片葉美みつお
2025-04-26 18:44:35
3336文字
Public アベメシ
 

水面の心

モンハンワイルズが舞台。隼さん家のアベル君と我が家のメシアの話。
近づいた2人の距離。知ってしまえば、もっと求めてしまう。言い伝えに一縷の望みを懸けて、緋の森へと向かうのだった。

「ほら、このチャーム欲しいって言ってただろ?」
「! ……嬉しい。覚えてくれてたんだ……
「可愛い恋人の欲しい物くらい用意出来なきゃ男が廃るってもんさ」
「ああ……好きぃ……ん~~っま!」

どこぞのカップルがいちゃついている。
お熱い事で……

今日の任務を終えて、隔ての砂原のベースキャンプへ戻ってきたが、癒してくれるのはオトモのニャンタローだけだ。

メシアは今どうしているんだろうな……

先日の大集会所の一件でメシアが俺に気がある事はわかった。
人間とは、現金な物で相手に気があるとわかったらもっと欲しくなってしまう。

自分だけのものにしたい。

先日の一件があるまで、今の関係を変えたいなんて思っていなかった。

いちゃついているカップルは、公共の場にも関わらず、ディープキスに夢中だ。

キスか………
身体は許しても、キスはなかなか許して貰えない。

ましてや、メシアの方からキスなんてして貰ったことがない。
そこらの女みたいにちょっと甘い言葉をかければ、靡くようなヤツでもないし……

急にメシアの唇が恋しくなってきた。

アイツは身だしなみにやたら気を使っていて、髪は花の油で整えていたり、唇の保湿にははちみつを使っているらしい。
容姿を美しく見せたいというより、対人関係において落ち度や隙を作るのを嫌っているようだ。


前に湯上りに手入れしてる姿を見つけて、唇を奪ったことがあったが……柔らかかったな……


ニャンタロー「……また、メシアの事考えてる

妄想に耽っていたら、ニャンタローの声で現実に引き戻された。

二「メシアも大概だけど、アベルも素直じゃないよね」
ア「そうか……?」
二「好きだったら、告白すればいいのに」
ア「………まぁ、それも一理あるな」

告白………その発想はなかった。
恋人になりたいのなら真っ先に浮かぶ筈なんだが……

正直なところ………告白は………怖い。

メシア自身が「いちばん大切なのはジハード」と口にしていた。
そんなヤツに告白して、受け入れて貰えるのだろうか……
もし、断られたら…………

…………全く。我ながら、女々しいな。
 

「どうした、シケた面して」

考えに耽っていたら声をかけられた。

ア「ロッソか
ロ「どうしたんだ?捨てられた大型犬みたいなツラして」

そこは子犬じゃないのか。
どうやら、周りから見てもわかるくらい落ち込んでいるらしい。

ア「俺もブルーになる日があるんだよ」
ロ「ふぅん……さては、女だな?」

今はロッソの軽口に付き合ってる気分じゃない。
断ってその場を離れようとした。

ロ「そういえば、知ってるか?緋の森の言い伝え」
ア「? 言い伝え……?」
ロ「緋の森の滝の奥に水場があるよな?夜にそこへ行くと、運命の相手が水面に映るんだとさ」
ア「……また、うさんくさい話だな」
ロ「気晴らしにでも行ってみろよ。……案外、本当かも知れないぜ」

そう言い残して、ロッソは去って行った。
アイツなりに気を使ってくれたんだろうか。
ここで、うだうだ腐ってる位なら、行ってみるか……



緋の森での任務を終えたその足で、足りない素材の採取をしていると、いつの間にか辺りは暗くなっていた。

メ「……すっかり日が暮れてしまったな。ベースキャンプへ戻るぞ、ジハード」
ジ「うん!……あれ?」
メ「どうした」
ジ「今、チュンタローがいたような……

チュンタローアベルのセクレトの事だ。
緋の森にアベルがいる事自体、不思議ではないが夜の任務だろうか。
帰りがてら声位かけてやるか

チュンタローがいた方へ向かうと、ニャンタローとチュンタローがいた。
アベルの姿はない。

メ「? ニャンタロー、お前だけか?」
ニ「あっ メシア……

声をかける前、ニャンタローは滝の方を見ていた。
あそこにいるのか……

メ「任務中という訳でもなさそうだな、何かあったのか?」
ニ「えーとえーと……

ニャンタローが答えに詰まっている。
オレがアベルと会うと都合が悪いのだろうか。
余計気になる……
ニャンタローの答えも期待できなそうだ。仕方がないので滝の方へ歩を進める。

ニ「……待って!!ジハードは行っちゃダメにゃ!」
ジ「え?」
メ「? どういう事だ?」
ニ「理由は言えないけどダメにゃ!」

仕方がないので、ジハードを置いて滝の奥へ向かう事にした。
アベルは確か釣りを好んでいた。
一人静かに釣りでも楽しんでいるのだろうか。

滝の奥の空間に出るとアベルが水面を見つめていた。
どこか、いつもの様子と違う……今にも……消えてしまいそうな。
声を掛けづらいので、そっと近づいてみる。
耳の良いアベルならオレが来たことに気付くだろう。

隣に立って、一緒に水面を見つめる。
澄んだ水面は、オレとアベルの姿を映していた。
存在に気付いてるだろうに、アベルは黙ったままだ。

メ「おい……気づいてるだろ。何か反応しろ」
ア「………っふ」

何故かアベルが笑いをこらえている。

メ「なにをニヤついている……
ア「……いいや、なんでもない」

こちらに向き直ったアベルは寂しそうな微笑を浮かべている。
なんでそんな表情を……
居たたまれない気持ちになる。
なんとか元気づけたくて、考える前に唇へキスしていた。

ア「!…………

冷静になってみると、いままで自分からアベルにキスした事がない。
急に羞恥心がこみ上げてきた。
慌ててその場から離れようとすると、今度はアベルからキスされた。

メ「んん………っ!」

オレがしたような触れるだけのキスではない。
口内を貪られるような、深い深い口づけ。
両腕で抱きしめられて逃げる事も出来ない。


どの位時が経っただろうか。

解放された頃には、軽い酸欠状態で立っているのがやっとだった。

ア「メシア………

熱っぽい瞳で見つめられる。
今日はなんだか、様子がおかしい……アベルも、オレも……

ア「好きだ
メ「………!」

一瞬、何を言われているのか理解できなかった。

アベルに………告白されている……

前々から、同じ言葉を告げられた事はある。
ただ、今日の告白は……今までの言葉とは違う。

ア「俺の『恋人』になって欲しい……
メ「…………

アベルの事は嫌いではない。

しかし……信じきれない自分がいる。

血の繋がった父親ですら、オレを裏切った。
幼少の頃、裕福な家庭で育ったオレは盗賊団に誘拐された。
身代金を要求された父親は、義母達に唆された事もあり、身代金を払わずオレを見捨てたのだ。

アベルだって………本当に追い詰められたら、オレの事を裏切るのではないか?
そう思わずにはいられない。

メ「……『恋人』という肩書に拘る必要があるのか?」

別に、今の関係でも十分ではないのか。
同い年で気兼ねなく相手に物は言える。
気が向いたら、床も共にする。
キスだって……時々はオレがしてやってもいい。
何も問題はない筈だ。

ア「………俺を信用してないのか?」

アベルは納得出来ないらしい。
その通りだ。
人間誰しも我が身が一番可愛い。
お前だって、そうに決まっている。

メ「……そうだ。お前の事は嫌いじゃない。だがオレの背中は預けられない。」

信じてしまいたい。
そうすれば、楽になれる。
しかし、自分には嘘をつけない。

ア「………わかった」

意外にも、アベルは素直に引き下がった。
ほっとしたのと同時に、やるせない気持ちもある。
いっそ、過去の記憶なんてなくなってしまえば良かったのに……

話も終わったので、ジハードの元へ戻ろうとしたが、後ろから抱きしめられた。

ア「……確かに、俺はメシアの事を知っているようで本当の事は知らないのかもしれない」
メ「…………
ア「……だから、もっと知りたい。お前に信頼される位に……

気が付いたら、自分の頬が濡れていた。
狡い男だな……お前は。

緋の森の夜は、どこか優しく感じた。

終わり