舌足らずに呼ばれる名前はここ数日で慣れたもので、抱き上げて座らせた腕の中から伸ばされる小さな手に触れられるのも同じく。まなじりを撫でる手は小さくとも重岳を恐れないあたり、姿がかわってもやはりあの人のものだと実感させられる。
「………、……」
不思議な言語はヴィクトリアの古語に似た音をしているが、重岳にはその言葉を理解することはできない。
指揮した作戦の際に受けた不思議なアーツによって幼子になってしまったドクターが話す古い言葉を正確に理解できるのはケルシー医師のみで、重岳は言葉や仕草に込められた意思を読み取るのがせいぜいだ。しかしながらそれなりに交流ができているのは思い人である故か。
「ちょんゆえ」
「うん?どうした、ドクター?」
「……。……?」
何かを問いかけられている事はわかるものの、その意味がわからない。ただ、何かの許しを得ようとしていること、それがきっと好意から来るものであることが察せられるから重岳は頷く。この人の事だから、そう悪いことにはならないはずだ。危なさそうであれば止めればいい。
頷いた姿を見て嬉しそうにドクターは笑うと、まなじりに手を添えてじっと目線を合わせる。
「……、…。……、………」
真っ直ぐに見つめる瞳はひた向きさと好意が入り交じってくすぐったい。元より大人のドクターも重岳の瞳が綺麗だと微笑むことがあるが、ここまで無垢に見つめることはそうないだろう。
じっと見つめる瞳に視線をそらさないでいれば、目蓋に落ちるのは優しい感触。思わず目蓋を瞬かせれば、いとけなく笑う人がいる。
「あか、みどり。ふしぎ、きれい」
ーーーやさしい、だいすき。いつの間に覚えたのか慣れない言葉を連ねて伝えられる思いに重岳も笑みを返した。幼くても本当にこの人は変わらないと思う。
「ああ、私も一緒だ」
「ちょんゆえ?」
「私もだいすきだ、ドクター」
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