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キリカ
2016-04-13 21:46:13
5668文字
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とうらぶ
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輝石は砂塵の中に
12/27(月にうつりし恋模様)の無配だった某L/O/M宝石/泥棒/編モチーフのファンタジーパロみかんばです。
ちょっとだけ推敲。
自分なりの姫近騎士んばの昇華でもあった筈なんですが、あえて(?)騎士とか姫とかは表記してなかったような。
後で色々書き加えたりする予定なのでひとまずここに投下。
日中は空を黄色く染めていた砂嵐も、日が暮れる頃には鳴りを潜め静かな夜が訪れた。
焼け付くような太陽が沈んで夜になると、昼間の熱気からは打って変わって急激に空気が冷えてくる。
「寒いな」
「そら、これを巻いていろ。今火を熾す」
首を竦めて震えている三日月に丸めた毛布を投げ渡して、俺は携行の燃料を荷袋から取り出した。
「おお、助かる」
頭からすっぽり毛布でくるまり、なんだか気の抜けた顔を出した三日月を見てから、着火剤で燃料に火を点けた。
これが他の地形であれば乾いた木の枝でも集めて焚き火が出来ただろうが、砂漠ではそうもいかない。
特殊な気候と環境で、水も食べ物も手に入れ難い旅の難所だ。
俺たちならそこまで水分が摂れなくても死にはしないが、生きていく為に水が必要な種族は多い。遠回りでも砂漠を避けて通る道があれば、そちらを選ぶ方が安全だろう。
この地形と気候に順応した生物の中には、過酷な環境でも生きられるように強靭な生命力や硬い外殻を持った奴もいるし、少ない栄養源を求めて他の生物を捕食しようとする奴だっている。
避ける方が無難というものだ、余程急いでいるか『ここ自体』に用があるのでもなければ。
……
俺たちは後者だった。
「炎が温めてくれるのは、外側ばかりではないな」
赤々と燃える炎に頬を照らされながら、三日月が呟く。
夜空のような瞳にちらちらと光が舞う様子に注視していた俺は、こいつの言っていることがよくわからなかった。
すると、三日月は俺の方を見てにっこり笑う。
「こうして見ていると、胸の中までぽかぽかしてくるように思えるだろう」
「そうか」
確かに熱源があるだけで、心の持ちようは変わる。
完全に警戒を解く訳にはいかないが、それでも安堵に張り詰めていた気が緩むというものだ。
俺が炎にかざしていた干し肉を渡すと、三日月は嬉しそうに齧りついた。
炙った干し肉にスカスカの乾いたパン、僅かばかりの水。
腹をある程度満たすくらいのしけた晩餐でも、こいつはいつも嬉しそうにしている。
以前何故かと尋ねた時には、俺と一緒に食べる飯は美味いから、と言っていた。
口に出したりはしないが、俺も。
……
写しの、あんたから比べればいくらも生きていないような俺が思うにはおこがましいかも知れないが、三日月との食事は独りの頃とは何もかも違って見えたんだ。
俺が俺として自我を持って目覚めたのは、自分と同じ『刀剣男士』が列強国による刀狩りに遭ってから随分経ってからだった。
刀剣男士の権利を一切無視した刀狩りに同族たちは抵抗したが、戦の末に多くの者が狩られ、生き残りも散り散りになってしまったのだという。
他の付喪神も周囲の者たちもよくしてくれたが、種としては独りのまま。
俺は結局、同族を探す旅に出ることにした。
三日月は、俺が初めて出会った同族だった。
それも写しの俺とは違う、由緒ある名高き名刀の付喪神から生まれた刀剣男士だ。本来なら、俺は世話をするどころか近寄ることも憚られる立場だったろう。
今は故あってその真価を発揮することは出来ないが、それでもこいつが刀剣男士の中でも特別な位置にいる存在であることは変わりないだろう。
「砂漠の中にある村というのには、あとどれくらい掛かる?」
「明日の風にもよるだろうが、砂嵐が酷くなければ二、三日ほどで着くだろう」
俺の答えにそうか、と頷いた三日月は、一度焚き火に戻した目を再びこちらに向けてくる。
様子を窺うような、何か物言いたげな顔だ。
「どうした?」
「ああ、いや
……
こうして別々に暖を取るより、くっ付いた方がもっと温くなるのではと思ってな」
刀の化身とはいえ、体温は人並だ。
確かに一理あるし、刀自体が冷気に弱いのも事実だ。
「寒いのか?」
「もう少し温かければ嬉しいな」
どこか面映げな笑みを見て、相向かいに座っていた俺は立ち上がった。三日月の横に移動して腰を下ろすと、嬉しそうに肩を寄せてくる。
「国広はいつも優しいなぁ」
「俺は優しくなんて
……
」
分厚い毛布越しにそう体温が伝わってくる筈もないのに、肩が触れていると認識するとなんだかじんわり温かい気がする。
三日月の顔を見ることが出来なくて、俺はじっと揺らめく炎を睨んでいた。
俺は優しい訳じゃない。
ただ自分が守らなければならないと思える存在を、大切にしたいだけなんだ。
夜空に輝く月と星明りは、何も遮るもののない砂漠を地平線まで照らしている。緩やかな稜線と風が砂地に描いた陰影は、何かの絵のようにも見える。
俺が三日月を見付けたのも砂漠だった。
先人が遺した標が残るだけの道なき道の途中で倒れていたこいつは、記憶も己の本体である筈の刀も失っていた。
刀である筈なのに戦う力がないなんて、これほど屈辱的なことはないだろう。
だというのに、三日月は青空に浮かぶ雲のようにふわふわと笑ってその状況を、俺が守るということを受け入れた。
「明日もまた、あの面妖な生き物が道を阻んでくるかな」
「だろうな、邪魔をするなら倒すまでだが
……
どうした?」
自らの膝辺りに視線を落とした三日月の横顔は、なんだか寂しげだった。
睫毛、長いな
……
。
「俺は戦いでは役に立たず、お前に任せきりだからな。せめて涙のひとつでも流せれば、もしお前が傷付いても癒すことが出来ようものなのに」
いつも朗らかな様子を見せる中でも、気にしていたらしい。
無理もない、記憶がなくともこいつだって刀なのだ。
刀剣男士の霊力が籠った涙は、かつて俺たちを目覚めさせた審神者の力の名残で、傷付いた本体を唯一癒すことが出来ると言われている。
だが、今ではそれも幻だ。
荒んだ戦いに身をやつしているうちに、刀剣男士たちは涙を流すことを忘れてしまったのだという。それが滅びの原因の一端だった
……
とも言われているが、詳しいことはわからない。
どうあれ、俺にとっては産まれよりる前の、昔話だ。
「気にするな」
元々ないものをあてにする気はさらさらないし、簡単にやられてしまうほど弱くもないつもりだ。
ひとりでも多くの仲間を見つけ出すこと。
三日月が記憶を、本来の力を取り戻すまでこの手で守ること。
それが今の俺の目標で、縁(よすが)でもあった。
……
たとえ、全てを取り戻した三日月が俺を必要としなくなっても、それはあるべきものがあるべきところに戻るだけのことだ。
その後のことは、後で考えるつもりだった。
「今度こそ仲間、見付かるといいな」
「ああ」
頷いた三日月の唇に、ほのかに笑みが戻った。
予定通りオアシスを囲むようにして人々が住んでいる村に辿り着いたはいいが、同族らしき人物は随分前に村を発った後だったらしい。
「西へ向かったか。砂漠を抜けて少し行けば、大きな港がある」
海へ出られてしまえば追い掛けることも難しいかも知れないが、港には多くの人々が集まる。その人物のものでも、それ以外でも何か情報が得られるかもしれない。
「行ってみよう」
「あいわかった」
三日月と頷き合っていると、人の好さげな長老が近付いてきた。
「旅のお方、よろしければウチに泊まっていきなされ」
気は逸るが、数時間と経たずに夜がやってくる時分だ。
俺たちは有り難く申し出を受け、長老の家にある空き部屋を借りることにした。
屋根の下で寝られるのも久し振りだ。
日が暮れると、訪れることの少ない旅人の歓迎にと村人たちが色々持ち寄って集まってきた。
三日月は外の世界の出来事など質問責めを受けながら、次々と酒を注がれ上機嫌で杯を傾ける。
酒が入ればより口も軽くなるらしく、軽妙な語り口は村人たちの興味をより掻き立てるようだ。
俺はそこまで酒を好む訳でもないので、早々に酒盛りからは辞して先に休ませて貰うことにした。
独特の丸みを帯びた形の暖炉の中、ほのかに明滅する埋火は光源としては弱々しいが、三日月が戻ってきて寝床に入るには充分だろう。
「
……
ん?」
ごそごそと毛布の中に入ってくる気配に、沈んでいた意識がふっと浮かび上がった。
少し微睡んでいる間に三日月が戻ってきて、俺の寝床に潜り込んできたらしかった。気密性の高い家と暖炉のお陰で外よりは大分マシだが、やはり寒かったのだろう。
仕方がないなとそのままにしておいたら、何故か静かに寝るでもなく俺の背中にぴったりくっ付いてゴソゴソと何かしている。
温かい分には構わないと思ったが、三日月の髪が首の後ろを擦ってくすぐったい。
「どうした
……
?」
「くにひろ
……
」
振り返ると、それまでより濃く酒臭さを感じた。
当の三日月はといえば、酔っているのかふにゃふにゃと締まりのない顔をしている。
なんだか不安げだなと思っていると、俺を下敷きにするように乗り上げてもぞもぞと身体を擦り付けてきた。
「?
…
!?」
「くにひろ、くにひろ、何か変なんだ
……
」
状況がよくわからなかった。
酒のせいか三日月の体温は高く感じられたし、あらぬところに何かが当たっているような
……
。
「み、三日月?」
「俺のこと、嫌いにならないでくれ
……
国広」
顔をくしゃくしゃにしながら、泣きそうな声で懇願してくる三日月を見上げ、なんとなく状況を察した俺は焦った。
同族同士で繁殖する必要性のない自分たちには、恐らく何の意味もない行為の筈なのに。
三日月はそれをしたいという感覚を、あろうことか俺に向けていたのだ。
「どうしたんだ、あんた
……
」
戸惑っていると、首元にぐりぐりと額を押し付けてくる。
「
……
好きなんだ」
三日月の絞り出すような小さな声に、理解が追いつかない。
ただ、早鐘を打つ心臓が更に強い鼓動に切り替わったのだけはわかった。
胸が、苦しい。
心臓が壊れそうなほど音を立てているのが、相手にも伝わってしまいそうだ。
「国広が好きだ、好きなのに
……
いつか遠くにいってしまうような気がして
……
」
俺はひどく驚いた。
一言も言っていないのに、こいつは気付いていたのだろうか?
三日月が全てを取り戻したら、俺がそっと離れていこうと思っていることを。
それは嫌だと、いつまでも一緒にいて欲しいと、願ってくれるのだろうか。
「あんたは、それでいいのか」
傍にいるのが俺なんかで。
「なんか、ではない
……
国広が俺の傍からいなくなったら嫌だ、くにひろがいい
……
」
懸命に首を振りながら俺がいいのだと言われると、何も言えなくなってしまう。
普段から下手すれば見惚れてしまうような整った顔を歪ませて、月の浮かぶ宝石のような瞳が潤んで、いつもよりキラキラ輝いているように見える。
きっと今は他に仲間がいなくて寂しいだけだ、一時のことだと言い聞かせようとしても、涙を浮かべた顔で迫られては抗う気にもなれない。
俺だって、こいつのことが
……
。
ただ誤算だったのが、男女の関係で言う男の側に三日月が立ってしまったことだった。
逆じゃないか?
あんなに綺麗でおおらかでたおやかな、俺が守ってやらなければと思っていた三日月が、俺を
……
もし、本当にもしもの話で、万一そうなるとしても逆だろうなと想像していたから、混乱は否めなかった。
その時はつい流されて受け入れてしまったが、やはり逆ではとその後しばらく悩んだりもした。
結局は三日月だって男だし、そういう欲求があっても然るべきなのだと納得することにはしたのだが。
いや、だがやはり少し
……
抵抗があるというか、恥ずかしい。
だが三日月の幸せそうな顔を見てしまうと、やはり何も言えなくなってしまうのだった。
「目が覚めたか。おはよう、国広」
窓から朝の光が差し込む中、重たい瞼を開いて一番に目に飛び込んできたのは、三日月の微笑みだった。
それまで熟睡していた筈なのに、まだ全身がだるい。
腰が、下半身が痛い
……
。
そんな俺を気遣ってか、三日月は甲斐甲斐しく身の回りのことをしてくれた。
いつもなら世話をする側だから、なんだか新鮮でくすぐったい。
三日月も同感らしく何処か照れたような、嬉しそうな顔をしていた。
三日月。
許されるのなら、俺はあんたの願いをなんでも叶えてやりたい。
なんでもは無理かも知れないが、出来得る限りのことはしたい。
いつか忘れていた大切な記憶を思い出した後、俺のことを要らないと思うようになったとしても
……
。
空には相変わらず雲ひとつなく、何処までも絵の具を流し込んだような群青が広がっていた。
吹き荒ぶ風が、ゆっくりと砂漠の風景すら変えていく。
もしまたここを訪れることになっても、臨める風景は全く別のものになっているのかも知れない。
それでいいのだろう。
一見何の生命も宿さないように思える砂漠にも、様々な命が息づいているように、生きているものは刻々とその有様を変えていくものなのだから。
「大丈夫か、国広」
寄り添うように肩を並べた三日月が、様子を窺ってくる。
あまり女人相手のような、壊れ物のように扱われるのは少々困るのだが。
いずれお互い、今の距離感にも慣れていくのだろうか。
「問題ない
……
行こう」
「ああ」
差し伸べた手を柔らかく握られる。
俺より少し大きくて細面らしく長く美しい、無骨な印象とはあまり縁のない手指。
見上げた顔には、いつもの柔らかな笑み。
その瞳はまるで輝石のようにキラキラと、昨日の昼よりも眩く俺を映しているように見えた。
この手を失わないようにと力強く握り返し、俺は砂に覆われた大地に足を踏み出した。
ひとりではただ寂しく彷徨うだけの旅路も、あんたと一緒に往けるのなら。
きっと道端の名のない花すら、美しく見えるのだろう。
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