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キリカ
2015-04-05 23:43:57
2283文字
Public
とうらぶ
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髪が乾くまでのどうでもいい愚痴
【右んば60分・お題:加州清光】
かしゅんばですらない気がする
===============
「でさー、ほんっとムカツクんだよね」
ぶおーぶおーと熱風を吐くドライヤーの向こうで、加州清光が愚痴っている。
「なあぁにが『ぬしさま(はぁと)』だっての。そーいうのはー、ちゃんと刀としての仕事こなせるようになってからにして欲しいよなぁ」
「加州、熱い」
「あっ、ごめんごめん」
括弧の中まできっちり発音する程、口を動かす方に執心していた加州は、軽く謝って髪を乾かす作業に勤しみ出した。
なんだかよくわからないが、加州は最近山姥切に愚痴を言いにくるようになった。
大概は、たいして深刻ではない内容ばかりなのだが、どうも大和守に話すとしょっちゅう喧嘩になるかららしい。
助言や意見を求めている訳でもなく、ただ話を聞いてくれる相手が欲しいだけのようだ。
次郎太刀や乱に言わせれば、こういうのは世間一般の女子のノリであるらしい。
とはいえ、そんな風に言われてしまう加州も実際の女子とは違うようで、愚痴もさらっとしたものだ。
女っ気のない城内で、女人と交流する機会がある筈もなく、山姥切はそういう環境でよかったと思っていた。
正直なところ、加州に輪を掛けたような女性がいたとして、関わり合いになるのは面倒くさい気がするのだ。
生憎と雅なことも女心も、さっぱりわからないし。
「うーん、やっぱりちゃんとシャンプーとか使った方が艶も手触りもいいよ」
「
……
そうか?」
金色の髪を指で梳くようにして熱風を当てている加州に背を向けたまま、山姥切はよくわからない、とでも言いたげに返した。
自分としては、別にいつもの石鹸で良かったのだが。
それを知ったところの加州に言わせれば「信じらんない!」らしく、風呂に行こうとした時に何やらシャンプーやらコンディショナーやら色々と押し付けられてしまった。
しかも、湯上りで戻って来た部屋の前でドライヤー片手に待ち構えている始末。一体何なのだろうか。
断って変に拗らせると、よく彼に突っ掛ってこられた初めの頃のように面倒なことになりそうだと、山姥切は結局折れて髪を乾かされているのだった。
加州から押し付けられた洗髪剤は、確かに洗っている時の感触も石けんとは若干違っていたが、よく濯いでも妙に芳しい匂いが残ってしまっているのがなんとなく気になるところだ。
「いいよなぁ、山姥切は。別に飾り立てなくても華やかな髪の色してるしさ」
「髪の色は、戦の成果に影響はないと思うが」
むしろ黒や地味な色の方が目立たない、とちらり後方に視線を流すと、加州はわかってないなぁ、というように首を振った。
「かわいいとかキレイな方がモチベーション上がるでしょ? わざわざデコる必要ないってそれだけで有利よ」
「モチ
……
? 理屈がよくわからない」
謎の横文字へのツッコミと、一般には褒め言葉になる単語に対しての文句は呑み込んで呟く山姥切に、加州は「あーもういいからいいから」と微妙に投げやりな答えを返して、わしゃわしゃと山姥切の後頭部の髪を掻き上げた。
元々後ろの髪は短いから、ドライヤーならさして乾かすのに時間は掛からない。
「毛並みねぇ
……
何処ほっつき歩いてたかもわからない野良狐からしたら、お前の方がよっぽどいい毛並みなのにねぇ」
自分の毛並みが良くても
……
と思いつつ、山姥切はまた加州の話がある人物に対しての愚痴に戻る気配を察した。
「そんなにあいつが主に可愛がられるのが気に入らないなら、あんたももっと積極的に主に対して動けばいいだろ」
「そういうんじゃないんだよー。俺はあくまで刀として役に立って、それで褒めて貰いたいって思ってるだけだから」
背後で、仄かに笑むような気配がした。
軽い物言いではあるが、加州が表面的な口調や態度から窺えるほど器用な刀ではないことを、山姥切は知っていた。
只管ひた向きに主の命をこなし、自分を認めて貰えるようにと願っている。
そういう部分は、山姥切にも通じるところがあるようにも思える。
(写しがそう思うなんて、おこがましいだろうけどな
……
)
山姥切の思考が沈み掛けたところで、ドライヤーの音が止まった。
「よし、乾いた乾いたー。我ながらいいブローだった」
何を言っているかよくわからないが、自分の手腕を讃えているようだ。
しかし、髪を乾かして貰った立場で無言という訳にもいかない。
「ありがとう」
向き直って加州の目を捉え、そう一言告げると何故か彼の目が泳ぐ。
「あー、いやさ、ちゃんと乾かさないで風邪とかひいたら困るだろ? 今日寒いし
……
」
不思議そうに話を聞いていた山姥切の頭に、ぽすんといつもの布が被せられる。
「普段はこうやって隠してる癖に、なんでこう時々真っ正面からくるかなぁ。調子狂う」
「
……
悪かったな」
「何謝ってんの。ホント調子狂うわー」
「だが」
大袈裟に目を閉じて腕組みしたた加州は、片目を開いて笑った。
「いいよ別に、この腹いせは明日あの狐で晴らしてやるからさ」
まだ練度の低い刀剣たちの出陣に際して同行する引率のお鉢が、回ってきたらしい。
「俺、山姥切みたいに甘くないからさ、ビシバシ扱いちゃうからね」
と加州は悪そうな顔を作って口端を釣り上げた。
多分、彼より件の太刀の方が上手だから、上手くかわされたり往なされて終わりだろうけれど。
帰ってきて彼がぶすくれていたら、また愚痴くらい付き合ってやろうと山姥切は思ったのだった。
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