racmon
2025-04-24 21:39:37
1330文字
Public
 

リスナー

✉️でいただいた、
盧笙の面白さを語る簓です。

 この事務所では、ふと何の前触れもなくラジオが鳴り始める。いい加減慣れ始めた面々は、もはやお約束のように大きなため息をついた。
「フリーでシャベるときでもあいつはほんまに俺の理想のツッコミをくれんねんけど──」
 発信源は簓だ。さっきまで昼食の後の静かな茶の時間が流れていた。脈絡などなんにもない。左馬刻はそれをガス抜きと呼んでいた。
「なにがええってな、やっぱり緩急。お前らがおもてるようなずっと万馬力のナンデヤネンはなんもおもんないねん。強弱と間が大事やねん、わかるか?」
 面倒なのは、ただの独り言ではなく、反応を求めてくることだ。左馬刻らは仕方なく、ああとか、へぇとか、当たり障りのない応答をする。
「あいつはその辺がもうほんまピカイチ。リズム感がええんやろな、歌も上手かったわ」
「なるほどな」
 意外にも、左馬刻が一番優しかった。周囲の人間の中でも、それなりに内容を理解した上で最低限の返しをしていた。
 そんな彼に、簓は熱心に説く。元相方の、笑いの才能と可能性についてを。
「おっ! いちろーくーこー! ええとこにきた!」
 扉が開いた先に、簓は新たなターゲットを見つける。若人は苦虫を噛んだようだった。
「ちょうど俺が今のお前ぐらいか──いやもうちょっと上ンときの話か?」
 爺さんの話出しと一緒だな、と笑う空却を一郎が肘で突いた。
「初めての大舞台や、ガキンチョが、キンチョー! いうてな、さすがの俺も膝がわろてもうて」
 もちろん誰一人としてツッコまない。エンジンがかかったときは、黙って聞くに限る。このコミュニティの、簓以外が知るルールだった。
「俺を鼓舞しようとしたんか、あいつなんて言うた思う? お前の膝、ええ電力になりそうやな、やて! 傑作やろ!」
 さすがに全員が首を傾げた。一瞬、居心地の悪い沈黙が流れる。口火を切ったのは一郎だった。
「え、ちょっと意味わかんねっす」
「お前ら盧笙のよさを分かってない!」
「まず俺らはロショーを知らねーんだよ!」
 左馬刻の正論でラジオが止まる。これもいつもの流れだった。簓が拗ねて、左馬刻が脚を組み替える。一郎がコーラの蓋を捻り、空却がソファに寝転んだ。今日のノルマを終えたことに、一同ひといきついた。



「俺いまだに夢で見るで、あいつが競りの格好してんの」
 また壊れたラジオが流れ出す。
「自分の笑い声で起きんねん、ほんまおもろいわ」
 ワッハッハ、と大きな笑い声のあとに、カラリと氷の音がした。
「──なんや、お前もわろてんねやろ?」
 やや呂律の甘い掠れた声で、楽しげに訊く。
「やっぱりあいつのオモロさ一番よう分かってんのはお前や」
 確かに、噛み締めるように言った。おそらく口に含んだアルコールよりも、その言葉を味わっているようだった。しばらく微かな環境音だけが聞こえた。
「なあ、おい。聞いてんのか」
 迫る声。簓はボイスレコーダーの電源を切った。ラジオは止まり、静かな夜に包まれる。
 簓は一度放ったそれをまた手に取り、RECボタンを押した。
「──昨日より今日、今日より明日の俺の方が、身に染みて感じてるやろ。なあ」
 こたえのない問答は、一晩中掛けられ続けた。