こゆ
2025-04-25 22:20:12
2074文字
Public
 

此処は笑顔の効果範囲外

ペン誕のペンシャチ2025
お祝いの気持ちのSS

※現パロ
※モブ子視点
※ペンギン大1、シャチ高3

※AI学習無断転載禁止





此処は笑顔の効果範囲外


春だった。
大学に入ってすぐのレクリエーションで一目惚れしたペンギン君。どうにかこうにかお近づきになりたい。そう決意して数日、ランチに誘うも用事があるとすげなく断られるし、遠目に盗み見た持ち物や服装からもおおよその人柄や趣味が推測もできず、とっかかりがないまま数日が過ぎてしまった。持ち前のイケイケ精神と、生まれてこの方チヤホヤされてきた親に感謝の見た目を武器に、「今週末は? 学外での週末ランチ会計画してて“みんな”でごはん行かない?」と言うも、羽虫が来てもおんなじ顔するんだろいなって顔で、「無理」わずか二音で蹴られてしまう。

「あー、ええと、来週末でも、いいんだけど」
「基本的に週末ぜんぶ無理」

一顧だにせず毅然と、おごそかに、言い切らてしまった。後ろで私頼りの見てるだけな “ペンギン君とお近づきになりたいみんな” もがっかりしている。つれないなーってその場では諦めたふりをして、明日はサークルとかどうするか聞いてみよう。と、胸に誓う。しつこい女は嫌われちゃうから、そう思って “みんな” の輪に戻る。
「もうちょっと粘ったらいけたんじゃない?美人に喜ばない男はいないよぉ〜」なんて見え見えのごまを擦られたけど、だてにモテをやってきたわけじゃない。ペンギン君は長期戦だと、私のモテの経験値が言っている。

 

後日の昼休み。人影のまばらな研究棟の裏庭。誰かと通話してるペンギン君を見つけた。
その通話の表情ときたら。
まだ、新しい環境に手さぐりで浮き足立っていて、昂揚と恥じらい、遠慮と不安、そして厚かましくも素敵な出会いへの期待がブレンドされている一般教養の講義室で、当たり前のように返された拒絶にも似た完膚なきまでのつれない態度はどこへやら。孤高のイケメンかと思いきや、すっごい喋るし細められた優しい目元。見たこともないほど開かれた大きな口。ペンギンくんは大切でたまらなそうにスマホを耳元に当てて。
……だな……心配だ」
片手で目頭を抑えながら、はーって大袈裟に息を吐いた。
「昔から警戒心足りてねェから俺が狭量になんの」
びっくりするくらい拗ねた口調で妬いてみたり「早く土曜になんねーかな」と空を振り仰ぎ、吐息で笑ったりしている。その遠い街で咲く花に焦がれるような顔。
大学生活も一週間たち毎日ストーカーのように観察し続けたクールビューティー。参考にできるような私生活の好みの欠片も見つけられなかった男が、相手の返しに聴きいってその後、心底愛おしそうに微笑んでいる。
「誕生日は平日だろ、ばか……え、夜? あー、わかった。ん、助かる。おれも逢いたい」
天上天下のあらゆるものと敵対してでも、電話のむこうのそのひとにだけは優しく在り続けるんだろうと明瞭に伝わる、声。
「そろそろそっち五限だろ?また晩にかけなおす」
……かけるんだ。晩も。
その一言に、私はついに膝から崩れ落ちた。
なんだ、なんだ、本命いるんじゃないのよ!
と、心の中で盛大に叫んで。


構内でスマホ越しに微笑むペンギン君に出くわして、耳をそばだてた学生は私だけに限らなかった。週末の予定が全部埋まっているミステリアスな彼の真相は、入学後およそ一ヶ月にして風の噂で周知されることとなる。

どうやらペンギン君には地元に残したベタ惚れの一個下の恋人がいる、と。

そしてさらに半年後、彼氏彼女自慢のような流れになったときに、涼しい顔で聞き役に徹していたペンギン君が「おまえ地元に彼女いるんだろ? 自慢とかある?」って聞かれて一言。
……すっげー、エロいことしてくれる」
そう言って、その場で満場一致の優勝をかっさらった。
そのときのペンギン君の表情といったらなかった。

毎日見ている顔なのに、今この瞬間まで一度も見たことない、悪くて、妖艶で、とっても幸せそうな笑顔だった。


さらにさらに半年後。
奇しくも一年前と同じ場所でペンギン君を見かけた。赤毛の男友達に笑いかけるペンギン君。赤毛の友人の緩く大きき開いていたパーカーの胸元に指を伸ばすとファスナーをおもむろに上まで引き上げた。

「シャチ、風邪ひく」
「ぐぇ、ちょっとペンギン、そんな寒くねーよ」
「うそ、見せたくねーだけ」

そのペンギン君の“しょんぼり”と音が聞こえてきそうな拗ねた声に聞き覚えがあった。そして赤毛の彼の、嬉しそうな恥ずかしそうな照れてるような上目遣い。思わず『かわいい』と思ってしまうような。どんなテクだよ?っとモテには目敏い私は思わず魅入ってしまった。
もう完全にふたりの世界に入り込んでいるそれを見て、一年前の出来事が、半年前の衝撃が、たったの10秒ほどで全て理解できてしまった。
それは、まさに、天啓で。
四月にしては肌寒い研究棟の裏手。春一番が拭き抜けるなか、私は口をまぬけな形状に開けたきり、野暮なコメントは発しまいと、息をも止めた。

どうしたって、敵わないものを見た気がした。





【了】