5年長屋の裏には猫だまりスポットがある。俺は進級して5年長屋で生活するようになるまで知らなかったが、学園内の猫好きの間では有名らしい。ちっとも知らなくて不思議そうにする俺たちに、八左ヱ門が教えてくれた。
そこは陽当たりがよく、日向ぼっこにぴったりだった。特に寒い季節の日中には、猫たちがよく身を寄せ合っている。訪れる人が気紛れに餌をやるから、餌目当てにさらに猫が集まる。そういう循環が生まれている。
動物にあまり興味はなかったが、毎日にゃごにゃごと猫たちが集会しているのを見ていると、「あの茶トラはほとんど毎日いるな」とか「あの三毛猫は新顔だな」とか、はたまた「あいつはだんだん太ってきたな」とか、だんだんとわかるようになってくる。そうすると自然に愛着も湧いてくるものだ。
八左ヱ門と雷蔵が率先して餌をやるから、俺も時々一緒におやつをやり、その見返りに柔らかい背中を撫でさせてもらう。まだ抱っこは嫌がられるのが悔しい。あいつら、八左ヱ門の膝には先を争って載るくせに。
恨みがましい目を向ければ、「年季が違うんだよ」と得意顔を見せられた。今から通い続ければ俺も抱っこくらい許されるようになるのだろうか。
猫だまりは学園の隠れた人気スポットだ。毎日入れ替わり立ち替わり誰かがやってくる。たまたま通りがかって構っていく奴もいれば、猫と遊びたくてわざわざ餌やおもちゃを持参する者もいる。毎日のように訪れる者もいれば、時折ふらっと訪れるだけの者もいる。
ある日、授業を終えて長屋に戻ってくると、喜八郎が猫に混じっていた。俺が猫スポットの存在を知ってから数ヶ月経つが、そこで喜八郎を見かけたのは初めてだった。餌をやったり撫でたりしているわけではなく、何かを話しかけている。猫みたいに気紛れでマイペースな奴だとは常々思っていたが、まさか本当に仲間だったのか。そんなわけないとはわかっているが、猫たちも喜八郎とまるで会話でもしているかのようににゃーにゃーと鳴いているから疑ってしまう。
しばらく遠くから眺めていたが、やがて喜八郎が俺に気がついた。目が合ったから近づくと、少し身を寄せて自分と猫の間に俺の入る場所を空けてくれた。
「先輩も猫撫でに来たんですか?」
「まあそんなとこ」
本当は違っていたが、そういうことにする。特に急ぐ用事はない。
「喜八郎も?」
「はい」
俺が猫の背を撫でると、喜八郎も釣られるように手を伸ばした。それから2人で静かに猫を撫でる。今日は黒と茶と三毛の3匹がいて、誰かが持ってきた煮干しを仲良く分け合っている。
喜八郎は、いまいち掴めない後輩だ。仲良くなれたと思ったら急に素っ気なくされることもあるし、かと思えば後輩らしく甘えてくることもある。嫌われてはいないようだが、好かれている自信はあまりない。
俺は喜八郎について、罠と穴掘りが好きなことくらいしか知らない。実際他のことには全く興味なんてなさそうに見える。
これを言うと勘右衛門に「お前も豆腐以外のことに興味があるのか謎だ」と笑われたけれど、俺はちゃんと豆腐以外のことにも興味がある。勘右衛門を含めた同級生たちを大事な友人だと認識しているし、この掴めない後輩のことをもっと知りたいとも思っている。
「猫好きなんだ」
「そうでもないです」
「そうなの?」
「はい。こないだ久々知先輩がここの話をしてたので、ちょっと興味を惹かれただけです」
ほとんど聞き流しているかと思っていたのに、俺の話をちゃんと聞いていたとは意外だった。剰え、興味を持ってくれたとは。
「ご感想は?」
「悪くないですね」
喜八郎が小さく頬を緩める。日頃あまり表情が変わらない子だから、こういうのはレアだ。
「さっきまで、猫となにを話してたの?」
「内緒です」
今度こそ、顔にはっきりと笑みが浮かんだ。こんな風に笑うんだ。無表情よりずっとずっと可愛い。
「僕、そろそろ帰りますね」
「そっか」
「また来ます」
「うん、待ってる」
喜八郎は名残惜しむ様子もなく去っていく。しばらく経って、次の約束をしたのなんて初めてだと気がついた。「また」なんて曖昧な言葉、ただの社交辞令かもしれないけれど。
なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになる。手元の猫を撫でようとしたが、煮干しをすっかり食べ終わった茶と三毛は、もうここに用はないとばかりにどこかへ行ってしまった。
唯一残った黒猫がにゃーと鳴く。残念ながら今日はこの子に食べさせられそうなものは持っていないので、両手を振って「もうないよ」とアピールする。返事をするようにもう1度にゃーと鳴いたが、他の2匹と違って去ってはいかず、その場に丸まって日向ぼっこの体勢を取った。
この黒猫は最初、俺に近づくことさえ許してくれなかったのに、今じゃすっかり慣れて大人しく撫でられている。
喜八郎も、たぶんそのうち。
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