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2024-07-02 21:49:56
3561文字
Public 村荒
 

誕生日翌日に自慢された話

6/30 JBF内荒受オンリー「Action!」 ペーパーラリーにて配布しました無配ペーパーよりWEB再録
*穂刈視点の村荒

*今後発行する本に再録する場合、こちらは消える可能性があります

 ボーダー本部、ラウンジ。
 本部で見るには少々珍しい男である村上が、顔を顰めながら目の前に座っていた。
 穂刈と村上は、隊長会議に出席している荒船と影浦を待っている。会議が終わり次第、かげうらでお好み焼きを食べて帰る予定だ。
 村上の手には端末。先程からああでもないこうでもないと、何かを検索しては唸っている。
「どうかしたのか、さっきから」
 何か力になれるかもしれない。力になれなくても話だけは聞いてやれる。穂刈はそういう気持ちで村上に声をかければ、村上はゆっくりと顔を上げた。
「荒船の誕生日プレゼントを迷っていて」
 少し太めの眉を下げながら、村上は呟く。
 成程。そういうことだったか。
 村上と荒船は師弟でもあり、恋人同士でもある。学生時代に端から見てもお互いに好きあっているだろうと思われた二人は、紆余曲折を経て二年前に付き合い始めた。別に報告とかは無かったが、長年二人の友人をやってきたのだから雰囲気からすぐにわかった。その後きちんと報告があったし、その時は皆で盛大に祝ったものだ。
 そんな二人は確か一年前くらいに同棲を始めたはずだった。その頃から、買い物して帰るとか、鋼の作ったご飯が美味いとか、洗濯間違えて服が縮んだとか、荒船による惚気交じりの日常会話が増えたのだ。
 村上が顔を顰めて唸っていたから、珍しく喧嘩したのかと思ったが、そうではないようで安心した。てっきり謝り方を考えているのかと思ったのだ。しかし、悩みは可愛いもので。友人たちの恋が順調で幸せならそれに越したことはない。
「何貰っても喜ぶんじゃないか? 荒船なら」
 村上の悩みは、荒船への誕生日プレゼント。この二人は毎年贈り合っていると聞いたことがある。
「それは、そうなんだが」
 うろ、と村上の視線が迷い、握られている端末に落ちる。うぅ、と村上は唸った後に、端末を机の上に置いた。
「誕生日プレゼントだから、荒船の欲しいものをあげたいなって思うんだけど」
 村上が小さく息を吐きながら、ぽつりと言葉を漏らす。穂刈はうん、と頷いて話の先を促した。
「荒船ってそこまで物欲もないし、欲しいなと思ったものはすぐに自分で買ってしまうから、荒船が明確に欲しいものって思いつかなくて」
 いつも一緒にいて、一緒に暮らしていてもわからないことがあるのか。確かに荒船からあれが欲しいこれも欲しい、という話はあまり聞かない。学生の頃はいくらかあったが、その頃より稼げるようになった今、そういう言葉もほぼ聞かなくなった。バイクは免許を取ったその足で買いに行っていたし、「家でもデカい画面で映画が観たい」という希望は、村上との家にシアタールームを確保することで叶えたようだった。
 そうなると、荒船の欲しいものから一旦離して考えた方がいいかもしれない。
「違う方向で考えてみないか、一旦」
「違う方向?」
 ぱち、と瞬きをする村上に頷くと、例えば、と穂刈は続ける。
「あると便利なもの、とか」
「あると便利なもの……
 村上が顎を手に当て考え始める。しかし、二人で暮らしているのなら、二人で相談してそういったものも粗方持っているかもしれない。
「あると便利だぞ、キーケースとか」
 キーケースを贈るのも、確か意味があったはずだ。そう思いながら提案してみると、村上は眉を下げて申し訳なさそうな表情を見せる。
「キーケースは去年のプレゼントであげてるんだ」
「そうだったのか」
「引っ越しと荒船の誕生日が近かったからな。鍵も増えるしいいかなと思って」
 特に荒船が鍵を使用する場面を見ることが無かったので(ボーダー内部はトリガー認証だからだ)、荒船がキーケースを使用していたのは知らなかった。それならば仕方ない。とてもいい贈り物をしている。別のものを考えよう。
「帽子、とか」
 帽子と言えば荒船の代名詞だろう。普段もキャップを被っているし、トリオン体にまで設定している。
しかし、村上は「二年に一回の頻度でクリスマスプレゼントに渡している」と首を横に振った。荒船に似合いそうな服も一緒だそうだ。それならば次である。
「サングラス、とか」
 サングラス。意外といい線いっているのではないだろうか。瞳の色が薄いと人より光を眩しく感じると言われているし、荒船が帽子を被っているのも、日除けの意味合いが強い。サングラスはとてもいい案のように思えた。
 村上は、サングラス、と小さく呟き、んん、と眉間に皺を寄せた。
「サングラスは、本当にとてもいい案だと、思う」
 一拍置いてから、「これは、本当に、オレの我儘なんだが」と村上は両手で顔を覆った。
「荒船の、瞳が、隠れるのが、嫌だ」
 耳まで真っ赤にして告げる村上に、穂刈はぽかんとした表情を向けて「そうか、」と応えた。
「本当に、いい案だと、思うんだ」
「いや、鋼、大丈夫だ。仕方ない、好きなら」
 好きだから隠したくない、そういうことだろう。サングラスをかけてしまえば、帽子とは違ってずっと瞳を見ることが出来なくなる。それが嫌なのだろう。
 村上は手を下ろすと、済まなそうな顔を穂刈に向けていた。まだほんのりと顔が赤い。
「いろいろと提案してくれたのに、本当に悪い」
 あれこれ提案した好意を断ってしまったのを気にしているのだろう。そんなの気にしなくてもいいのだが。心優しい友人に、気にするなと微笑みかける。
「結構難しいもんなんだな、こういうのを考えるのも」
「月日が経つと、どうしてもな」
 被りを無くそうとすると、月日が経つにつれどうしても贈る物の選択肢が減ってきてしまう。さて、他に何かあるだろうか。
「荒船がアクセサリーをしてるようなら、例えばピアスとか、それを贈ればいいかなって思ったりもしたけど、荒船はアクセを着けないし」
「邪魔だ、とか言いそうだな。荒船なら」
 普段からアクセサリーの類を着けないから、着けている荒船はあまり想像が出来ない。村上が贈る物だから無碍には扱わないだろうが、普段使いをするかと言われたら首を傾げてしまう。
「何やってんだ?」
 うぅん、と唸る村上と穂刈に聞きなれた声がかけられる。顔を向ければ、荒船と影浦が立っていた。
「終わったのか、会議」
 随分早かったな、と言えば、「上層部が急用でリスケになった」と荒船は肩を竦めた。
「で、何やってたんだ?」
 荒船が改めて聞いてくるのに、素直に「考えてたんだ、お前の誕生日プレゼントを」と答える。穂刈、と村上の慌てた声が聞こえた。
「俺の?」
 荒船が村上に視線を移して、あぁ、なるほどな。と頷いた。
「確かにアクセサリーは着けねぇな」
「聞いてたのか」
「聞こえてたんだよ」
 聞こえていたのはそこだけだ、という荒船に、頬を染めた村上が、荒船、と呼ぶ。
「何か、欲しい物あるか?」
 直球に聞いている。先程からいろいろと考えていても思いつかないから本人に聞くことにしたのだろう。本人が欲しいものを贈るのが一番だ。
 荒船は、んー、と考える素振りを見せ、口角を上げた。これは、何かを企んでいる顔だ。
「そうだなぁ」
 荒船の声もいくらか楽しそうだ。そわそわと荒船の言葉を待っている村上は思惑に気付いていないようだった。
「確かにアクセサリーは着けようと思わねぇけど、一個だけなら着けてもいいな、と思ってんだよな」
 そう言いながら荒船は左手を村上の目の前に差し出した。村上はぽかん、と荒船の顔と左手を見比べている。
「お前のために、空けてある」
 ヒュウ、思わず口笛が出た。何とも男らしい。
 村上の為に空けてある、左手に着けるアクセサリー。
 荒船の欲しいものは、言わなくても分かる。
「荒船っ」
 村上が荒船の左手を手に取り、立ち上がって抱き締めた。荒船は村上をあやすように背中を優しく叩く。
「あらふね」
「ほら、鋼、そろそろ行くぞ」
 荒船の声もいつもより優しい。二人だとこういった声も表情も出るんだな。ご馳走様。お腹いっぱいになった。
 二人の世界に入っている村上と荒船から少し離れて、いきなり二人の世界を見せつけられてげんなりしている影浦に近づく。
「カゲ」
「あ?」
 機嫌が悪そうだ。気持ちもわかる。
「オレの分はあの二人にツケといてくれ、今日のメシ代」
 村上の話を聞いて、アドバイスして、結果プロポーズのお手伝いもしたようなものだ。奢られてもいいくらいの働きはした。二人の幸せオーラでお腹いっぱいだが、物理腹は減っている。それはそれ、これはこれだ。
 意味が理解できてないように首を傾げる影浦を横目に、そして物理的に減った腹を満たしに行くために、穂刈は意を決して馬に蹴られに向かった。