風邪引きニュ

風邪を引いたニュと魔法動物たち。
おまけはテセ+ニュの小話。



執務室で書類にサインしていると、聞き覚えのあるフスフス音が聞こえる。こんな所にいるはずがない、と思いながらも顔を上げると、ニュートの相棒の黒い毛玉と目が合った。手には見覚えのある懐中時計。僕の懐中時計だ。
——テディ?」
名前を呼んだ途端、脱兎の如く逃げるテディ。そもそも闇祓い局の執務室にどうやって侵入したのかと疑問に思いながらも、慌てて追いかける。下手にアクシオで引き寄せてニュートの大切な相棒を傷付けるわけにもいかないので、走って追いかける。

そうこうしている内に暖炉に入ろうとするテディをなんとか捕まえると、そのままどこかに転送されてしまった。魔法動物も暖炉を使えるのだろうか、と冷静に考えていると、そこは馴染みのあるリビングだった。
ニュートの家か」
手の中でジタバタと暴れるテディの頭の上に、いつの間にか葉っぱのようなものが乗っている。
「ピケット?」
ピケットはピィピィ言いながら扉の向こうを指差している。懐中時計を回収してからテディを下ろしてやると、テディの背中に乗ったピケットはついてこいとばかりに腕を振る。
大人しくついていくと、ニュートの寝室にたどり着き、ベッドでぐったりとしているニュートが目に入った。
「ニュート!?大丈夫か!?」
急いで駆け寄り様子を見ると、顔が赤く、呼吸が浅い。体温が高く汗もかいている。額には小さなオカミーが乗っており、少しでも冷やしてやろうとしている様子だった。
「テセウス?どうしてここに?」
「お前の小さな相棒たちが案内してくれたんだ」
ふと枕元を見ると、また懐中時計をくすねて腹のポケットにしまおうとしているテディが目に入る。本当に手癖が悪い。
「すまないが、それは大切なものだからこっちにしてくれ」
いざというときのために特別にピカピカに磨いておいたガリオン硬貨を眼前に晒せば、懐中時計を離して飛びついてきた。もう盗られないよう懐中時計をしっかりとしまう。
ニュートの首筋に指先を当てると、冷たかったのかニュートが小さく身じろぐ。
「脈が速いな。何があった?」
「ただの風邪
「薬は飲んだのか?」
「ううん
「その様子じゃ食事も摂れてなさそうだな。少し待ってろ」
杖を振り、氷嚢を作る。
「君、これでニュートの額を冷やすからそこを退いてくれないかな?」
ニュートの額の上に乗っている小さなオカミーに話しかける。彼(もしくは彼女)は氷嚢をつんつんと突いた後、これが冷やすものだと察したのか、大人しく降りてくれた。
「ありがとう」
汗で貼り付く前髪を払い、氷嚢を乗せてやるとニュートの表情が少し和らいだ。その様子を見て、まずは食事を作るためにキッチンへと向かう。

ありあわせの食材でスープを作って戻ると、ベッドの上にいくつかの種類の草が並べて置いてあった。
「これは薬草か?」
「うんドゥーガルが持ってきてくれたみたい」
ニュートがベッドから上体を起こして空中を撫でている。どうやらそこにデミガイズがいるようだ。ふいにニュートが薬草を鷲掴んだかと思うと、そのまま齧ろうとし始めたので慌てて止める。
「待て、そのまま食べるのか?」
「煮詰めた方が効能は高まるけど、このままでもいけるよ」
「ダメだ。兄さんが煮詰めてくるからお前は先にスープを食べていなさい」
「わかった」
熱で頭がぼんやりとしているのか、いつもより随分素直だ。ベッドに座るニュートの背中にクッションを挟んでやり、スープを渡す。
「少し冷ましてあるからすぐに食べられる」
「うん」
意識が朦朧としているニュートから目を離すのは心配だが、魔法動物たちがついているからおそらく大丈夫だろう。ピケットはニュートの肩によじ登り、ぼんやりとしているニュートにちゃんと食べるように促しているようだ。ちなみにテディに狙われないようにスプーンは木製にしたためその点は安心だ。

ニュートが齧ろうとしていた薬草を確認すると、昔よく実家で飲んでいた風邪薬の材料のようだった。これなら僕でも調合できる。母直伝のレシピを思い出しながら、鍋に材料を入れていく。
煮込んでいる間キッチンを見渡してみると、いつだったかニュートに贈ったはちみつが目に止まる。封が切られていることからおそらく食べてくれていたのだろう。子供の頃、スプーンをはちみつの瓶に直接突っ込んで食べて母さんに怒られていたニュートを思い出し、思わず口角が緩む。
鍋の火を止め、マグカップにうつし、仕上げに少しはちみつを垂らす。

ちょうどスープを食べ終わったニュートに風邪薬を渡す。
母さんの味だ」
「隠し味もばっちり入れたからな」
はちみつ?」
「ああ。あのはちみつ食べてくれてたんだな」
おいしかったから少しずつ食べてた。また買ってきてよ」
あどけないヘーゼルグリーンの瞳でじっと見上げられ、嬉しくもむず痒い気持ちになる。今日のニュートは熱のせいか素直で甘えん坊で、昔を思い出す。
「もちろんだ」
空になったマグカップを受け取り、杖を振る。汗だくだったナイトシャツを乾かしてやった。
「子供たちの世話は僕がやっておくから、お前は暖かくして寝なさい」
うん、ありがと
再びベッドに横になったニュートから、すぐに寝息が聞こえてきた。先程までの寝苦しそうな様子はなく、胸を撫で下ろす。
「おやすみ」
ニュートの額にキスを落とし、布団をかけ直してやった。