RINGO
2025-04-29 00:26:44
2433文字
Public 境界の灯
 

番外編1-8


 何故、軍としても国としても重要な拠点の一つだったあの村が、襲われたのか。
 襲撃の数日前に、村を訪れた研修参加者の新兵たちも容疑がかけられた。
 事情聴取として訓練の最中、彼らは別室に連れていかれる。

「村で何か、不審な出来事はなかったか?」
 調査員が語尾をきつめに質問をした。

 青年は、顔を下げて目線だけ相手に向ける。
……そんなこと、俺が一番知りたい。)
 ただ息をしているだけの人形の様に、無表情で、彼は軽く息を吐くと目を伏せた。

 それが、意欲が無いように見えたのか調査員は青年を睨みつける。
 身を乗り出して、眉間にしわを寄せる。
……そこのお前!なにか反応したらどうだ!」と机を叩いた。
 
 その音で一気に部屋の空気が重くなった。
 青年は、その音で軽く体を揺らすが、動揺した様子はない。
 肩を上げて静かに深呼吸をすると、どこか冷めた目で調査員を睨むように見つめた。

「お前……っ!!」
 調査員は苛立ちを強め、歯を食いしばる。
 目を細めると、青年を見る視線が、疑うような目つきに変わった。
 机を叩いた手が震え、握りこぶしに変わった瞬間。

「待ってください!」

 兵士の一人が慌てて声を張り上げた。
「こいつが漏らしたなんてありえません!!」
「研修先の孤児院での様子を見ましたが、こいつが一番村の為に働いていました!」
「態度が悪いのは、謝ります!けど証拠もないのに疑うのは止めてください!」
 仲間たちが次々と調査員に反論する。

 それには、青年は胸が熱くなり、息を呑んだ。
 声を上げた仲間たちに視線を送れば、緊張した面持ちで調査員を見つめていた。
 
 まさか、自分を庇うなんてと青年は一瞬言葉を失うが、彼らの立場を悪くするのは嫌だと口を開いた時だった。

 ――……コン
 一回のノックののち、ドアが開かれる。
……失礼、ここは件の村襲撃の事情聴取している部屋で間違いないか?」
 良く通る低い声が響く。
 ドアの向こうから現れた人物に、部屋にいる全員の動きが止まった。

「副団長……!!はい、こちらで合っています!」
 部屋にいる全員が起立し、敬礼する。
 副団長は軽く答礼すると、口を開いた。
「事情聴取は終わりだ。」
 そう一言宣言すると、無駄のない歩みを進め、新兵たちに申し訳なさそうな視線を送る。

「君らもすまなかったね、村の扱いが扱いなものだから、連絡が大分遅れてしまった。……既に内通者の身柄確保が完了し、賊の討伐は終了した。だから」
「あのっ!」
 副団長の言葉を青年が遮る。
 緊張で声が震え、息が荒くなる。心臓の鼓動が早くなる。
 拳に自然と力が入った。
「村の、村の住人で……生き残った方は……?」
 藁に縋るような、祈るような、か細い声で青年は尋ねる。

 副団長は、青年に目をやると顔を下げて、首を横に振った。
(やめてくれ……。言わないでくれ……。)
 青年は、胸が締め付けられていく。

……軽い現場検証で、研究所である地下施設の防衛は成功したらしいが、賊が村に火を放ってね。……凄惨な現場だった。」

 副団長の視線の先の青年は、血の気を失ったように青白い顔になっていた。
 歯がガタガタと震えている。
 その様子に、副団長は目を伏せた。
「力になれず、申し訳ない……。これ以上は伝えない方が良いだろう。君の為にも。」
 力が抜けて立っていられなくなり、隣にいた仲間が反射的に青年の身体を支えた。


 ふぅ、煙草を大きく吸い込み煙を吐いた。
 青年は宿舎のベランダに座り込んでいた。
 空模様は曇り。
 湿った空気の匂いが、雨を予感させる。

 事情聴取から数日すぎた。
 あの後、副団長から一か月休職するように、勧められた。

……その結果がこれか。)

 その為に勧めた休みではないだろうに。
 青年は、煙の流れる方向に顔を向けた。

 飯もろくに食べていないのに、煙草の減りがいつもの倍になっていると、青年は自嘲的に笑った。

 足元に置かれた灰皿には、大量の吸い殻が捨ててある。

 青年は、部屋にある時計で時刻を確認すると、息を吐き、頭を軽く掻いた。
 そして、持っている煙草を灰皿に擦り付け、力なく立ち上がる。

 軽い上着を羽織り、最低限の身なりを整えた。
 玄関で座り込み、靴紐を結ぶ途中で青年は動きを止めた。
 指が重い。
 身体が重い。
 行きたくない。
 その気持ちに蓋をして、靴紐を結ぶと青年は玄関のドアを開けた。

 宿舎から徒歩で数分歩いた先に、青年の目的の場所があった。
 受付で申請をして、しばらく待つと面会室に通された。

 真っ白な、何の音もない部屋だった。
 真ん中に仕切られた壁と、隣の部屋が見えるガラスの仕切り、簡素な椅子。

「準備をいたしますので、こちらでお待ちください。」
 係員は軽く頭を下げると、青年を残し、部屋の扉を閉めた。

 青年は、椅子に座る。
 静かに息を整える。
 肩でゆっくりと呼吸をする。
 手が少しずつ、汗ばんでいく事を感じた。

……誰も来なければいいのにな。)
 手を擦り合わせて、そんな、ありえないことを考えてしまう。

 ――……ガチャ

 静かに響くドアの開く音に、青年の顔が強張った。
 顔を上げると、部屋に入ってきた人物は、青年の姿を見て驚いた表情を浮かべた。
 ぽかんと開いた口が、苦しそうに笑みを作る。

……おいおい、久々に顔を見たと思ったらお前……これじゃあ、どっちが捕まってるか分からないな。」
 そう言って苦笑した顔は、あの日、村で話をした時のままだった。

……隊長、お久しぶりです。」
(本当に……。こんなところで、会いたくなんかなかったよ。)

 既にすべては手遅れで、取り返しがつかない事が起こった後だ。
 その事実に、青年の胸が締め付けられていく。