猫柳 楸
2025-04-30 11:47:40
5623文字
Public ポケモン
 

うみ

ぽけぱろ、海で遊ぶぞ〜!(なお)

「ところで、あのサニーゴは?」
「え、居るよ?」
「もー、また勝手にお化け屋敷化が進んでいく」

うみ
この身は真っ暗な水の底に沈んでいる。

『ここは寂しいね』
『つめたい』
『こわい』
『くらいよ』
『さびしい』

そんな悲しげな声が水中に響いている。

『だれか だれか』
『たすけて』
『わたしをみつけて』

海の底に、私たちは沈んでいる。


 ***

「「海だーーー!!!」」
眼前に広がる海原を見て我先にと飛び出していったのは意外なことにりかさんとなぎさんだった。
「転ぶなよー……
 呆れた声で呼び掛けるも、2人には聞こえなかったのだろう、どんどんと走っていってしまう。なぎさんがボールを投げて、ミロカロスが気持ち良さそうに海に飛び込んだのが見えた。
「あの2人元気だにゃあ………
「我には無理ぃ…………
 物陰で萎れているのはにゃーさんとしゅーちゃん。電車を降りた瞬間から萎れていたな、こっちの2人は。
「にゃーさん電車乗る前ははしゃいでたろ」
「砂浜って白いから日光を反射して余計に暑いよね……
「外あっついよぉ、まぶしいよぉ……
 しおしおと萎びた葉っぱみたいになっているにゃーさんとしゅーちゃんを抱えて引き摺っているのはにゃーさんのパンプジンだ。
「キュウウ?」
 首を傾げている様子、『これどうしよう?』と言ったところだろうか。
「あの辺に転がしとくといいと思う」
「キュッ!」
 りかさんがいる辺を指さすと、パンプジンは元気に頷き2人を抱えてぱたぱたと走り出す。
「おいロロン、主人の扱いが雑だぞぉ……
「キュ、キュウ!」
「うーんそうだねぇ、僕たち友達だねぇ……
ずりずり引き摺られながら文句を言っているにゃーさんを後目に俺は、パラソルを借りに行こうと海の家に足を向けた。

 ***

「ほあー、いったい何作ってるのこれって」
散策したがるめめっきゅとぴかさまをボールから出してパラソルの下から這い出ると、途端に太陽がじゅうじゅうと体を焼いているような気がした、暑い、とにかく暑い。ぼんやりと視線を向けた先ではまりかちゃんがせっせと砂を集めてなにやら建造している最中だった。
「ふふふ、楽しみにしておけ〜」
 ドヤ顔で胸を張っている横では、パチリスがキラキラした貝殻やシーグラスを拾ってきては、山になった砂の中にいそいそと埋めていた。パチリスが離れていったスキに、まりかちゃんが砂の中から引っこ抜いてバケツに集めている。どっちも楽しそうだ。
「しゅーちゃんも混ざる?」
 まりかちゃんの手で着々と積み上げられていく砂の山と山の間をパチリスがせかせか走っていくのを眺めつつ首を横に振った。
「んやー、今回はご遠慮したく」
「おっけー、またあとで」
にゃーさんはパラソルを立てた後で「なんかあったら呼んで〜」と言って本を読み始めてしまったし、ゆきさんとなぎさんは連れてきた水ポケモンを連れて浅瀬の方に行ってしまったし、ぬおみさんとぬおーさんは波打ち際で楽しげにころころころがっていることだし。さて自分はどうしようかなぁと砂浜を歩いている。と、何か真っ白なものが転がっているのを見付けた。
……あっ、サンゴだ」
めめっきゅとぴかさまを抱き上げてとてとて駆け寄ってみると、その白化したサンゴは意外と大きかった。つるりと丸くていくつか穴が空いている。
「はえー、おおきい。持って帰れたりするかな」
持ち上げてみようかと手を伸ばすと、
「メッキュ!」
めめっきゅが珍しくおおきな声を出した。びっくりしてそちらを見た途端、
カタカタカタ
と骨のぶつかるような音がして、サンゴの塊がふわりと浮き上がった。ニョキニョキと半透明な枝が伸びてぽっかり空いていた穴の奥に赤い色の光が灯って、こちらを見ていた。
「ぴゃあーーーーー!!?」
「ミキュ!?」「ピィーーカチュ!!」
 思わず腰が抜けて座り込んでしまったけれど、とにかくお化けからぴかさまとめめっきゅを守らなきゃ!と思って抱き締めていたら暴れられた。お化けだよ?怖いでしょ立ち向かわないで逃げようよ。
「わぁーゴーストタイプのサニーゴだ珍しいね!なになに、捕まえるの?」
 ぷるぷる震えていた1人と2匹の前にひょっこり現れたのは愉しげに笑っているなぎさんで、
「白い体もきれーだねぇ、この枝の部分とか触れるのかな?触ったらだめ?……いいの?ありがとー!」
目の前にふんわり浮かんでるお化けをなでなでぺたぺた触りまくっている、ん?あれ、サニーゴって言ってた?
「サニーゴってピンク色じゃないの!?」
「そーだよ、この子はそのサニーゴとは別の種類の子!ねこさんとかの方が詳しそう……、あ、ほら来たよ」
 なぎさんが指差した方を見たらにゃーさんとまりかちゃんがやってくるのが見えた。
「なんか悲鳴聞こえたんだけど……?」
「どーしたの……えっ、ゴーストのサニーゴ!?初めて見たよ、少し触ってもいいかい……?」
にゃーさんが興味津々でサニーゴに近寄っていくと、サニーゴはジリジリと後退るように浮遊した。
「フラれた……、何故……!」
めしょめしょしているにゃーさんの後ろで、まりかちゃんがキョロキョロと周りを見回している。
「ねぇ、ゆーちゃんってどこ行ったの?」

***

 気が付くと、静かで暗い場所にひとりで立っていた。何も無い灰色の砂浜と飲み込まれそうな真っ黒な海が目の前に広がっていた。
「あれ……?」
 俺はいったい何をしていたんだっけ。
『こっちだよ』青色のシャツの少年が言う。
『はやくきて』赤いスカートの少女が言う。
……ああ、うん。今行くから」
 2人に手を引かれて歩く、頭にぼうっとモヤが掛かったようでいつまでも思考が纏まらなかった。2人はとても嬉しそうにはしゃいでいて微笑ましい。
「どこにいくの?」と、俺が聞くと
『もっとくらいところ!』青色のシャツの少年が言った。
『もっとしずかなところ』赤いスカートの少女が言った。
「そっか」
 子供たちに纏わりつかれながら歩いていると、足元が引き摺られていくような、滑っていくような感覚がして、ふと見てみれば俺たちが立っていたのは波打ち際だった。二人の子供は躊躇いもせずに海水の中に身を踊らせる。バシャリ、海水が跳ねて子供たちの姿がほどけていく。俺はそれに気が付かないままでいた。
『はやくきて』みずいろのこどもがわらった。
『こっちだよ』ももいろのこどもがわらった。
流されるように海の中へ一歩踏み出した時、グイッと後ろから腕を引かれた。
 弾かれたように振り向くと、確かにさっきまでそこにはなかったはずの、濃緑色の藻が絡み付いた、見上げるようにおおきく古めかしいイカリが砂浜に突き刺さっていて、そこからぬるりとした藻が伸びて腕に巻き付いていた。
「え……、ぅわ!?」腕に絡み付く藻に目をやった瞬間に突如として思考がクリアになり、いつの間にか腰まで水に浸かっていた事に驚く。
『またおまえか』みずいろの触手がヒラヒラ揺れた。
『じゃまするな』ももいろの触手がユラユラ揺れた。
 いつの間にか2人の子供の姿はすっかり子供とは言えないものになっていた。大きなまるい頭にワンピースのように広がった触手。フリルのようにひらめく長い腕。丸く赤い目は砂浜のイカリを鋭く睨みつけていた。
「プルリル……
ああ、思い出した。は人やポケモンをいざなって深い海の底に引き摺り込むと言われているゴーストポケモンだ。
グン、と絡みついていた藻が強く引かれて身体を引き上げられた、瞬間急激に周囲の温度が下がり始める。
『Prrrru!!』プルリルが鋭く鳴いて、ゴウ、と冷気を纏った風が吹き付ける。その時イカリが素早く飛び上がり俺とプルリル達の間へと飛んできた。バシャーン!と派手な音を立てて力強く水面を叩き海水がはね上がると同時にたちまち凍りつき、氷の壁が出来上がった。
「うわっ!」
 藻に引き摺られるまま砂浜に倒れ込んだ時、ようやく藻の繋がっている先がなんだったかに気がついた。大きなイカリを軽々と振り回していたのは、こちらもまた大きな船のハンドル舵輪だった。
『ふむ、氷か。厄介な』
 舵輪についている計器のような赤い目が、忌々しげに細められた。

 
***

「じゃあサニーゴはロロンが怖かったのか?」
こくこくと頷いている白いサニーゴに先導されて、僕たちは海に潜っていた。 
「元は水タイプだからかなあ?単にゴーストがゴーストに抜群だからかもしれないけれど」
「どっちもなのかもしんないねぇ」
 なぎさんのミロカロスが嬉しそうに主人を背に乗せて泳いでいくのを眺めて、私はサメハダーのカシラの背をさりさりと撫でる。
「さてさて、オカシラ。頑張ってゆきさんを探しましょーね」
 サメハダーは勇ましくヒレを振って泳ぐスピードを上げた。

 *

 時は数十分前に遡り。
 僕たちは、なぎさんの後ろを歩いていたのにいつの間にか忽然と消えたゆきさんを探していた。しかし、いくら広いといえども遮蔽物も殆どない開けた砂浜である。もし仮に溺れたのだとしても、私たちのポケモンたちが真っ先に気が付くだろう。突然人が消えるようなことがそうそうあってたまるものか。
「ゆきねーどこ行っちゃったんだろ?」
「これは、もしかするともしかするのかにゃ?」
 顎に手を当てて首を捻る。と、パンプジンが真似をして葉毛を顎(?)に当てる。
「ねぇロロン、この辺りに向こう側霊界に行けそうな穴はありそうかい?」
 パンプジンの顔を見上げると、彼はしばらくキョロキョロと辺りを見回して
「キュキュ……、ぷやん!」
を指したのだ。

*  
 
「オカシラ?」
 白いサニーゴのあとをついて泳いでいたサメハダーが、急に加速してサニーゴを追い抜いた。
「えっ、にゃーさん!?」
驚くなぎさんとミロカロスを置き去りに、サメハダーはそのままぐんぐんと加速して、目の前には岩壁。 
「ぴゃああああああ!?お、オカシラ!アクアブレイク!!!」
 ゴボッ!と水の膜に包まれた瞬間に、私とサメハダーは岩に激突……


 しなかった。
 
「「えっ」」
 
 バシャーン!と水飛沫をたてて飛び込んだ先には広場のような、海底洞窟だったのだろうか?足元には開けた空間と薄暗い砂浜。奥に広がる海面には攻撃態勢をとった2匹のプルリル、そして砂浜には突き刺さった大きなダダリンと一緒に、ゆきさんが驚いた顔で僕を見上げながらそこに立っていた。


 ***

 ガシャーン!!と何かが割れたような音がして、にゃーさんがサメハダーに乗って飛び込んできた。目が合うとにまーっと笑って、え、いやまさか
「オカシラ!あのプルリルにかみくだく!」
『Grrra!!』
にゃーさんはそのままプルリルに真っ直ぐ突撃していくサメハダーから飛び降りる、おい何やってんだ!?
「ちょっ、にゃーさん?!」
慌てて駆け寄ると、目の前にぽん!と音を立ててにゃーさんのパンプジンとバクフーンがボールから飛び出してきた。大きく腕を広げたバクフーンをパンプジンがツルを伸ばして支える。
 ばふん!
「さっすが我が愛しのカロンちゃん!!ロロンもありがとうね!」
「ぐぅ!」「キュウん」
 にゃーさんを抱きしめるようにキャッチした バクフーンが楽しげにその場でくるくると回る。にゃーさんもにゃーさんで、嬉しそうに彼女の濃紫色の毛並みを撫でていた。
「ゆきさん元気そうでなにより!もうすぐなぎさんも来るよ!ところで随分と格好いい子と一緒だね、新しいお友達?」
 捲し立てるように喋りたいことだけ言うと、くるりとプルリルたちに向き合ってしまった。
「先に行っちゃうなんてにゃーさんずるい!!わぁ、プルリルに……ダダリン!?えっ、折原さんもずるい」
 一体どこから入ってきたのか、白い塊、いやポケモン?を抱えたなぎさんが駆け寄ってきた。
 
『ひとが増えた』
『これじゃ連れていけない』
『あいつのせいだ』

悔しげにプルリル達がなく。

『さびしい』 
『さびしい……

「さびしいならうちに来たら良いんじゃない?ひともおばけもいっぱいいるよ」
 あっけらかんとなぎさんが言う。
「あっ、抜け駆けだ」
 ボソリとにゃーさんが呟いた。

『え』
『え』

 プルリル達が顔を見合せた。


 ***


 いつの間にやら出来上がっていた大きな砂のお城の前でまりちゃん(とパチリス)が仁王立ちしている。その前にはなぎさんとにゃーさんが正座させられていた。
「それでそのまま連れ帰ってきちゃったの?」
「パチチー」
「パチちゃんもっと言っていいよ」
「パチパ!」
「えーんだって」
「だってじゃないでしょ」
「パチ!」
まりちゃんがジト目になるとなぎさんとにゃーさんの顔がしわしわになる。なんだか落ち込んでる時のぴかさまみたいな顔。
「だってほら、今はこんなに大人しいし、それにかわいいし……、ね……?」
「寂しくて泣いてるポケモンをそのままにしておくなんて、そんな、可哀想なことは僕には……
 弁明(?)している2人はそれぞれピンク色と水色のポケモンを抱っこしている。どっちもプルリル、っていうゴーストポケモンらしい。抱き抱えられて撫でられて、なんだか困ったような顔をしている気がする。 
「ゆきねー、あの子たちなんか困ってない?」
「あー……、あの2人が怖がらないから戸惑ってるんじゃないの」
 そのプルリルってポケモンに連れ去られていた当の本人はなぜか真新しいモンスターボールを持っていた。
「その子は?」
「うーん、……新しい友達?」
 そう言ってゆきねーが笑っているから、私もとりあえずまあいいかと納得して、まりちゃんに怒られている2人をゆきねーと一緒に眺めることにしたのだった。