Hizuki
2025-04-27 22:58:53
2218文字
Public あんスタ[零薫他]
 

朝の一杯は少し濃い目で

【あんスタ】零薫。オフの日が被った朝の2人の話。同棲してます。用意するなら2人分でも同じだから。



電子音に起こされないようにした今日は、カーテンの隙間から差し込む光が目覚ましの代わりになった。ベッドサイドのテーブルで充電していたスマートフォンのバックライトを付けて時間を見る。朝というには少し遅い時間だろうか。とはいえ、オフの日の朝としては早い時間と言っていい。二度寝をしても問題はないけれど、気持ちよく晴れている日にこのまま眠っているのはもったいないような気がして、ベッドから出ることにした。
まだ少し残っている眠気を覚ますために、まずはコーヒーでも飲もうとキッチンに向かう。せっかくだから、この間買った新しいものを開けることにする。店頭で試飲させてもらって気に入って、そのまま買ってきたもの。ドリッパーとペーパーフィルター、それと自分のマグカップを取り出して、パッケージと一緒に写真を撮っておく。後でSNSに上げるためのものだ。ケトルに水を入れようとしたところで、ゆったりとした足音が聞こえてきた。同じベッドで寝ていた彼も起きてきたらしい。

おはよ」

続いたのは、まだ眠そうな零くんの声。綺麗な紅の瞳は開き切っておらず、寝起きのせいでいつもよりその声は低い。本人の髪の癖もあってそこまで目立ちはしないけれど、緩く寝癖も付いている。

「おはよ」

零くんが一番無防備な瞬間だなぁ、と思いながら同じように朝の挨拶を返して、もう一度キャビネットを開けた。ぽっかりと空いた空白の横にある、黒のマグカップを取り出す。さっきの自分のものと色違いのそれは、零くんのものだ。

「零くんにしては早いじゃん。どうしたの?」

俺にとって早い時間なら、零くんにとってはもっと早い時間になる。水をケトルに入れながらそう尋ねた。

何となく目が覚めて

重さの感覚で大体2杯分の水を溜めると、コンロに乗せて火を点けた。

薫くんがおらんかったから起きてきた
「そっか」

覚醒し切らない声で零くんは俺の問いかけに答える。俺が動いたことで零くんを起こしてしまったのかもしれない。
昨日の仕事を終えて、帰り着いた部屋のダイニングテーブルの上にはメモ帳に書き付けた手紙が置かれていた。『遅くなりそうだから、気にせず先に寝ておくれ』と。帰ってくるまで待っていようと思ったけれど、身体の方が睡魔に抗えずにおとなしくベッドに入った。深い眠りに落ちていたようで、零くんがいつ帰ってきたのかは分からない。けれど、俺を起こさないように気を遣ってくれただろうことはちゃんと察している。
もう少しベッドの中にいてもよかったかな、と思いつつ、ドリッパーの用意をする。ペーパーフィルターの端を折ってセットして、コーヒーの粉の封を開ける。ふわりと広がったいい香りを吸い込んでいると、急に身体が重くなった。ぴったりと背中にくっついている感触。抱え込むように腰に回された腕。首元にくすぐったく触れる一定のリズム。どうやら零くんが俺にしがみついているらしい。

「ちょっと~ここで寝ないでよ~?俺動けなくなっちゃうじゃん?」
大丈夫じゃちゃんと起きとるよ

零してしまわないように開けたばかりのコーヒーの袋を置いて、軽くぺちぺちと零くんの手を叩く。立ったまま抱き枕にされている、という方が正しいかもしれない。支えることはできるけれど、代わりに身動きは取れなくなる。起きている、という言葉の割に、肩に乗せられた頭が動かされる様子はない。

「久し振りに、薫くんとデートしたいし

まだぽやぽやとした調子で続けられた言葉に思わず手を止める。今日のオフが重なっていることは早いうちから分かっていて、少し前から「早く起きられたらデートしよっか」なんて話もしていた。とはいえ、前日の零くんの帰りが遅くなるということもあって、今回は難しいかなと思っていたのも本当のことで。

もう」

零くんからの言葉が嬉しくて、口元が緩んでしまう。多分零くんからは見えないと思うけれど。丸一日のオフが揃って重なったのは久し振りで、もしかしたらそれもあって起きてきたのかもしれない。

「朝ご飯も用意するから、座って待ってて」
ん」

そう言って促すと、腰に回されていた腕が緩んだ。俺にかけられていた重みも消え、ぱたぱたと聞こえるスリッパの足音が少し遠くなる。キッチンカウンターの向こうのダイニングテーブルの椅子に零くんが落ち着いたのと同時に、ケトルの音がお湯が沸いたことを知らせた。まだ寝ぼけ眼の零くんに合わせて、コーヒーは少し濃い目に淹れることにする。先に黒のマグカップに粉を入れたドリッパーを乗せて、お湯を注いでいく。零くんの前にそれを置いたら、同じように自分の分も淹れて口を付けた。そして、朝ご飯の用意に取り掛かる。食パンをトースターに任せると、その間にベーコンと卵を焼いて、簡単なサラダにプチトマトを添えた。

うむ、実にいい朝じゃ」

大体の用意が終わった頃、カウンターの向こうからいつもの声が聞こえてきた。振り返ってみれば、マグカップを手に満足そうに頷く零くんの姿。ようやくちゃんと目が覚めたらしい。

「おはよう、薫くん」

今日の予定は朝ご飯を食べながら決めよう。どこかに出かけるのでも、部屋でゆっくりするのでも、零くんと一緒なら何だっていい。

「おはよう、零くん」

そんなことを考えながら、零くんにもう一度朝の挨拶を返した。