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roku
2025-04-30 16:48:39
2792文字
Public
SD夢💤
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1349588
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出会いは桜の季節【松本夢】
・愛知に転勤してきた松本と、オフィスビル1階のカフェで働く夢主が出会った話
・2025.4.26〜29に開催されたWebオンリー『青春ダブルクラッチ』にて別名義で出した作品です
夢子
「どうした?」
ふと足を止めた私を心配そうに覗き込む稔。
『桜見てたら出会った頃を思い出した』
「覚えてんのか?」
『当たり前じゃん。真面目で仕事できそうだなーっていうのが第一印象』
「そう、なのか?」
初めて聞いたと目を大きくさせる彼。
初めて言ったからと稔を見れば「オレは
…
」とバツが悪そうに眉を下げる。
『覚えてないでしょ?知ってる』
「すまん」
『いいよ別に。でさ、それと同時に頭固そうだし気難しそうだし奥手っぽいなーとも思ったんだよね』
ははっと笑いかければ「第一印象最悪じゃねぇか
…
」と唇を尖らせた。
『まぁ実際はイメージと全然違ったけど』
だから私は彼と付き合っている。
「それはよかったん
…
だよな?」
頼りなく投げかけられた問いに答える代わりに指を絡めて『早く行こうよ』と桜が満開の通りを歩き出した。
◇◇◇
大通りが満開の桜によってピンクに彩られたころ、私と彼は出会った。出会ったと言っても私の働くカフェに彼がコーヒーを買いに来ただけの話だけど。
『いらっしゃいませ』
初めて見る顔。伸びた背筋と皺のないスーツがシゴデキ感を覗わせた。
「ホットコーヒーレギュラーで」
『かしこまりました』
私は注文を受けたコーヒーを注ぎ、彼が首から下げた社員証をチラッと盗み見た。社名は上の階に事務所を構える企業のもので、彼の肩書きは主任。名は松本稔。
『お待たせいたしました』
「ありがとうございます」
抑揚のない事務的なお礼。
言わないよりもずっとマシだけど何だかモヤッとした。
気難しそうだし、笑ったりしないんじゃない?
桜が風に舞う中へ消えてく背中を見ながらそんなことを思った。
彼はそれから毎日同じ時間にやって来た。注文するのは決まってブラックのコーヒー。それは好き嫌いではなくもはやルーティンのようだった。
いつもはテイクアウトの彼がその日は窓側のカウンターに座って外を眺めていた。どこか疲れた表情で。
『あの
…
よかったらこれ』
お節介だとは思いつつ、彼のカップの横にそっと差し出した砂糖とミルク。
「
…
え?」
『あ、少しお疲れのようだったので
…
甘いものは気持ちが安らぎますし、ブラックより胃にも優しいです』
「あぁ、すまない。有り難く頂戴する」
相変わらずお固い印象は拭えなかったけど、キリッと凛々しい眉を心なしか下げた彼にほんの少し人間味を感じた。
砂糖とミルクを混ぜながら「少し
…
話を聞いてもらっても構わないか?」と口を開いた松本さん。
『えっと
…
』
言われた言葉の意味を瞬時に理解できなくて戸惑ってしまった。
「仕事中だったな。すまない。忘れてくれ」
そう言って彼はコーヒーを一気に飲み干し席を立った。そんな彼を引き止めたのは、垣間見えた人間味に絆されたからかもしれない。
『夕方
…
夕方なら時間あるので、お話聞くの、それでもいいですか?』
「
……
いいのか?」
『えぇ、まぁ』
こうして私は彼と食事に行くことになった。
◇
仕事を終え合流して向かった私の行きつけの居酒屋で乾杯した。
「本当によかったのか?」
『ダメなら帰ってます』
「そうだな。ありがとう」
力なく表情を緩めた彼の疲れ度合いから、仕事が大変なのかと訊ねれば「それもあるが
…
」とさらに眉を下げた。私は黙ってグラスに口をつけ続きを待つ。
「結婚を考えていた彼女がいたんだが、別れを告げられてしまってな」
『あ〜そういう話か〜』
カフェを訪れる彼はどちらかといえば近寄り難く、仕事に100%いや120%を注いでいるように見えていたから意外だった。
「すまないな」
『ん?あ、そういうことじゃないんです。松本さん彼女いたんだ〜って思って』
「
……
どういう意味だよ?」
ビールを飲み干しジロリとこちらを見ているが、怒っているわけではなさそうだ。
『いや〜仕事人間っぽいなって勝手に思ってたんで』
すみません。と謝れば「よく言われるよ」と苦笑いで返された。
『別れた理由って離れたからですか?』
答えてくれなければそれでいいと思いながら訊ねてみる。
「ああ。他に好きなやつができたんだと」
『よくあるパターンですね』
それにしても4月にこっちにやって来てまだ日も浅いというのに振られたなんて
…
『早すぎません?』
「あ?」
『ひと月も経ってないのに別れるとか、もっと前から好きな人いたんじゃ
……
』
そこまで言ってしまって慌てて口を塞ぐ。彼は皺が寄った眉間に指をあてて、はぁ〜と大きな溜息を吐いた。
『ごめんなさい』
「いや、構わねぇよ。オレもどこかでそんな気がしてたから」
転勤が決まったのは年が明けてすぐのことで、彼女には遠距離は嫌だと言われたが仕事なのだから仕方がないと何度も話し合ったそう。それからどこか彼女の様子がおかしくて、さらには転勤直前に別れようと言われたらしい。繋ぎ止めたはしたがこの有様だと彼は自嘲の笑みを浮かべた。
『別れって悲しいばかりじゃないですよ』
「え?」
『失った存在が大きいと悲しみや苦しみってその分大きいですけど、時が立てば薄れていくし、新しい出会いもあります。私と松本さんがここでこうして一緒にお酒飲んでるのも、その別れがあったからじゃないですか?』
彼は真っ直ぐな視線で私を捉えた後、フッと表情を緩めた。
それは初めて見る彼の優しい笑顔だった。
騒ぎ出した心臓。顔が熱いのをお酒のせいにしたくて、いつも以上に飲んでしまった。
◇
「家は?」
『ん〜?帰んなきゃだめ〜?』
足取りは覚束ないけれど意識ははっきりしている。
「お前なぁ
…
」
ゆっくり瞬きをした彼は呆れている。
『へへっ、な〜に?』
「酒癖悪すぎ」
『そんなことないよ〜』
「危機管理能力低すぎ」
『松本さん以外にはこんなことしないし』
そう言いながら彼の腕に絡みつけば口を結んだ彼の歩く速度が速くなる。
「どうなっても知らねぇからな」
その言葉は喧騒の中、はっきりと私の耳に届いたけれど、聞こえないフリをしてその手に指を絡めた。
◇◇◇
「えらく大胆だったよな」
『稔だってお固い奥手な雰囲気出してたくせに全然違ったじゃん』
「そりゃ男だぞ?据え膳食うに決まってるだろ」
『わぁ〜全然良いこと言ってないからね?』
ジトッと目を向ければ、ははっと大きな口を開けて笑う。
「でもさ、あの時
夢子
には本当に救われたんだ」
繋ぐ手のひらから伝わる温度は出会って5年経った今も変わってない。
『実を言うとね、救われたのは私も同じなの』
「どういうことだよ?」
『ん?知りたい?』
「どうせ教えてくれねぇんだろ」
『そうだなー。気が向いたら教えてあげるね』
「言うと思った」
『それより早く行こうよ!時間に遅れたら怒られるよ』
温もりいっぱいの手をぎゅっと握って、待ち合わせ場所へと急いだ。
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