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ふみかぜ@壁打ち
2025-04-28 21:25:59
4060文字
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【嘘ドラロナ】灰を灰とするため
嘘ドロが閉鎖された火葬場を探索する話、設定の捏造が色々目立ちます/ハピエン?(話の中で一件落着はします)/CP要素は最後に匂わせているような、いないようなといった案配
嘘ドラロナwebオンリー「Re:常夜の月は夜明けの夢を見るか」展示小説の再掲になります。内容はクロスフォリオへの投稿と同一です
火、灯火、トーチ、かがり火。
太陽の光を失った人間たちは、手の中で点した人造の光を希望の寄る辺とし、過酷な暗闇の中を生きているのだという。
事実、吸血鬼への対抗手段として火は効果的だ。旧き血の一柱のような例外的な存在を除けば、大抵の吸血鬼は火炙りにすることができるし、燃やされた塵は二度と再生しない。また、人間やダンピールの亡骸を火で葬れば、彼らの血肉が吸血鬼の養分とされたりグールの材料とされたりすることを防げるだろう。
つまるところ、今の人間たちは火と弔いが結びつく場所を特に心の拠り所としたがる訳だ。
「
……
ここか」
『うむ、間違いあるまい』
それが例え、この島国へ吸血鬼の支配が及ぶよりずっと昔に廃棄された、物寂しい場所だったとしても。
◇
明けない夜を終わらせる方法を求め歩く道中、立ち寄った町で退治人ロナルドはとある依頼を請けた。何でも最近、住宅地より少し離れたところにある火葬場の方から、奇妙な遠吠えのような音がしばしば聞こえてくるのだという。
近くの小山の中腹部に設けられたその火葬場は随分と前、それこそ太陽が大地を照らしていた時代に老朽化で閉鎖されていた。焼却炉等をまともにメンテナンスできる者もおらず、今後復旧することは非常に難しい状態らしい。そんな場所から異音が聞こえるというのは、確かに何らかの凶兆が感じられる。
加えて、近辺をパトロールする自警団の中には何かを激しく殴りつけるような音を聞いた者、赤く光る何かを目撃したという者もいる。何かがいるのは間違いないだろう。
今のところ被害者は出ていないが
……
謎の遠吠えに殴打音、赤い光は一体何なのか。手遅れになる前に正体を突き止め、可能ならば事態の解決をして欲しい、というのがロナルドたちが引き受けた依頼内容である。
『やれやれ、まるで探偵にでもなったかのようだね』
部外者立ち入り禁止の立て札を少しだけずらし、蔦が生い茂ったゲートを通り抜け、雑木林のざわめきばかりが聞こえる周囲を警戒しながら、若干ぬかるんだ地面を歩くロナルドの背後で、不定形の塵として漂う吸血鬼ドラルクがおどけた風に言う。皮肉げな物言いのわりに声音は明るく、何処か楽しげな響きを帯びていた。
そんな相棒の態度を受けて、ロナルドが咎めるように青い目を細める。
「退治人の仕事だろ。一連の現象が吸血鬼によって起こされた可能性は高い。早いところ原因を突き止めてどうにかしねぇと」
『冗談が通じんなぁ、分かっているとも』
至極真面目に返したロナルドにドラルクはやや白けたように答え、「それにしても」と言葉を続ける。
『入り口の具合からして中はさぞ荒れ放題なのかと思いきや、今も誰かの手が入っているようだ。ほら、あのオヤシロとか』
すうっと退治人の前に出てきた塵が白い手袋に覆われた細長い手指を形作り、敷地内の建物の向かい側に設けられた、全長がロナルドの足にも満たない小さな社を指差した。
「
……
確かに、ここだけ随分すっきりしているな」
慎重に近づき、自分の目で様子を確かめたロナルドも吸血鬼に同意する。地面にはオオバコやドクダミらしきものが好き放題に生え、壁や柵にはどこも蔦が絡まっている有様の中で、この社だけは雑草が取り払われた小綺麗な状態を保っていた。中に収まっているご神体らしき像も確認したところ、この場に長いこと置かれているだけの渋みを纏っていたが、目に見える苔や雑草等は取り払われており、少なからず誰かに大事にされているような印象を受ける。空に上った月がよく見える天気というのもあって、ささやかな白光を受けた像は静謐な神聖さを纏っているようにも感じられた。
「一ヶ月前
……
遠吠えが聞こえるようになってからは、余計に誰も近づかせないようにしていたという話だよな」
『うむ。何者かがこっそりと出入りしていたか、あるいは
……
』
ドラルクが推論を立てていたところで、ロナルドがはっと周囲へ視線を巡らせた。赤い衣装へ装着したホルダーから拳銃を抜いた退治人は、かつて待合所として使用されていたらしい小さな建物の陰へ素早く身を隠す。
「
……
聞こえるか」
『ほほう、これはこれは
……
確かに、遠吠えのようではあるな』
――
ォ
……
ォヲオオォン
……
オォ
……
空洞を通り抜ける風のような唸りが、敷地すぐ近くの樹林から鳴り響く。段々と大きくなってくるそれの正体を確かめるべく息を潜めて待つこと五分余り、ロナルドの視界に小さい、爛々とした赤い光が見えた。
「
……
っ」
『ロナルド君、まず観察しよう』
吸血鬼の囁きに無言で頷き、火葬場に現れたものたちの様子を冷静に窺った。
それは形、大きさでいえば成人した人間によく似ていた。だが表面は腐り落ちた皮膚のように黒く爛れ、老人のように折れ曲がった背中は生きた人間にはありえないほどに(まるで身体の中にある全ての臓器が抜き取られたかのように)痩せ細っている。窪んだ眼窩の奥には火花のような赤い色が時折明滅し、それが自警団の見た光の正体のようだった。
目視のできる範囲で数えたところ数は六体ほど。歯が見えない干からびた口から遠吠えを上げ、敷地内を徘徊する姿は、ロナルドにある存在を連想させた。高等吸血鬼に毒を打たれ、この世界から逃げることも叶わなかった死者の成れの果て。
「グール、か?」
『
……
いいや』
ロナルドが口にした予測を、ドラルクが静かに否定する。
『グールであればこんなところに集まらずにもっと人間の多いところを目指すだろう。町に明確な犠牲者も出ているはずだ』
「だったらこいつらは
……
」
『半田君のように識別はできないが、私の見立てが正しければ吸血鬼。もっと細かくいうならば吸血鬼のなりかけ、といったところか』
「なりかけ?」
『彼らの行動をよく見たまえ』
言われたロナルドがドラルクの手が指し示した先、なりかけたちの行動を改めて注意深く観察する。
火葬場を唸りながら歩き回る彼らの動きには、確かに一定のパターンがあった。
最初の行動。小さな社の前で膝を折り、手を合わせる。周囲の草を取り除き、像の汚れを拭う。次の行動。焼却施設があった大きめの建物に集まり、扉を拳で一斉に叩く。この音が、自警団の聞いた「何かを殴る音」の正体だろう。叩く音は大きいが、不思議なことに六人が一斉に叩いても扉が軋んだり壊れたりすることはなかった。最後に、扉から離れた彼らは現れた場所の近くに戻って崩れ落ちるように地面に伏せて一際大きな、悲鳴のような鳴き声を上げる。それを暫くの間続けた後、再び社の前へ戻って手を合わせるのである。
「これは
……
もしかして、火葬されたがっているのか?」
『ここが閉鎖された直後、吸血鬼の存在も認知されていなかった頃は一時的に火葬を止め、すぐ傍の集合墓地で土葬を行っていたそうだね』
「その人たちの身体が吸血鬼化しちまったってのか
……
」
彼らの行動から目を離さないまま悲痛の表情を浮かべるロナルドが、直後何かに気づいたように瞬きをする。
「お前、なりかけって言ったよな。それって仮性吸血鬼化している
……
まだ戻すことができる状態ってことか?」
『仮性吸血鬼の治療とは全く違うが、彼らを元の状態
……
土の下に眠る骸へ返す方法には、一つ心当たりがあるよ』
◇
『吸血鬼にとって最も恐るべき天敵、それは退屈だ』
組み上げられた四角い木枠の中へ、空気が入るように隙間を作りながら枯れ枝や枯れ葉が重ねられる。
『執着する何かが、心動かす何かがなければ存在する力を失い、やがて夜明けを待たずして世界に希釈され、消えていく。日本で死者の未練を解消し成仏させるという方法が除霊の一つとして定着したのも、そういった一面があったからこそだろうな』
吸血鬼を焼くために調合された液体の着火剤を満遍なく撒いたロナルドがライターで火を点すと、ぱちぱちと音を立てて橙色の炎が生まれ、段々と大きくなっていった。
「
……
こんなたき火でも、救いになんのかな」
炎が十分に大きくなったところでロナルドは旧焼却炉の陰に隠れる。やがて、唸り声を上げた「吸血鬼のなりかけ」たちがたき火の元へ集まってきた。
『実際のところ、あれらに故人たちの意思など残ってはいまい。今になって起き上がり火葬場へ集り始めたのは、「祖先たちを火葬してやれなかった」「もしも、土に埋葬した彼らが吸血鬼になってしまったら」という住民たちの恐れが火葬場と墓地をツクモ吸血鬼化させようとしていた、といったところだろう』
最初の一人が、祈るように手を合わせてたき火の中へ足を踏み入れる。炎は瞬く間に彼(或いは彼女)の全身を覆い、その肉体を灰へと変えていった。
「
……
なら、ここで火葬をして恐怖を取り除いてやれば」
『うむ、ひとまず異変は収まることだろう』
「そうか
……
」
一人、また一人と炎の中に身を投じて灰と化していく様を見届ける退治人と吸血鬼。途中から声もなく眺めていたロナルドの視界に、ドラルクの掌がひらりと入り込んだかと思うと、銀色の前髪を一房摘まんだ。
「ん、どうした?」
『あー、ロナルド君は
……
いや、やっぱり何でもない』
「おい何だよ、気になるだろうが勿体ぶりやがって」
『
……
ふぅ、ちょっと気になっただけなのだがね』
髪から離れた手が、こめかみを滑って頬を包み込むように触れてくる。温度を殆ど感じることができない骨の感触は嫌いではなく、むしろ今の自分にとって拠り所となっていることを退治人は知っていた。
『ロナルド君はさ、壺に入るのと棺桶で眠るの、どちらを望むのだろうか、と』
「
――
」
そんな手の持ち主が躊躇いがちに言った言葉の意味をじっくりと噛み締めた後、随分と珍しく、久しぶりにロナルドは破顔した。
「俺一人の身体じゃねぇんだ。今は棺桶で寝てやるに決まってんだろ」
お前がお前だけの身体に戻った時、どうするかは未だ答えてやらない。
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