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らい
2025-04-25 21:00:25
2094文字
Public
レオいず
レオいず30days㉕「眠れぬ夜のララバイ」
パラレル・パロディ編⑤ お題「悪魔」
※ドミナント×聖歌隊
激しい雷雨が降り注ぎ、強風が窓を叩きつけている。
十数年ぶりに大陸を襲った大嵐は、教会の子どもたちを恐怖に陥れた。わぁんわぁんと泣きわめく少年少女を子守唄で寝かしつけ、やっとシャワーを浴びたころには、深夜一時を過ぎていた。泉は短い息を吐き、腰かけたベッドで天井を仰ぐ。
静寂に張りつめた空気。ふいに気配を感じて、虚空に呼びかけてみた。
「どうせ、いるんでしょ」
「わはは、バレちゃった!」
泉の頭上で、真っ黒な風が渦巻いた。ぽっかりと空いた異空間から、ひょっこりツノが現れる。深紅のシャツに、愛嬌にあふれたしっぽ。悪魔のレオは八重歯をきらめかせて、すぐさま泉に飛びついた。
真夜中の訪問者は、こう見えても筋金入りの甘えん坊だ。第一ボタンが開かれたパジャマの胸元に頬ずりして、「セナ〜」と温もりを求めたがる。前髪がこすれて、くすぐったい。泉はちいさく首を振って、レオに言い聞かせる。
「んっ
……
。ぐりぐりしちゃ駄目」
「いいにおい!」
「シャワー浴びたばっかなんだから、当たり前でしょ」
「食べちゃいたい!」
「んんっ
……
こらっ! やめろって言ってんの!」
ぷくりと膨れた胸の突起。布越しにはむはむ咥えようとするものだから、悪魔のしっぽを掃除機のコードみたいに引っ張ってやる。レオが「ぴぎゃーっ」と素っ頓狂な悲鳴をあげたので、泉はあははと笑った。
こどものころに図書館で読んだ悪魔は、もっと恐ろしい存在だった。富と権力、若返り、愛する者の心───さまざまな夢を叶えてくれるかわりに、魂を差し出さねばならない。もしも約束を反故にすれば、骨の髄までしゃぶり尽くされて、無惨に殺されるという。
ところが、目の前の悪魔はどうだ。出会ったころから「おれと契約してっ!」と自らの欲望を叶えるためだけに泉に付きまとい、「絶対に嫌」と断り続けても、なお真正面から攻めてくる。悪魔の瞳を持ってすれば人の服従なんて容易いはずだが、いつだったかそんなことを尋ねたら「おれは、無理やり手に入れるようなことはしたくない!」と拗ねた。時折こうして夜這いを仕掛けては、人間の泉から快感を引き出そうと試みることもあるけれど。それでも決して無理を強いることはないのだ。
ほんとうに悪魔とは思えないほどに、純粋なやつである。
「こどもたち、ぐっすり眠れるといいな~」
「見てたの?」
「うん。セナの子守唄、優しくって大好きだ!」
両肩を押されて、ベッドに横たえられる。てっきり『儀式』を始めるものと勘違いした泉は構えたが、レオはそのまま布団に潜り込んで、背後から泉をぎゅっと抱き締めた。
どうやら何もせずに眠るつもりらしい。いちど始まったら徹底的に絞り取られるので断るつもりだったけれど、これはこれで拍子抜けする。働き詰めで疲弊している泉に気を遣っているんだろう。どうして悪魔に生まれたのかわからないぐらい、心が澄んでいるやつなのだ。
セナぁ~と頬ずりを続けるレオに、泉はそっと向き直った。
「でも
……
あいつら、怖がってた」
大地を激しく揺らす嵐は今もなお、吠え続けている。地響きにも似た雷が共鳴し、強烈な雨が窓を蹴り飛ばしている。子守唄を歌い終えるころには皆すうすうと寝息を立てていたけれど、ふいに目を覚ましていないだろうか。少なくとも幼いころの泉は、そうだった。あの日の夜もこうして嵐に見舞われて、隣で眠っていた泣き虫の『ゆうくん』をねんねんころりと寝かしつけたあとも。教会の外でとどろく雷雨が、怖くてこわくてたまらなかった。夜遅くまで起きている悪い子が、おぞましい悪魔に連れ去られる絵本を思い出して、一晩じゅう眠れなかったのだ。
あの子たちは、そうじゃないといいな。静かにぼやいて、毛布を被る。レオは「大丈夫だよ」と笑って、泉の額にキスをした。
「セナが優しい子守唄をうたってくれたから、きっと今頃ぐっすり夢の中だよ」
「そうだといいけど」
「なんだ。セナ、眠れないの?」
唇にちゅっと触れるだけのキスをして、レオが背中をぽんぽんと叩く。こども扱いしないでくれる、と説教しようとしたら、悪魔のくせにとっとと寝息を立てていた。
ベッドに横たわる悪魔と人間。なんの契りも交わさずに夜を明かすなんて、いくらなんでも夢物語すぎやしないか。早くも「むにゃむにゃ」と微睡んでいるレオを見つめているうちに、泉もだんだん眠くなってくる。
「セナぁ~
……
」
「
……
ったく。悪魔のくせに、熟睡しちゃって」
幸せそうに寝言をこぼすレオに、泉は「ばぁか」と愛しげに笑った。
絵本の悪魔は畏怖の対象として描かれているけれど、たぶん人間が想像しているよりもずっと優しい。決しておまえらを誘拐したりなんかしないから、安心してぐっすりおやすみ。大嵐に怯えている子どもたちも、薄っぺらい毛布を被って震えてる昔のちいさな俺も───恐怖に塗り固められた記憶は、やさしい悪魔の囁きで蓋をして。腰にぎゅっと抱きつく悪魔の角にキスをすると、泉は静かにまぶたを閉じた。
今夜はよく眠れそうだ。
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