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🐼🎋
2023-03-20 19:10:10
3443文字
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村荒
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その先も
村荒ワンライ
お題:ふたりだけ
*未来捏造(大学卒業あたり)
じゅわ、と肉と野菜を炒めている香ばしい匂いに、コトコトと煮込まれている音。そこに、炊飯器からご飯が炊きあがる音が鳴る。
「ご飯、よそっとくな」
「頼む」
火を使用しているためそこを離れられない村上のために、蓋を開けて飯切りした炊き立ての白米を、彼のどんぶりに盛る。村上は白米が好きだから、最初から大盛りだ。
テーブルに村上の分のご飯を置いて、今度は自分の分をよそう。村上よりは量は少ないが、それでもどんぶり一杯だ。
村上が炒め物を皿に盛り付けているのを見て、冷蔵庫から豆腐を取り出す。パックから取り出した豆腐一丁を半分に切って皿に乗せればそれだけで冷奴の完成だ。薬味に生姜と鰹節、ポン酢も出しておく。
荒船が冷奴を準備している間に、村上がお椀に味噌汁をよそう。これで、立派な夜ご飯の完成だ。
ダイニングテーブルのそれぞれの席に、向かい合って座って、手を合わせて。
「いただきます」
「いただきます」
二人暮らしを始めて、五回目の春が来た。
同棲を始めた当初の春、家事は当番制と決めたが、料理は一人暮らし歴の長い村上の方が得意で、料理をしてこなかった荒船に教えたのは村上だ。別に料理担当でもいいと村上は告げたが、頑として荒船は頷かなかった。
「鋼の作るモンは確かに美味いから任せて
―
けど、それじゃ鋼ばっかり負担になんだろ」
それじゃダメなのだ。二人で暮らしていくのだから、片方にばかり家事の負担がかかるのは良くない。そう言えば、村上は嬉しそうな顔を浮かべて「そうだな」と頷いた。
「まあ、最初は下手かもしれねーけど、やってくうちに慣れるだろ」
それまで失敗するかもしれないけれど、そうなったら外にでも食べに行けばいい。
そう心のどこかで思いながら作った荒船の最初のご飯は見事に失敗して、それでも村上は「荒船が作ったご飯だから」と全てを平らげた。
そんなもん食べなくてもいい、と言っても「荒船が俺に初めて作ってくれたご飯だから、きちんと食べるよ」と言われてしまえば荒船も引き下がるしかなかった。
村上は、荒船の作ったものならきっとなんでも食べる。お世辞にも美味しくないものをきちんと食べ切ったのだ。
村上には、美味しいご飯を食べてほしい。荒船はそう思って、料理をマスターすることにした。その際に、村上に「料理を教えてほしい」と頼んだのだ。
村上は、ちょっと驚いた顔をして「オレでいいのか?」と首を傾げた。
「オレよりも上手い人いっぱいいるだろ」
そう言う村上に、荒船は呆れたような表情を浮かべる。何を言っているのだ。頼むならお前しかいないだろうに。
「何言ってんだよ。俺は鋼に教わりたいんだけど?」
「いや、オレだってそんな上手いわけじゃないし、」
そう続ける村上に、荒船は「あのな」と言って言葉を遮る。
「俺は他の誰にでもなく、鋼に食わせる美味い飯が作りてえんだよ。お前の好きな味を知ってるのは、お前だろ」
だから、それを教えろ。そう言えば、村上はみるみる顔を赤くして、「わかった」と嬉しそうに頷いた。
それから、荒船は村上に教わりつつ、自分でも切り方や火の扱い方を学び、めきめきと料理の腕を上げていった。荒船の勤勉さも合わさって、今ではより美味しいご飯を作るには、という方向へシフトしている。
明日は荒船の食事当番である。腕によりをかけて作るところ、であるが。明日はまた事情がある。荒船は、箸で切った豆腐を口に運びながら、段ボールが積まれたダイニングを見渡した。
段ボールの中身は、今日使用する分を除いた皿だったり、調理器具だったり、調味料が収められている。今使用している食器も、食べ終わって洗って拭いてから収納する。
冷蔵庫は、冷凍庫も含めて今日に合わせて空にした。後でコンセントを抜かなければ。
他の部屋も、似たり寄ったりで段ボールが積まれている。荒船の私物、村上の私物、二人が使っている日用品、掃除用具。そういった段ボールが、洗面所へ、トイレへ、リビングへ、と行先を書かれて置かれていた。
そう、明日は引っ越しだ。五年間村上と二人で過ごしたこの家を、引っ越すことにした。
理由は、偶然の重なりだ。この春、荒船はそのまま大学院への進学が決まっており、村上は卒業と同時にボーダーへと正式に入社が決まっている。配属はそのまま鈴鳴支部ではあるが、本部に行く頻度も増えるという。双方とも特に今の家でも不満はなかったし、そのまま住み続ける予定でいたが、荒船が今の家と同等条件で、一部屋多い家を見つけたのだ。
ボーダー借り上げ物件は数ある。今の家もそうである。ボーダー借り上げ物件の情報は、ボーダー支給の端末から見ることも可能だが、ボーダーの事務室にも物件情報を取り扱っているスペースがある。端末に掲載され切らない物件はそこに行けば探せるのだ。
そこをたまたま通りかかった荒船は、たまたまその物件を見つけた。本当にたまたまだった。大学へも、鈴鳴支部へも、もちろんボーダー本部へも遠すぎず通える立地の場所。近所にはスーパーもコンビニもある。そんな好物件に今の家賃とほぼ同等で一部屋増える。荒船はそのまま事務員に内見の予約を入れた。
「増える一部屋はどうするんだ?」
村上に引っ越しの打診をした時に聞かれた言葉に、荒船はそれはな、と口角を上げた。
「シアタールームにする」
荒船らしい、と声を上げて朗らかに笑う村上に異はなく、とんとん拍子に引っ越しの手続きを済ませ、明日引っ越すのだ。
「とうとう明日だな」
前に座っている村上も、荒船と同じ様に見回して、しんみりと呟いた。
「寂しいのか?」
「そりゃあそうだろ。荒船と一緒に暮らした家だったんだから」
「引っ越し先でも一緒だろ」
「それは、そうなんだけどな」
苦笑いする村上に、荒船は「まあそうだな」と頷く。この家には、二人の思い出がたくさんある。村上に料理を教えてもらったのも、些細な喧嘩をして仲直りをしたのも、一緒に寝たのも、愛を交わしたのも、この家なのだ。だが。
「別に、過去を振り返るのは悪くねーけど」
ずず、と味噌汁を啜る。冷蔵庫を空にするために色んな野菜を入れた味噌汁は具沢山で美味い。豚肉もあったはずだが、味噌汁の具が思ったより多くなったため、どうやら炒め物の方へ量を増やして入れたようだった。
「俺なら、それよりも先を見るな」
「先?」
「先」
炒め物を口に入れる。昔から変わらない、村上の好きな味。濃すぎることなく、優しい味がする。
「折角新しいところに行くんだ。家の周りに何があるかとか、気になんねえ?」
「そう、だな」
「明日は、まあ引っ越しの片付けで無理だろうけど、次の休みにでも探索に行こうぜ」
二人で、と言えば、村上は満面の笑みで「行こう」と頷いた。
「とまあ、こんな感じでさ、新しい思い出も増やしていけばいいんじゃねえの」
「うん、うん」
「まあ、目先は明日の引っ越しの片付けだけどな」
明日は朝から引っ越しだ。昼には新居に荷物をすべて運んで、午後からは新居で荷解きの予定だ。そのために、今日は新居の掃除に行ったし、換気扇という換気扇にフィルターを取り付けた。
「手伝ってくれるの、助かるな」
「だな。重い物なら俺と穂刈で運べるし、単純に人手がいるのは助かるよな」
引っ越す、と同年齢の連中に言うと、こぞって「手伝う」と言ってくれたのだ。業者を呼ぶか、という話をしていたが、皆が手伝ってくれるのであれば、バンを借りれば事足りるだろう。台車は影浦が貸してくれるとのことだ。
明日の段取りの確認をしながら残りを食べ進め、お皿が綺麗になった頃に、手を合わせて「ご馳走様でした。うまかった」と言えば、村上は嬉しそうに「お粗末様でした」と手を合わせた。
「明日は外で食べるか?」
食器をシンクに運びながら、村上が問う。荒船は少し考えてから「昼は皆に奢らなきゃだから外だな」とお湯を捻る。
「夜は蕎麦だな」
「引っ越し蕎麦だな」
「おう。キッチン片付いてたら蕎麦打ってやるよ」
荒船は口角を上げて村上を見る。村上は目を丸くした後に、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「じゃあ、一番にキッチンを片付けないとな」
「そうだな。美味いざる蕎麦食わせてやるよ」
あいつらにはメシ代渡して、二人だけで食おうぜ、と言えば、村上は、はは、と笑いながら頷いた。
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