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🐼🎋
2023-02-06 20:21:13
2836文字
Public
諏訪荒
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とけあう時間
諏訪荒ワンライ
お題:甘くてほろ苦い
*一年後の時間軸設定
恋人たちのイベント、バレンタインデー。
諏訪もこの日は恋人である荒船と過ごすために、防衛任務の調整をし、大学の課題もほぼ終わらせ、丸一日オフを勝ち取った。
荒船は甘いのが特に苦手というわけでもないから、小佐野の協力も得てチョコレートも用意した。女子の中では有名なパティシエが作るチョコは、一粒千円、一箱何千円もする世界だったのは、初めて知ったことだった。
「一個が高いけど、やっぱり美味しいんだよね」
値段はウソつかないんだよね~、とは小佐野の言だ。諏訪も、昔に個数が少ないけれど美味しいチョコを貰ったことがあったので、うんと頷く。
荒船には、小佐野が太鼓判を押す店の、甘すぎないビターチョコをセレクトした。
――
喜んでくれっかな。
受け取る荒船はどんな反応をするだろうか。あの綺麗な顔が驚きから喜びに変わるだろうか。買ったチョコの紙袋を眺めながら、顔が緩んでくる。
ソワソワと落ち着きなく時が過ぎ、待ちに待った当日朝。煙草を吸いながら荒船の到着を待つ。煙草はいつもの倍のペースで消費されていた。
荒船は、きちんと時間通りにピンポンを押してやってきた。ソワソワと諏訪が玄関の扉を開けると、珍しくリュックを背負った荒船が、少し申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「よく来たな」
「お邪魔します」
まあ入れ、と諏訪は荒船を中へと誘う。靴を脱いだ荒船は、きちんと靴を揃えてから中へと進んだ。こういう育ちの良いところを見ると、嬉しくなる。
「諏訪さん」
「ん?」
ハンガーを用意して、解いたマフラーを受け取るとハンガーに引っかける。荒船はリュックを背中から降ろしながら「悪い」と謝った。
「どうした」
何かあったのだろうか。荒船が脱いだ上着を受け取り、ハンガーにかけるとそれをクローゼットの扉に引っかけた。荒船は炬燵の中に入り、リュックを開けながら「本当に悪い」と再度謝る。
「明日提出のレポートが、終わってなくて」
少しだけやらせてくれ、と言いながらリュックから出てきたのは、ノートパソコンだった。
防衛任務の調整をしたのは諏訪だけではなく荒船もで、無理をさせてしまったのだろうか。眉を下げながら「無理させたなら、悪かった」と荒船に言えば、荒船はノートパソコンをセットしながら「いや、諏訪さんのせいじゃない」と首を振った。
「本当はもっと早く終わらせておくはずだったんだけど」
「おう」
「ランク戦もあったし、あと立て続けに代打で防衛任務も頼まれちまって」
気がついたらレポートをする時間が無くなっていた、と荒船は顔を顰めている。これは、自分の管理の甘さに憤っている顔だ。頼まれてもやれるだろうと踏んでいたのにできなかったから、自分に怒っている。
この時期は高校生組が学年末考査だの受験だので、防衛任務に出られないことが多い。それの代打に、諏訪もよく駆り出されていた。荒船も昨年までは受験と最後の考査で、同学年の連中と勉強に励んでいたし、防衛任務の調整をお願いしていた立場だった。今年のこの時期に代打が来たら、後輩たちのためになるべく代わってやろうと考えていたのだろう。荒船らしい考え方だと思った。
諏訪は、荒船の斜め横の炬燵に足を入れて、荒船の頭をわしわしと撫でる。
「お前はよくやってるよ」
「諏訪さ、」
「いーよ。待ってっから」
特に今日は、どこかに出かけるとかの約束もしていない。諏訪の家でのんびりと、借りてきた映画でも観て過ごそうかと言っていたくらいだった。やることがあるのなら、そちらを優先してもらって構わない。一緒にいられるだけで嬉しいからだ。
荒船は、やはりすまなそうな顔をして、わるい、と小さく呟いてから、画面に顔を戻した。
「あと少しで終わるから、少しだけ待っててくれ」
「おう。本でも読んで待ってるわ」
大学図書館で借りた推理小説を手に取り、ぺらりと捲る。返却までまだ期間はあるが、荒船のレポート時間くらいなら丁度いいところまで読めるだろう。
静かな部屋に、カチカチ、カタカタと軽快な音が響く。その音を心地よく聴きながら、諏訪は物語の世界へと没頭していった。
丁度良い区切りのところで、ふ、と意識が浮上する。
時計を見れば、荒船が到着してから一時間ほど経過していた。荒船は相変わらずパソコンに向かってカタカタと文字を打っている。
諏訪は、少し口寂しくなって、炬燵から出て立ち上がる。荒船が顔を上げるので、「煙草吸ってくるわ」と言えば、荒船は頷いて画面に顔を戻した。
家主なので、どこで吸ってもいいのだが、荒船が集中している邪魔をあまりしたくなかったので、煙草と灰皿を持って台所へと移動する。換気扇をつけて煙草に火をつけた。吸い込んで、肺に溜まる煙を吐き出す。そして、台所に置いておいた、自分用のチョコが目に入った。
荒船宛のチョコを買うついでに、ビールに合うチョコ、と銘打たれていたそのチョコを、諏訪は試しにと買ってみたのだ。酒入りのチョコは数あれ、最近はビール入りのもあるという。諏訪は、ビール入りのチョコより、ビールの肴になるチョコを選んで購入した。理由は単純で、チョコだけで食べても美味しそうだったからだ。
諏訪は吸い終わった煙草を灰皿に押し付け、煙草と灰皿とチョコを持って炬燵に戻る。荒船はこちらを見ず、顔を顰めながら画面を眺めていた。
諏訪は持ってきたチョコを開けると、一つを口に入れる。とろりと蕩ける甘さとビターな苦さが口の中に広がって、なるほど、ビールと合うかもしれないと頷く。まだ飲まないが、一緒に合わせて飲むのが楽しみだと思った。
「荒船、口開けろ」
言われた荒船は、画面を見ながら口を開ける。無防備すぎやしないかと思わなくもないが、それは諏訪を信頼しての行動だとわかっているので、思わず頬が緩む。開いた荒船の口の中に、チョコを一つ放り込んだ。
むぐむぐ、と口を動かした荒船が顔を上げて諏訪を見る。
「甘いな」
「疲れた頭に糖分補給」
うまいだろ、そう言いながら諏訪がもう一枚自分の口に入れる。うん、うまい。口の中で溶かして味を楽しんでいると、荒船の綺麗な顔が近づいてきた。
「あ、?」
唇に触れる、温かい感触。舌に感じる、あまい気持ちよさ。
舌を絡めとられ、ようやくキスをされていると理解した諏訪は、その甘さをもっと感じたくて、荒船の口に舌を捻じ込む。チョコと、荒船のあまさで、頭の中が溶けてしまいそうだった。
息も途切れ途切れで、あまい声が漏れ始めた頃、ようやく唇を離す。荒船の顔は、あまく蕩けていた。
「諏訪さんは、」
「お?」
「あまくて、にがいな」
チョコのあまさと、ほろ苦さと、煙草で。そう言いながら荒船が優艶に唇を舐める。
「荒船、レポートは」
「ほぼ終わった」
諏訪は、チョコをもう一片、口に咥える。そのまま、口角を上げる荒船の唇を奪った。
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