食卓には肉料理中心の洋食が並ぶことの多い我が家であるが、「たまには良いだろう」と思い、今夜は夜食のメニューを珍しくアジのみりん干しを中心に和食にしてみた。しかし食卓についたロナルドくんがいつものように「いただきます」と手を合わせたはいいが、なぜだか皿の上のアジを見るなり妙に神妙な顔をして、今日のメインであるそれに一向に手をつけようとしない。はて、セロリ以外に魚も嫌いだったかと思い「君、魚苦手だったっけ?」と聞くと、ロナルドくんは副菜のきんぴらごぼうをもぐもぐと咀嚼しながら「…いや、嫌いとかじゃなくて、…魚の骨が、」と何やら口篭った。
「骨?…取ってあげようか?」
普段たまに魚を出すときはフライにすることが多いため大抵骨取りいらずだ。干物とはいえまるごとは流石に5歳児にはまだハードルが高かったか?とそう聞くと、ロナルドくんは「違うわ!!」と大きな声で反論してくる。
「骨ぐらい自分で取れる!!馬鹿にすんなよ!?」
「そう?」
てっきり、自分じゃほぐせないからあの微妙な表情だったのかと思ったが違ったらしい。ジョンのも取ってあげてるし、ロナルドくんひとり分増えたところで大した手間ではないのだけれど。しかし実際、いざ箸を付ければその所作は案外丁寧である。
「じゃ何でさっき変な顔してたの」
「う、なんていうか……」
苦手なわけでも、食べるのに難があるわけでもないなら一体なにが引っかかったというのか。普段セロリ以外は殆ど何でも美味いと言って食べるから尚のこと気にそうなり聞くと、ロナルドくんは何故かすこし頬を染め、また言いづらそうにこちらに視線を寄越した。
「…なんか、この魚の骨が、」
「うん」
「…………………おまえの肋に、なんか、ちょっとだけ、似てるなって、」
「は、」
「……夜、俺、お前のこと、下から見てるじゃん。それをちょっと、思い出しちゃって、なんか、」
そう言いながら、ロナルドくんはじわ、とさらに頬を赤くした。箸は先程からずっと止まったままだ。どうやら羞恥心が限界を突破したのか目元もじわじわと潤みはじめ、それっきり俯いてすっかり黙ってしまった。食卓に流れ始めた妙な空気に、それまで気にせず食事を続けていたジョンも流石に箸を止め「ヌァ…」という顔をしていたが、流石にフォローに回る余裕もない。なんせあまりの告白に、私も二の句が継げなくなった。耳の端まで真っ赤になっている彼につられて、段々こっちまで頬が熱くなっていくのがわかる。
「…君ね、食事中に何てこと考えてるのさ……」
「う"、だって………」
ようやくどうにか絞り出した声は、自分でも情けないくらいに掠れていた。
「ハア………」
思わず深いため息が漏れ出る。軽い気持ちで聞いたのに、まさかそんな理由とは思わないじゃないか。
「お、怒んなよお…」
「怒ってないよ……」
怒ってない。怒ってはいない。怒ってはないけど、さあ。魚の骨が私の肋に似てるってさあ。あんまりにも思考が飛躍し過ぎではないか。そんな顔までしちゃってさ。「欲情しました」って言ってるようなもんだぞその顔は。たかが魚の骨を見るだけで、私との情事を思い出して、挙句そんなになっちゃうなんて。一体私をどうしたいんだ、君は。
…ああもう。今すぐ、めちゃくちゃにしてやりたい。
先程まで全くそんなつもりはなかったのに、彼のとんでもない発言にあてられて、じわりと高められてしまった興奮を誤魔化すように、もう一度大きく息を吐く。
「……とりあえず、それ食べちゃって。予備室でじっくり話し合おうじゃないか。ね。」
「ねえ絶対怒ってんじゃんそれ!やだあ!」
怒られるのは嫌だ!と喚くロナルドくんを「いいから早く食べて」と宥めながら、とりあえずしばらく魚の干物や一匹そのままはやめよう、と決意する。こんなことでいちいち欲情されたら溜まったもんじゃない。また一つため息をこぼすと、隣で食事を再開したジョンが、生暖かい視線をこちらに向けていたのだった。
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