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ミイ
2025-04-25 21:51:16
1794文字
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静なつ
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夜
とっくに日付も変わってしまった深夜。
「
…………
」
冷たく広いベッドで一人眠っていた静留は、不意に目を覚ました。仄暗い視界の中、重たい瞼を押し上げ手を伸ばす。
……
つめたい。
隣に、愛しい人の姿はない。それもそのはず。彼女はもう何日も泊まり込みで研究を続けているのだから。
自分よりも仕事が大切なのか、と微妙な時期の恋人が問うそれを問いたいくらいだが「大事な時期なんだ」と堅物な恋人が頭を下げてくれば、静留には何も言えはしない。
「
……
わかりました。気張りよし」
いつかのような作り笑いで、言葉だけの励ましをかけるだけ。
自分の最優先事項は、彼女だ。彼女が望むのなら、その邪魔はしたくない。
喉が、張り付いたように乾く。そういえば今日、いや、昨日はそれほどお茶を飲んでいなかったかもしれない。
「
…………
」
足の裏から、じわりと冷えが伝わる。日中の気温とは裏腹に、朝晩の冷え込みにはまだ冬の足跡を感じられた。手探りでドアノブを見つけ、軽く押す。自動でついた灯りを頼りに、キッチンのスイッチを押した時。
「うわっ!」
「
……
ぇ」
「静留、起きてたのか」
「なつ、き?」
少し、痩せたのではないだろうか。きっと、また栄養ドリンクなんぞで栄養をとった気になっているのだろう。ああ、自分が弁当でも作って持たせてやればよかった。風呂に入る暇もないのか、自慢の蒼髪は、以前ほどの艶がなく、十分に眠ってもいないのだろう。目の下には深いクマが刻まれている。だけど、それでも。彼女がここにいる。それだけで、十分だった。
「なつき
……
」
「遅くにすまない。ようやくひと段落したんだ。だから、ちょっとだけ
……
お前の顔を見ようと思って」
よく見ると、なつきの右手には数年前、静留が贈った鞄が握られている。本当にただ、顔を見るためだけに寄ったのだろう。
「
……
すぐ、行かはるん?」
「ん? ああ。静留の顔が見れてよかった。本当は寝顔のつもりだったんだが
……
」
ぬくいなつきの指が、乾いた頬をくすぐる。
「おまえの瞳に、映れてよかった」
へにゃ、と子どもみたいに笑う顔が、愛おしくて、愛らしくて。
「静留?」
口から出そうとしていた言葉とは裏腹に、指先はどうしても素直に動いてしまう。
「
……
かんにん」
そう、言葉にするので、精一杯だった。
振り払われる前に、自分から。
震える指先を、そっと外そうとした時。
「
……
っ!」
ぬくもりに、包まれた。
「静留」
「
…………
」
「静留」
「
……
堪忍」
「謝って欲しいわけじゃない。同じだってわかって、嬉しいんだ」
「
……
え?」
「静留に、会いたかった。でも、顔を見たら甘えてしまいそうで
……
だから、今日まで頑張ったんだ。本当は顔を見たらすぐ戻るつもりだったけど
……
このまま、朝まで一緒にいてもいいか?」
「
…………
やかて、あんた」
「
……
静留は、どうしたい?」
いつのまにか両の指は絡めるようにして縫い留められ、ぬくい額が、自分のそれに寄せられていた。翡翠のような瞳にじ、と見つめられて仕舞えば、静留の口は、必死に隠していた想いを、綴らざるを得なくなる。
「
……
うちも、なつきと
……
一緒にいたい」
「じゃあ決まりだな。ちょっとあっちに連絡を入れるから、少し待っ」
さっきまではよかったのに。ちょっと見直すくらいあったのに、突然無粋なことを言い出した唇を、自らのそれで塞いだ。蛍光灯の下、赤く染まった頬を細い指で撫で、じ、と睨めつさるようにして見つめる。
「
……
うち以外、みんとって」
「
……
ああ。悪かった。静留」
「
……
」
「おいで」
我ながら面倒くさい女だと思う。それでも、彼女が受け入れてくれるから。自分のためだけに広げられた、存外力強い腕の中に飛び込む。
久しぶりに感じる体温、匂い。体全てで、愛しい人を感じる。
「なつき」
「ああ」
「なつき」
「
……
静留」
「
……
愛してます」
「ああ、私もだ」
穏やかな声に、孤独に張り詰めていた静留の心の糸が緩んでいく。
その晩は久方ぶりに、お互いの体温を感じとりながら眠りについた。
朝日が差し込む部屋の中。隣に愛しい人の温もりがあることを、静留は涙がこぼれてしまうほどに、幸せだと思った。
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