usagipai
2025-04-27 06:34:13
3691文字
Public 幽世の縁【幻影ノ戦編】
 

【幻影ノ戦編】第二話


炎と氷がぶつかり合い、刃が唸りを上げる。
それはまさに地獄の業火と、凍てつく奈落の共演だった。
だが、晨焔は愉しげに笑っていた。
敵に囲まれ、戦局が劣勢であっても──彼の目に映っているのは、ただ一人。
カナメだけ。
……もう少し遊べるかと思ったけどやっぱり、ダメかなー」
晨焔がそう言って指を鳴らした瞬間、空間がひしゃげた。
空の一点に、闇のような裂け目が生まれる。
そこから現れたのは、ひときわ異質な“気配”を纏った男
──黎昊(れいこう)。だった
無音で降り立つその姿に、タカキと朧宮が同時に目を見張る。
長身の青年。血のように紅い髪に、綺麗な翡翠のような瞳。
纏う空気は“寒さ”でも“熱”でもなく、死に近い静寂。
……どんなに倒しても埒がありませんね」
朧宮が声を落とす。
黎昊は何も言わず、ただ一瞥、朧宮を見て──それだけで彼の背後の空気が一変した。
一歩、踏み出す。
その足取りは静かだが、重かった。まるで、あらゆる音を殺すように。
「おぉ!!きたの?黎昊」
晨焔が無邪気に手を振る。
「あっそういや目的の子、ちゃんと見つけたよ〜めっさちんちくりんで笑っちゃうよね」
黎昊の目がカナメに向けられる
その瞳は、酷く冷たい
だが、不思議と“拒絶”の感情はなかった。ただ静かに、彼を見定めるような。
……こいつか」
「うん。僕らの“弟”の可能性があるやつ」
タカキが一歩前に出る。
「てめぇら……っ、ふざけんな一つ聞かせろカナメを連れてなんになる、何をするつもりだ」
黎昊の視線がタカキに向いた。その瞬間、タカキの身体が一瞬、強張る。まるで心臓を鷲掴みにされたような、理屈の通じない威圧感。
それを感じ取った朧宮が、前に出る。
「気になるんですよね仲間ですので、それで?どこへ連れて行く気なんですか」
「答える必要はない」
黎昊の声は、感情を感じさせなかった。
冷たく、乾いた音。まるで感情を捨てた“何か”のようだった。
カナメは震える手で必死にバタつかせるが、それは虚しくただ空を切る
……くッ!タカキさん!!俺はいい絶対戻ってくるので!それより今は他の重要なことを!」
そんな必死の姿のカナメを見て連れ去った黎昊、晨焔はほくそ笑んだ
「あははは能天気な奴〜、これはこれでいいかもね。そういう君の顔がまた好きかも〜」
晨焔が笑う。その笑みはゾッとするには十分でカナメはだんだん青ざめていった
そして。
黎昊が手を挙げる
その掌から放たれたのは、空間そのものをねじ曲げる、圧倒的な重圧だった。
強大な力に四肢を引き裂かれるような激痛が走り、カナメは思わず顔を歪める。
……っ、まずい!!カナメ、踏ん張れ!」
タカキの必死の声ききながら体に力をいれる、
だが、カナメの足元がひび割れ、重力のような力に引き寄せられていく。
異界への門のように宙が裂け、彼の身体が宙へと浮かび上がった――
「離せッ!!」
タカキが腕を伸ばす。
だが、晨焔の炎が壁となり、その接触を拒んだ。
「ごめんねー。それは聞けない願いなんだよねー」
その時に、晨焔が見せた笑顔は──狂気にも、愛情にも見えた。
カナメは、みぞおちを強く撃ち眠らせ抵抗できぬまま意識を失い
そのまま、“闇”へと飲まれていった、冷たい静寂だけが、そこに取り残される。
「っ……くそッ……!!」
タカキが地面を思いっきり叩く
今までにない怒りと無力感が胸を焼いた。
だがまだ終わっていない。
そこには、まだ──敵がいる。
朝靄のように立つ男、晨焔。
「さて、と……
彼はひらひらと手を振る。
黎昊にカナメを預け、満足したようにこちらを振り返る。
「あの子は黎昊にお渡ししたし〜!これで心置きなく、遊んであげれるよ〜」
氷霧の向こう、朧宮が静かに剣を構える。
「──なら私と遊びましょう?」
「うん、うん隊長クラスと戦えるなんて〜暇しなさそうだね」
晨焔がふわりと笑いながら、炎を纏う。
次の刹那
──氷と炎が激突する。
冬のエリア、再び戦場に火蓋が落とされた。


一方その頃――
他のエリアでは、
春のエリア。
花街の長であるタマは、自ら街の救護と避難誘導に奔走していた。
この地もまた、襲撃を受けていたのだ。
燃え落ちる街並みを前に、胸が張り裂けそうになりながらも、タマは必死に自分を奮い立たせる。
「みんなッ!! 落ち着いて! こっちよ!!」
必死の呼びかけに応え、住人たちはなんとか安全な場所へと避難を完了させつつあった。
しかし――タマは胸の奥に、どうしようもない違和感を覚えていた。
……何かがおかしい)
こんな非常時だというのに、同じ春のエリアを守るもう一人の長・白夜(ハク)から、一向に連絡がないのだ。
街は崩壊寸前だというのに――
(ハクに限って、敵にやられるなんてこと……あるはずないのに)
得体の知れない不安が、胃の奥からこみ上げてきた。吐き気をこらえながら周囲を見渡していたその時――タマの目の前で、突然、近くの建物が轟音とともに崩れ落ちた。
「っッ!!」
思わず腕で顔を庇い、崩壊した瓦礫の先へと目を向ける。
そこにいたのは――見慣れた透き通るような水色の髪。
連絡が取れなかった張本人、白夜だった。
「ハク……よね?……なんで建物を壊したの……意味、わかってる?」
ここは、自分の守るべき街。
建物も、人々も、すべて護られるべきものだった。
それを――無意味に壊したのだ。
「ここは私の街なのよ」
タマの声には、怒りと戸惑いがにじんでいた。
だが白夜は、感情の抜け落ちたような目で、ただタマを見返す。
「おい冗談はよせ、見てもわかんないのか?お前
……これはキチンと説明なさい、ハク」
タマが静かに睨みつける。しかし、白夜はそれに答えず、ただただタマを冷えた目で見据えるだけで

その長い沈黙に胸がざわついた

──同時刻。秋のエリア。
避難の声が飛び交う中、二番隊隊長・辻極 乙姫(つじぎわ おとひめ)と、五番隊隊長・賀茂(かもの)は、襲撃された現場へと急行していた。
敵の手がかりを掴むため、慎重に周囲を調査する。
……ここには、ないか。何かの術式のようだが……まるで感じ取れん」
いつも険しい顔がもっと険しくなって行き、だんだん眉を寄せている賀茂
術式らしき痕跡は確かにある――だが、肝心の性質がまるでわからないのだ
属性すら、掴めない。
……以前、安倍が遊びで作った護符に似ている。あれは、多種多様な属性を一つに詰め込んだものだったが……
だが、この世に安倍のように「全属性を扱える者」が他にいるとは思えない。
常識ではあり得ないはずだった。
それでも、目の前の現実は、謎を深めるばかりだった。
悩んでいると一緒に調査していた乙姫から声をかけられた
「! ……賀茂さん、これ……
乙姫が、ふわりと手に一輪の花を差し出した。
それは、美しく、どこか妖しい光をたたえた花だった。
だが――見たことのない、異様な品種。
「この花、襲撃された現場には必ず落ちてます。まだ不確定要素ばかりですが……無関係とは思えません」
乙姫の声には、確信めいたものが滲んでいた。
そして――
次の瞬間。
背後から、ひやりとした冷たい風が吹きつけた。
ここは秋のエリア。
本来ならば、こんな冷気が漂うはずなどない場所だった。
二人はすぐに臨戦態勢をとる。
その耳に、低く、冷え切った声が届いた。
……ほう、小賢しいな、小さな花に気付くとは……
振り向きざま、鋭く睨みつけた先――そこに立っていたのは、
独り身の黎昊だった。
賀茂が乙姫を庇うように一歩前へ出る。
「貴様、何者だ。……この街で、なにをしている
(雰囲気が違う幽世に住まう者じゃない
問いかけに、黎昊は口角をわずかに上げた。
……さぁな。ただ、一つだけ教えてやろう」
黎昊は、足元の花を無造作に踏みにじる。
「ここは、もう終わりだ」
その言葉と同時に、空気が一変する。
肌を刺すような殺気が、辺りを満たしていく。
「来るぞ、構えろ!」
賀茂の叫びと同時に、乙姫も即座に臨戦態勢を取った。
次に襲いかかるは、黎昊は影のように動き──
「ッ!」
鋭い一撃が賀茂を襲う。
賀茂が刀で受け止めるが、その衝撃は地面をも揺らした。
「(……この力、ただ者じゃない!!)」
脳裏をかすめた危機感、それを振り払うように、乙姫が火の術式を発動し、
すかさず反撃に転じる──が。
「遅い」
黎昊はその攻撃を易々とかわし、逆に乙姫へと踏み込んだ。
「──ッ!!」
賀茂がすかさず割って入り、刀を振るう。
激しい金属音が空に響いた。
視線を交わす、賀茂と乙姫。
ここで退けば、この男を野放しにすれば
この街が、仲間たちが──全てが失われることがビリビリと感じる、そして2人の取る行動は決まっていたそれは黎昊を倒し、街を守ること
「行くぞ!」
「はい……
意志は固まり
──ここから、黎昊との戦いが始まる。