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ゆうな
2025-05-02 21:57:31
4193文字
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いっぱい食べる君が
※ファンブックの内容を含みます
電気スタンドネタかと思いきや、ご飯だいすき轟くんの話
もうそれ交際じゃん、なふたりがデフォになっていくのかなと思うと大混乱。
ばくとど本当にわからない!
◆Pixiv:ログ3に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26846867
コンクリートの縁に腰を下ろし遠くのビル群を見渡す。柔らかい春風が汗ばんだ首筋に当たるのがひんやりと心地よい。
そんな昼休憩の屋上で、着信音が鳴り響いた。齧り付いたばかりのおにぎりを押し込むように嚥下してから、スリーコール目でスマホの画面をタップする。スピーカーから流れる低音は、聞き慣れた爆豪のものだった。
「次、俺ん家来れんのいつ」
挨拶も、もしもしも無い爆豪のいつも通りの態度に、ええと、と頭の中でスケジュールを巡らせる。
「明後日、は非番だ。何時でも行ける」
「じゃあ俺遅番だから、昼、来て」
「昼な。どうした──」
尋ねる間もなく通話は一方的にぶつりと切れた。無音が広がり、ホーム画面の自身と親友二人の笑顔と目が合う。
一体何の用だろう。三口目の米のかたまりを胃に落としながら考える。
先週、爆豪の家に呼ばれた時はいつも通り飯を作ってくれて。そういえばあの大根と肉の味噌煮はシンプルなのにかなり俺の好みの味付けだった。つい米を何杯もお代わりしてしまうと、爆豪が呆れた顔で「てめェはこれ以上デカくなるつもりかよ」とか文句を垂れていたような。
……
もしやその件だろうか。
過る可能性に自然と眉が寄ってしまう。
まさか爆豪は、俺がデカくなるのが嫌なのか。爆豪だって同じくらいデカくなっているはずだけれど。
だとしたら今回の呼び出しは、俺がよく食べることについての話し合いかもしれない。以前から、学生時代よりぐんと伸びた身長や体格について質問してくることがよくあったが、あれはただの世間話ではなく、爆豪なりに思うところがあっての会話だったのか?
俺と爆豪の繋がりがほとんど『食』であることなんて、俺自身が一番よくわかっている。
例えば、今回爆豪が本気で食事制限をする、なんて言い出してその繋がりが断たれてしまったら、俺は今後爆豪の家に招かれることもないのだろうか。想像すると、それはちょっとさすがに、寂しいかもしれない。
うーん、と首を傾げながらも四つ目のおにぎりを平らげ、大きく伸びをする。
まあ、話してみないことにはわからないけれど、と気持ちを切り替えた瞬間、仕事用のスマホから出動要請のブザーがけたたましく鳴り響いた。
空へ向けていた視線をスマホに投げて、屋上から降りる。爆豪の横顔を頭の片隅に置いて、俺は街の喧騒の中へと飛び込んだ。
「お邪魔します」
爆豪のマンションのエントランスを抜け、玄関の扉を開ける。靴を脱ぐ間もなく、部屋の奥からタンクトップにスウェット姿の主が現れた。
「そこでいい」
「お? おお」
珍しく出迎えてくれた、と思ったのも束の間。爆豪が床に置かれた物体を手に取る。つられて目をやると、その手にはシンプルな黒い電気スタンドが握られていた。俺はその姿に見覚えがあった。
少し前、ヒーローコスチュームのメンテナンスに使える良いクリームを貰ったから使ってみろと爆豪の部屋で渡された時に視界の端のデスクの上に鎮座していたものだと記憶している。玄関にはまったく不釣り合いなそれを、爆豪は、ん、と俺に向かって差し出してきた。だらりと垂れたコードがふたりの間で小さく揺れる。
「え、なんだ」
「やる。ショートクンにプレゼント」
「急にどうした。貰っていいのか?」
「それもう電気つかねえの」
「なんだ、壊れてるってことか。でも俺の左で溶かすのはさすがに良くないだろ。これ粗大ゴミだぞ?」
「わーっとるわ。出すのめんどクセーから処分しとけっつーこと。おまえん家すぐそこだろが。持って帰れ」
爆豪のいつもの口調にはどこか楽しげな響きがあった。ぐっと押し付けてくるその勢いに俺は思わず受け取ってしまう。ずしりと重い金属の感触。
よくわからないが、友達同士はこうやって家具のやり取りをするのが普通なのかもしれない。その相手に自分を選んでくれたのだ。そう思うと胸の奥でどこか誇らしい気持ちが広がった。
「そうか。じゃあ貰う。ありがとな」
「ンで礼だよ」
本当にそれ以上の用件は無かったらしい。爆豪は身を翻して猫背のまま廊下を歩いていく。こんな風に呼び出さなくても、次に飯を食いに来た後にでもついでに渡せば良いのに。
そこまで考えて、ハッと自身の目的を思い出し、その背中を慌てて呼び止めた。
「爆豪!」
彼は面倒くさそうに顔だけ振り返り、ん? と短く返事をする。
「俺、爆豪の飯いっぱい食っても、すぐにデカくなったりはしねえから安心してくれ」
「
……
あ?」
「だって先週、まだデカくなるのか、って呆れてたろ? 別に飯のせいじゃねえんだ。だからこれからも爆豪の料理が食いてえ」
必死の弁明に、爆豪の瞳が飴玉みたいに丸くなる。
しかしすぐにふっと口角が上がり、赤を細めた。それはいつもの勝ち誇ったような笑みではなくて、例えるなら金平糖みたいな、ああいう、優しい甘さを含んだ表情だった。
俺は気恥ずかしいようななんとも言えない気持ちになって、どこに心を置いとけば良いのかわからなくなる。この表情を見せられると、いつもそうだった。
「ハッ、飯のせいじゃねえって。たりめーだろ。なに訳わかんねェこと言ってんだ」
「だって、」
「まあもし仮にバカみてえにデカくなったとして、それでもおまえは俺の飯をずーっと美味そうにばくばく食ってりゃそれでいーの」
そう言い放つと爆豪の背中はリビングに消えた。
どうやら、俺はこれからも爆豪の飯を食べ続ける権利があるらしい。ほっと胸を撫で下ろす。それに加えて、飯以外のプライベートな繋がりが出来たことにも心が躍る。家具のやり取りなんて、彼の生活の一部に踏み入ることを許されたような、そんな特別な気がしてなんだか嬉しい。今までの漫画の貸し借りよりももう少しだけ親密な関係になれた気がするのだ。
残された電気スタンドをもう一度見つめ、さてこれをどうしようかと考える。代わりに捨ててもいいけれど、なぜか、なぜかちょっとだけ、勿体ないような気がした。
数日後、ビルの屋上で昆布おにぎりを齧っていると、近くで小さな爆破音が響いた。戦闘ではなく移動用とわかる軽い音だ。
向かいのビルを見ると、案の定爆豪が昼休憩に入るところだった。手を振ればこちらに気付き、ビルの間を軽やかに飛んで来て着地する。
「あれどうしたよ。ちゃんと持って帰ったンか?」
ニヤニヤと笑いながらアイマスクを額まで上げ、隣に腰を下ろす。
手にはラップに巻かれたおにぎり。手作りのそれが陽に透けるとキラキラと宝石みたいに輝いて見えた。本人が作って本人が食べるだけなのに、それを食べられる爆豪は羨ましい、と思ってしまった。具材はなんだろうとか、どんなこだわりがあるのだろうとか、きっと彼にとってはどうでもいいことばかり考えて、そしてようやく爆豪の質問に意識を戻す。
「そりゃ持って帰ったけど、あの後街の人に囲まれてちょっと大変だった」
膝の上で頬杖をつく爆豪を横目に、水筒を置いてぺろりと唇を舐める。
「電気スタンド持って歩いてるのがおかしかったんだろうな、たくさん質問されてさ。爆豪から貰ったって答えたら驚かれたから、仲良いんで、って言った」
「おまえは昔っからそれ以外の答えが存在しねえのか」
言いふらすのヤメロ。と言いながらも爆豪は薄く笑いながらグローブを外す。
そういえば学生時代は仲が良いとか友達だとか言うたびにとてつもなくキレられていたなあと思い出し、懐かしさに心がくすぐられる。
今は精神的に物理的にも、爆豪と俺の距離はたぶん近い。出会った頃は隣に座ることすら嫌がっていたはずなのに、いつの間にかこうやって手を振っただけで向こうから近付いてくるのだ。拾ってきた野良猫を時間をかけて手懐け、そのまま飼い猫にしたような気分になる。
……
いや、爆豪は俺のものじゃないんだけど。
「つーか、なんで俺にくれたんだ?」
「てめェが電気スタンド裸で持って歩ってんのウケんだろ。そんだけ」
「俺のこと考えてくれてたのか」
「なんっでそうなんだよ!」
爆豪の眉間に一瞬で皺が寄る。青空まで届きそうな吊り目、久々に見た。がるがると唸る姿は、やっぱり猫ではなく犬だったかもしれない。小型犬が吠えている姿を想像して、頬が緩みそうになる。
「そうだ、壊れたって言ってたけどな、直したら使えたぞ」
分解してみたらちょっと線が外れてただけだったみてえだ。そう伝えれば、マジか、と爆豪が唇を尖らせる。
「こういうのあげたり貰ったりってやり取りするの、なんか友達って感じで良いよな」
俺がわらうと、ぐっと奥歯を噛み締める爆豪は、あまり見慣れない表情をしていた。俺のことを睨むように見つめ、口を開きかけるがすぐに舌打ちをして顔を逸らす。
はあ、と息を吐いたかと思うと、おにぎりのラップを剥き、ぱくりと大きな一口で咀嚼を始めた。
「
……
じゃあそれ、今おまえん家にあんのかよ」
「うん。部屋のデスクに。見るたびになんか、爆豪ん家思い出す」
「ふーん」
そういえば、なんで爆豪は自分でゴミとして処理しなかったのだろう。面倒だなんて言っていたけど、それだけでわざわざ俺を待つなんて。爆豪はそういうの、さっさと片付けたいタイプだと思っていたのに。
「なあ爆豪、もしかして粗大ゴミの出し方知らなかったのか?」
「知っとるわ!」
「なら二日も俺のこと待つより出した方が早いだろ」
「
……
知っとるわ」
じゃあなんで。言葉を続けようとした瞬間、爆豪が持っていた最後の一口を俺の口に押し込んできた。指先が唇に触れる。冷めてもふんわりとした白米の食感に、驚きよりも先に味の感想が出てしまいそうだった。すぐに離れていく爆豪の指に米粒が残り、無意識に目で追ってしまう。それを舌で掬う姿が、スローモーションに見えた。その顔が、さっきより、もっともっと見慣れない表情をしていてどきりとした。
驚きも味の感想も全部ごくりと喉に落とした俺を見て、爆豪の口角が僅かに上がる。「とどろき」そう呟いて、ふたりの間に置いた手の上に、手の甲をすり、と重ねてきた。
「わかんねーの?」
想像よりも遥かに美味かったおにぎりの中身は、俺のと同じく、昆布がたっぷりと詰まっていた。
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