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キリカ
2023-11-03 09:59:14
1658文字
Public
しんご
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輝望
サツキ文化祭便乗参加の小作品ssです。
主人公くんが閉鎖中の校舎に行く話。
本来なら放課後の時間、周囲はまだ明るいのに閉じた門。
登下校時に見られる生徒たちの姿もなく、その奥にも人の気配は感じられない。
先日、悪魔たちの襲撃を受けて閉鎖された縄印学園の校舎は、今も復旧の目処が立っていない状況だった。
その門前にぽつんと佇む痩躯の少年はしばらくその様相を眺めた後で、脇にある小さな扉に向かう。
ポケットの中には針金。
これで扉の鍵を開け、中に忍び込もうというのだ。
今、彼はひとりきり。
東京で行動する間は基本的に仲魔は引っ込めているし、片割れの人造魔神はメンテナンス中だ。
だからこそ、こうして閉ざされた学園を見に来ようなんて思い付いたのかも知れない。
小さな扉の鍵は、思うより呆気なく開いた。むしろ二年は親しんだ校舎に迎え入れられているような、そんな気さえした。
そんなのただの妄想だ、とかぶりを振って、少年は学園の敷地に足を踏み入れる。
校門から正面玄関までは、荒らされた形跡が今も残っていた。玄関脇の庭も、お喋りに興じる生徒たちの姿もなく寂しい様子だ。
ただ、不気味だとかおどろおどろしい空気は感じなかった。
むしろ静謐と言おうか、清められた場のような気配がある。
校舎の中、廊下や教室も同じような雰囲気が漂っていた。窓から注ぐ光が、がらんとした室内を照らしている。
ここは殆ど荒れていないところをみると、被害が出なかった場所なのかも知れない。一時間目から移動教室だったかと、近くて遠い記憶をさらう。
三年になってから約一ヶ月通った教室がこんなに寂しく広々と感じたことなんて、今までなかった。いるべき者たちがおらず、あるべきことが為されない教室自体が、まるで悲しんでいるようにすら感じた。
自分はこんなに、感受性が豊かだったろうか?
ふと我に返って、なんとなくおかしな気分になった。きっと色んなことが短期間に起きたお陰で、感傷的になっているのだろう。
教室を出た少年が次に向かったのは、図書室だった。
引き戸の内側には机や椅子でバリケードを築いたらしき跡があった。その後どうなったのか、籠もった生徒は助かったのか、悪魔たちに連れて行かれてしまったのか定かではないが、室内の本は一部が床に零れている以外は無事なようだ。
尤も、幾ら本の虫とはいえ今は読書という気にはなれない。落ちていた本を棚に戻し、並ぶ背表紙を視線でなぞる。
と、今度読もうと思っていた本がどうやら貸し出し中のままになっているらしいことに気付く。
やっぱりと言おうか、今は本を読む時間ではないと言われているようだった。
実験の準備途中だった化学室、グランドピアノの蓋が空けられたままの音楽室。
ゆっくりと校舎を巡っていく間に、少年は考えていた。
今後、この学園が修復されて再開することが出来るのだろうか。そしてそこに、自分が再び通うことになるのだろうか。
世界の行方、創世、そんなスケールの違い過ぎる問題の中に突然放り込まれ、思考が纏まらない。もし自分がナホビノとして創世することになったら、もう普通の学生には戻れないだろうけれど。
――
もうとっくに、普通の学生じゃないか。
ふと浮かんだ心の呟きに、なんだかおかしくなって唇が緩む。
その表情を見たら色めき立つ者もいるだろうが、今は周囲に誰もいない。たったひとりの足取りは、屋上への階段に向かっていた。
屋上の扉を開くと、辺りはもう夕暮れに包まれていた。沈みゆく太陽の尾を引く光が、西の空を赤く染めている。
夜が迫り出す東の空に、ぽつんと月が浮かんでいた。
いや、『ぽつんと』ではないか。
その近くには、煌々と輝く明るい星がある。
宵の明星、様々な呼び名や逸話を持つ星。
なんだかそれが、妙に胸と目に染みた。今は前に進むしかないと、そんな思いが浮かんで巡っていく。
少年は月と星の輝きを目に焼き付けるようにして、階段へと戻っていった。
片割れと、仲魔たちのいる新しい日常へ戻るために。
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