しちろ
2025-04-30 16:52:23
2292文字
Public コラボLOM小説(ごちゃLOM)
 

僕の待つ場所、私の帰るところ

ごちゃLOM番外編。火悠さんとこの主人公ジュンくんとユノちゃんの話。「#うちのLOM主描いてって」タグで書いたものです。

「じゃあ、またね。道中、どうか気を付けて」
「ええ、またね。ありがとう」
 ひと時の安らぎを共に過ごし、彼女は旅立つ。
 往くのはいつも彼女。見送るのはいつも僕。
 旅芸人の一座に生まれたという彼女は、生まれてこの方、一度も決まった家を持ったことがないという。どこにも帰る場所を持たず、旅の踊り子として世界をまわり、各地で喝采を浴びている。幼い頃、自分の家を、居場所を狂おしいほどに求めていた僕とはあまりに対照的だ。
 彼女が帰る場所を持たない、というのは、少し違うかもしれない。
 僕の帰る場所は、切り立った山脈を背に、大樹に抱かれたこの家。けれど、彼女の住む家はこのファ・ディールすべて。僕の小さな家を出て旅立つ彼女はいつも旅そのもの、いや、広大な世界そのものへと帰っていくように思えた。
 彼女はマナをよく視る目を持っている。同じAF使いでも、彼女ほどはマナを読めない僕にはわからないのだけれども、彼女によれば、彼女自身にはドリアードの加護があるらしい。けれど僕から見た彼女はいつでも、翼を持つかのように自由で軽やかで、大地に根を張りどっしりと構えている樹というよりは、天空を吹く風に乗って自由に舞い踊る羽、あるいは緑の木の葉や花びらのようだった。
 小さくなる彼女の背をいつまでも見送りながら、ときおり振り返ってくれる彼女に手を振りながら、僕は思う。
 こうして一時は別れても、彼女が遠くの世界へ旅立っても。
 僕たちが再び会える日は、いずれ来る。
 時が巡り四季が移りかわるころ、色彩を違えた木の葉とともに、あるいは季節の花の香りとともに、彼女はここを訪れてくれるだろう。彼女はけっして約束を違えない。僕は彼女を一番に愛しているから。彼女は僕を一番に愛してくれるから。僕はただ、それを信じて待っていればいい。
 それはわかっている。僕はいつまででも、愛する人を信じ、待つことができる。僕はもう、あの頃のような無力な子どもじゃない。
「だけど……
 彼女がいないとき、会えない時間が続くとき、ふとした瞬間に想いを馳せてしまう。隠している感情がわき上がる。
 ……そう、さみしい。
 彼女をここにとどめるつもりはないけれど。彼女をここに縛りたくもないけれど。
 それでも心のどこかで願ってしまう。
 彼女がもう少しだけ、僕のそばにいてくれたら。
 




「じゃあ、またね。道中、どうか気を付けて」
「ええ、またね。ありがとう」
 彼と束の間の甘い時間を過ごし、私は旅立つ。
 槍と短剣、少しの荷物。旅が生活そのものの私は、多くの荷物は持っていない。
 それだけではない。私には、帰る家はない。
 辛いだとか悲しいだとか思ったことはなかった。それが当たり前だったから。私の家族は優しく温かく、仲間は明るく朗らかで、生きるのに何の不足もなかった。
 彼とマナの聖域で出会ったとき、私は一目で彼に恋をした。彼も同じだったと知ったときは、嬉しかった。嬉しくて、本当に、嬉しくて。
 彼と結ばれた私は、旅をする合間に彼の家に立ち寄っては、同じ時間を過ごすようになった。彼との時間は優しく、温かく、愛おしい。だからって、自分の生き方を変えるつもりなど、私は少しもなくて。
「まぁね、あたしらはこういう商売さ。だから、その場その場の恋愛とか、行きずりの恋だとかってのはよくあることよォ。まあ、さすがに、アンタほどの恋愛観はちょっと変わってるかもしれないけどネ。ね、ユノ?」
 まだ、私の所属する一座が賑やかだったころ。町から町へ移動する間の、焚火を囲みながらの、他愛のない恋話。私の、ちょっぴり変わっているらしい恋愛観を聞いた姐さんたちは「ないわ~!」と言って大いに笑い転げた。
 当時の座は解散し、笑いあった姐さんたちはもういない。最愛の両親も亡くなって、私は一人になった。だけど、私の生き方はあれから今でも変わらない。風とともに踊り、木の葉とともに舞い、草を枕に、星を見ながら眠りにつく。
 彼のことは、いつでも誰よりも愛している。
 その事実があれば、いいじゃない。会えなくたって、お互いになにしてたっていいじゃない。私は彼を世界で一番愛してる。そして、私は彼に世界で一番愛されている実感があるから。
 考えようによっては、ちょっと、いえ、とても傲慢なのかもしれないけれど。
 温かな家に住む彼は、私が訪ねていけばいつも、とびきりの笑顔とともに私を優しく迎えてくれる。私たちの間には、確かな絆が、想いがある。時が私たちを隔てても、二人の気持ちは、いつでも変わりはないから。
……そうよ。それでいいと、ずっと思っていたのに」
 そんな気持ちとは裏腹に、私は遠く想いを馳せている。
 彼には土の加護がある。大地そのものに優しく力強く、ふわふわとした私をいつでも受け止めてくれる度量がある。……私は、揺れている。誰にも縛られることなく自由でありたいと思いながら、彼のそばに身を寄せたいという思いは募る。
 ……そう、さみしい。
……よし」
 とうとう、私は決めた。
 旅を止めるつもりはないけれど。これまでの生き方を変えるつもりもないけれど。
 けれど、すこしだけ変えてみよう。帰る場所を作ってみよう。
 小さな家を、ひとつ持とう。
 帰りたくなったらいつでも戻って、彼に会いたければいつでも会える。彼に会いたいときに、いつでも会いに行ける。そしてきっと、今度は彼から会いに来てくれる。そんな場所を作ってみよう。
 決めた場所は、彼の家のそば。ドミナの町の、小さな一軒家。