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🐼🎋
2022-05-19 23:05:03
2179文字
Public
村荒
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夢の中の俺は格好良かったか?
村荒ワンライ
お題:寝言
「
……
よし、と」
解き終えた数式を見直し、途中で間違いが無いかを確認する。特に間違いも見当たらず、荒船は軽く息を吐いてシャープペンを置いた。
「よーし。鋼、お前もキリがついたら、」
一旦休憩な、と続けようとした声は「お」という間の抜けた声に置き換わる。目の前に座っている村上は、右頬を机にぺたりとくっつけている形で、居眠りをしていた。
テスト前の、本部鈴鳴第一の作戦室。そこで、荒船と村上は定期考査の勉強をしていた。
テスト期間は進学校である六穎館高等学校も、普通校である三門市立第一高等学校も、似たような時期に行われる。しかし、ボーダー提携校ゆえか、ふたつの高校のテスト期間は被ることが無く、それにより防衛任務のシフト調整を行っていた。原則として、考査の一週間前から学生隊員は防衛任務免除、隊は臨時部隊で回すこととなる。街の防衛も大切ではあるが、学生の本分は勉強だ。
明後日を考査初日に控えた村上が、荒船に請うかたちで問題を見てもらっていた。六穎館の定期考査は三門第一の半月後で、夜から防衛任務に組み込まれていた荒船は、「本部で、時間までなら」と村上の申し出を快諾した。
荒船にとっては自分の復習も兼ねて。時折、躓いている村上に、問題の解き方を教えたりしながら進められた勉強会であったが、目の前で一生懸命問題を解いていた村上は、いつの間にか寝てしまったらしい。どうりで、途中から問題が捗ったはずだと、右腕で頬杖をついてその寝顔を眺める。
規則正しく、静かにきこえる呼吸音。戦闘にもなれば鋭く射抜くその瞳も閉じている今、その顔はどこかあどけなく見える。
「さっき教えた公式でも覚えてんのか?」
柔らかそうにみえる村上の頬を、つんつんと突いてみる。思ったより柔らかいような、思ったより硬いような。もう少し感触を確かめたくてつんつんする。村上は起きる気配もなく健やかな寝息を立てている。
気持ち良さそうに寝ているのを見ると、このままずっと寝かせておきたい気持ちになるが、村上から勉強をみてほしいと頼まれた以上、適当なところで起こして続きをさせるのがいいだろう。
とりあえず十五分くらい寝かせてやるかと、一旦左手を机の上に置いておいた端末に手を伸ばし、アラームをセットする。それでも起きた時には申し訳なさそうに謝るんだろうな、と思いながら。
「しかし、よく寝るな」
類稀なサイドエフェクトを持っているからか、村上は寝入りも寝起きもとても良い。ちなみに言うなら、寝相もとても良い。泊まりに来た時に、布団に入って五秒で寝て、朝荒船が起きた時には、寝入った姿のまま微動だにしていない村上が健やかに眠っていた、というのが常である。三門第一の修学旅行でも同じような感じだったと穂刈が言っていたので、それが村上の寝方なのだろう。寝返り打たなくて背中痛くならんのか、とはたまに思うが。
柔らかいような硬いような頬を今度はむに、と軽くつまんでみる。思ったより伸びる。口角が横に伸びて、少し間抜けな顔に、ふ、と笑みが漏れた。
「
……
うぅ、ん」
「お?」
もご、と口を動かした村上に、起きるか? と荒船は手を離す。暫く様子を伺うが、もごもごと口を動かすだけで、目は閉ざされたまま。眉間には皺が寄っていた。
「
……
に、げろ、ここは、ま
……
せ
……
」
うぅー、と唸りながら言葉を紡ぐ村上に、荒船は目を瞬かせる。寝入りも寝付きも寝相も寝起きもとても良い村上が寝言だなんて。珍しいこともあるものだ。
しかしその夢の内容はなんだ。近界民にでも襲われてんのか。そう思いながら眉間に寄った皺を人差し指で円を描くように解してやる。
「その夢は正夢にならねぇ方がいいな」
うぅーとまだ唸っている村上に、今度は手を止めることなくぐりぐりと円を描く。ここ、皺になったら男前が台無しだからな、と口では言わないことを思いつつ、あまり力を入れないように。
そこまで長くもない時間、うりうりと眉間を撫でていたが、うぅ、と唸っていた声がむにゃむにゃと動く口に飲まれ、眉間の皺がふと消える。気付いた荒船が手を止めると、村上の顔がふにゃりと蕩けた。
「ぁらふね」
幸せそうな、その顔。
自分の名を呼び、幸せを向けるその顔を、荒船は知っている。今は目を閉じてしまっているが、村上は荒船を呼ぶときに、いつも幸せを向けるから。
その幸せを自分だけに向けているのが、荒船にもたまらなく幸せをもたらしてくれる。
「鋼」
きっと、自分も今、同じような顔をしているのだろう。緩んだ顔から表情が戻らない。
頬をつんつんと突いてやる。むにゃむにゃと言葉になってない中から辛うじて『かっこいい』だけ聞き取れた。大方ピンチの中に荒船が助けに行った夢にでもなったのだろう。幸せな夢になったならなによりだ。
むにゃ、と口が動いた後、声にならず動くふたつの文字。荒船はそれを正確に読み取って、呆れたような、それよりも幸せがあふれるような、そんな表情で、寝ている村上の額を中指で弾いた。
「そういう言葉は起きてるときに言うもんだっつの」
仕返しだ、そう言って荒船は席を立つ。幸せな夢の中にいる村上の蕩けた顔に、荒船は同じように蕩けた顔を静かに近づけた。
――
アラームが鳴るまで、あと、
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