ahotootoha
2025-05-02 00:07:31
2495文字
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「寝相」読破経ての夢幽SS

夢君視点。「寝相」アーカイブ前提なのと、【コーヒーブレイク】内容がかすります。あとは一・二章読んでたら大丈夫なはず。
しっかりしたタイトル浮かんだら支部にも投稿します。

「ほーん、客から貰った千歳飴ねぇ。幽蘭ならもう上がってるぞ」
「そっか、ありがとう。持ったまま接客もなんだし、俺ももう上がろうかな」
「おーお疲れー」



焔への報告を済ませて、寝起きしている部屋に戻るわずかな道中で、考える。
(もしかして、みんなの中での幽蘭イメージってカービ◯?)
まぁ俺としても、「限られた宿泊客にだけ」だと子供相手でも渡せないのなら、この質量の飴が行きつく先は彼だろうと思ってはいた。
やたら食べる、なんでも食べる。見た目は毒気が全然無い。でも色々と強くて謎もあって、底知れない。
もしかしたら、俺から「その底、覗いていい?」と一言訊いたら、彼は「いいよ」と手を差し出してくれるのかもしれない。謎が多い割に、幽蘭にはそういうあっけらかんさもある。
(あーでも、「覗かない方が君の身のためだよ」って答えが一番返ってきそう)
それにいつぞや、『無防備に手札を開示しない方がいい』と俺に釘を差したのもまた、幽蘭だった。
何かの拍子で彼の内側を視る事が、勝手に視える事があったとしても。深層の扉は、しっかり戸締りがされていそうだ。無理に開けなければいけない時が、来なければいいなと思う。



「ただい、ま…………
一瞬、無人に見えた。それくらい、溶け込んでいた。彫像みたいで、室内の風景と同化していたのだ。
窓際の椅子の一脚、目を瞑ったままの幽蘭が、沈まない夕陽の光に柔く照らされていた。
(昼寝……いや、うたた寝?)
珍しい。……かどうか判断できるほどは付き合いは長くないけど、初めて見る。ひとまず、ドアを閉める動作は、ゆっくり慎重にしておいた。
彼の頭には、レンゲソウっぽい? 硬貨くらいの大きさ、ピンクの花々で構成された花かんむりが、ひょいと乗っている。ファッション性というよりは、暇つぶしの一環だろうか。幽蘭のハンドメイドは真っ最中だったようで、彼の手元には、さらに編みかけの茎数本。テーブルの上にも、加工待ちの花が散らばっていた。
これからコーヒーを淹れる予定だったけれど、豆を挽いていたら音で起こしてしまうだろうか。ゆっくり挽いたらセーフかな、でもそこまで神経使って挽くのもな。
そんな風に、考えをめぐらせていると。
「ん、……
彫像の眼がおもむろに開いていく。
(あ、起きた)
「おはよ、幽蘭」
やさしい声量で呼びかける。するとぱちぱちと何度か瞬きがされてから、今度は口が開いた。
「おはよう……それ、何?」
幽蘭は俺が持ち込んだ袋に、興味津々の様子だった。表面に書いてある文字に目を向けている。
「せんさいあめ……いや、千歳飴、だね」
「そう、千歳飴。子供の成長を祝う時に出てくる、けっこう長い飴」
「暮愛から聞いたことがある。へぇ、紙袋に入ってるんだ」
テーブル上の花・茎をひと所に寄せて、どうぞと幽蘭の正面に紙袋を横たえた。袋を手に取ろうとしたのだろう、幽蘭は若干みじろぎをした後、既に持っていた茎の存在に今気づいたように視線を落とす。
そして少し小首を傾げると、俺に問いかけてきた。花かんむり落ちそう。
……夢久? いつから居た?」
「え、いつからって、さっき戻ってきたばっかだけど」
「さっき、か。そうだった」
傾げた首が戻る。あっ花かんむり落ちた……と思ったら、落下点に構えてあった手がキャッチしていた。
「これを編んでた頃には、たしかに居なかった。おかえり」
「あぁうんただいま……幽蘭、寝ぼけてる?」
「寝ぼけてはいないよ。けれど、平和ボケ、してるかもしれない」
「平和ボケ」
彼が言うには、うたた寝程度なら本来は、俺が『ただいま』とドアを開けたその瞬間に目覚めているのが常らしい。
「もしくは、糖分不足かも?」
「そうかなぁ……
ノータイムで千歳飴を頬張っている幽蘭。昨日もおびただしい数のお茶菓子をモリモリ食べていた彼に、なおも糖分が足りないと言うのなら、部屋に砂糖の樽を常備しなければならないだろう。
「意識して摂っても調子が戻らなかったら、どうしよう。厄介だな」
口内をモゴモゴさせながら、幽蘭は俺をじっと見つめてくる。気休め、あるいはネガポジ転換な言葉を渡してみる。
「仮眠を取りたいのにすぐ起きちゃうのって、それはそれで大変そうだけど。幽蘭的にはやっぱり、起きない方が厄介なんだ」
「そう、厄介。君とケンカをした後とかに、気づかず寝首をかかれるかもしれない」
「いきなりかかないって寝首」
この物騒発想の持ち主が平和にボケてるって事、ある? 俺も現代日本人にしては、サバイバルに活かせるような諸スキルは身につけてる方だと思うけれど、幽蘭のそれは明確な脅威・敵を想定しての動きに思える。
(幽蘭の出身の近所、食肉地獄があるんだったっけ……
文字通りの弱肉強食の世界がそこかしこに広がっている、そんな環境に生きていたのかもしれない。
あれ、でも。
……それも、そうだね。君は、対話ができるヒトだ」
彼の目に映るのが殺伐とした、誰しもが敵みたいな世界だったなら。寝首が云々なんて、幽蘭は俺に話すべきじゃなかっただろう。
青年は微笑む。
「これからも対話をしよう、夢久」
ゆるく解かれた警戒心の相手がホテルの面々全般なのか、俺単体なのかは分からない。どちらにせよ、『嗚呼これだから、警戒なんていつ誰相手でもしなければならなかったのに』と幽蘭に後悔させたくはなかった。
俺は微笑みを返す。
「もちろん。もし今後何か合わない事があったとしても、まずは話し合おう。俺達、こうして話し合えるんだから」
告げて交わす笑みもまた、底知れない彼の底、自発的に開いてくれる心の扉への、やわらかなノックになればいいななんて思う。



「そうだ。また夜中に、偶然目覚めた時でいいからさ。僕の布団、めくってみて」
「えっ……確かめるのはいいけど、起きちゃったとしてもあの、目をカッて開くのってやめれる? アレすっごく驚いて寿命が縮むっていうか」
「せっかく持ってる余命が減るのは一大事だね。……でも、それはできない相談かな」
「そんなぁ」