじゃ頭が、目を開けた。