サケブンダト
2025-05-02 22:38:35
2165文字
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長こへ長の出会編

相互フォロワーさんが描かれたイラストから発展したパロディの出会編を書いて見ました。即興で書いたのでなんでも許せる人向けです。

 迷いなく心から歓喜する胸が大きく高なった。
 それが急転直下の脱落だったとしても構わず。その日あの瞬間に確かに私は壊れた。ベートーヴェンの第9も適わないほどの壮大な曲を心臓で奏でて。
 私にはきっと文才はないだろう。それでも記録を残しておきたくて筆を手に取った。実際はその辺で売ってそうなありふれたボールペンだけど。

 あの雨上がり、登校には少し遅い時間に家を出た私は、路地に煌めく何かを見た。
 学生服の下にパーカーを着てリュックタイプのカバン。なのに所作や顔立ち、歩き方から誰がどう見ても良いとこの学生にしか見えない街の中で、私の足は暗いビルとビルの間に向かった。
 朝、遅刻するほど時間をかけてワックスで流行りの髪型にした髪が乱れても走り、立ち止まらずに行った突き当たりにそれは落ちていた。
……
 物を言わない塊は赤と黒のマーブル模様を身にまとって息を潜める。人の足がもげているのを見るのはこれが初めてだったし、手足どころかあらゆるところが傷だらけで、垂れ下がる鳶色の長い髪の隙間から宝石のようにギラつく瞳がなければ、人だと思わなかった。
 黒いスーツと白いシャツに、葬式のような黒いネクタイ。そんな服装で壁にもたれて無い足を投げ出し、今にも息絶えそうな浅い呼吸。とてもすぐには女の人だと分からなかった。
 近づく度に睨む目は鋭く、私の白いスニーカーが水溜まりを踏んで赤く染まるまで、花に誘われる虫のようにフラフラと引き寄せられていた。靴が血を吸って少し重くなる頃、ようやく事態のやばさに気がついた。
 膝をついて傷の具合を伺おうと、彼女に手を伸ばしながら慌ててスマホを取り出した。救急車を呼ぼうと一瞬だけ彼女から目を離して画面を見た直後、スマホは宙を飛んで壁に当たって砕けた。
 唖然とする私に“もう1度”手が伸びて来て、胸ぐらを掴んで引き寄せられる。
 近づけば生臭い血の匂いが迫り、睨む彼女の口が苦々しげに開かれた。
……連絡するな。見るな。忘れろ。今すぐ回れ右をして帰れ」
 女性にしては低く、唸るような声に胸は大きく跳ね上がった。
 私は思わずその手を握り、目を輝かせながら鼻息を荒くした。
「私は七松 小平太です!! 結婚してください」
 迷いなく心から歓喜する胸が大きく高なった。
 それが急転直下の脱落だったとしても構わず。その日あの瞬間に確かに私は壊れた。
 七松 小平太17歳、夏。夜にひとしきり雨が降った翌日、学校の終業式に遅刻した日。私は出会ってしまった、詰まらない日常を打ち壊す“面白い”に。

 そのまま、彼女の指示通り、彼女のアジトへ運んだ。かなり抵抗されたが、彼女のネクタイを外して残った手を縛り上げて持ち上げたら、大人しく案内してくれた。
 闇医者じゃないと言い訳する善法寺先生を呼びつけ、“色んな患者”を治療したことをネタに揺すれば、彼女を治療してくれたし、知人の義肢の技師さんも紹介してくれて。本当に善いお医者さんだった。
 それから、彼女が心を開いてくれるまで泊まり込みで看病を続けた。
 名前を教えてくれるまで帰りませんと宣言をして。根負けした彼女が教えてくれたのは1ヶ月後。辛いリハビリにも慣れて、車椅子までは動けるようになった。
……中在家」
「お、次に始末する人との待ち合わせ場所ですか! 」
「せんわ」
 赤面した彼女が車椅子に乗ったまま、前を向いて口をとがらせて言った。
「中在家、これが私の名前だ」
「下は? 」
 また黙ってしまった彼女に、小平太は前に回り込んで顔をのぞき込みながら尋ねる。
「下の名前は? 」
…………もそ」
「綺麗な名前ですね長子さん」
 小平太は、仲の良いお抱えのスタイリスト? のタカ丸という人物を呼び出し、髪を切らせている間に一瞬帰宅した。
 すぐに戻ってくるなり、玄関先で誰かに今生の別れを告げてアジトに戻ってきた。どうやら、タカ丸さんが髪を切っている間に逃げ出さないように入口で見張らせていたらしい。
「大丈夫なのか」
「部活の後輩です。可愛いやつなんですがナルシストで……いや、長子さんの方が可愛いですよ」
「何しに戻ってきた」
「ここに住み込みます。家とは縁を切ってきました」
 真っ白になる彼女を横目にむき出しの洗面台にコップや歯ブラシを並べる小平太。そういえば、今まで彼の物はほとんどなかったこの部屋で彼はどうしてたのだろうか。開けた視界には1面の疑問しか無かった。
「これから、ずっと一緒ですね長子さん♡」
 笑う顔が眩しいやつだと、ため息を吐きながら思った。
 で、今に至ると言うわけだ。

「小平太? 」
「あ、長子さん。おかえりー」
「何をしていた? 」
「宿題」
 そんなもんないだろと長子さんは顔をしかめるが、いつ見ても美人だ。すっかり足も馴染んでパンツルックなら一目見ても分からないほど。
「内々に依頼が来た」
「調査か、任せろ」
……言っておくが、届けも出てないうちは探偵と言っても、裏稼業みたいなもんだからな」
「目立つなですよね、分かってます」
 小平太は今、最も街に溶け込みやすいどこのものでもない学ランとパーカーに身を包んで暮らしている。
 長子さんの旦那(自称)として。

[完]