Ymi:no
2025-04-24 08:30:20
5330文字
Public ビマヨダ加筆修正前
 

カルシウムはいかが?

人型牛ヨダの乳を吸う貴族の坊ちゃんビマのビマヨダ。人外パロビマヨダオンリーwebイベントの再録

 ぐううううう。
 腹から聞こえた音に、顔が熱くなる。ご飯は毎日三食べているけれど、それでもいつだってビーマは腹ぺこであった。
 物知りな兄貴曰く、うちは恵まれている方で、食事もかなりゴウカであるらしい。ビーマは他の家を見たことがないので、どういう意味なのかはよく分かっていないけれど、兄貴が言うのだからそうなのだと思う。実際に、屋敷の裏手にある牛舎の近くを歩いているが、道も建物も綺麗に整っている……気がする。たぶん。
「腹、減ったなぁ……
 それでもお腹は空く。何をどうしても空くものは空く。弟が言うには、これをと言うそうだ。つまりビーマは今、とてもひもじい思いをしている。
「溜息をついてどうしたというのだ」
 しょんぼりと腹を摩りながら歩いていたビーマを、呼び止める声があった。きょろきょろと周りを見渡すと、牛舎の隙間からひょっこりと人の頭が生えているのに気づく。
「誰だ…………?」
 見覚えのない顔にぱちぱちと目を瞬く。こんな綺麗な顔、一度見たら忘れないと思う。
「んん? おれ様を知らんというのか? お前の家で飼っとる家畜だろうに」
「かちく?」
「そこからかぁ~???」
 「?」
 変な顔をしてても綺麗なその人は、ちょいちょいとビーマを手招きすると、牛舎の中に迎え入れてくれた。
「まあ、おれ様ここの家畜であるし、一宿一飯の恩もある。外より余程いい暮らしもしておるしな……お前にも分かるように説明してやろう」
「おう……?」
 そこに座れ、と言われるままに、藁の束の上に腰かける。意外ともこもこしてて座り心地がいい。
「家畜、というのは、お前たちが世話をしている動物のことを言う」
「世話……
「そうだ。食事を与えたり、住環境……部屋を綺麗に保ったり、そういうことだな。お前の部屋も誰かが綺麗にしておるだろう?」
「ああ! メイドたちが毎日やってくれてるぜ!」
 綺麗な人に言われ、いつもの風景を思い出す。メイドたちは毎日、せっせとビーマの身の回りの世話をしてくれている。
「その世話を焼く相手が、動物の場合は家畜と言う。人なら主人だな」
「おおー!」
 言われて納得する。つまりこの綺麗な人は、この屋敷で暮らす動物の一人……一人? なのである。
……ん? そうするとよ、」
「うん?」
「なんで人とおんなじ形してるんだ?」
 ビーマにも動物は分かる。犬、猫、鳥、馬、羊、色々な種類がいると聞くし、実物を見たこともある。しかし人と同じ形をしたものはいなかったはずだ。
「ウム、ちんちくりんにしては目の付け所がいい」
「悪口なのは何となく分かるぜ」
 にんまりと笑う綺麗な人に、頬を膨らませて言い返す。正確には分からなくても、何となく伝わるものもある。揶揄からかわれているとか、そういう。
「お前は勘だけの方が上手くいくタイプかもしれん」
「ひでぇ」
 楽しそうに頬を摘ままれ、唇の間からぷすぅと空気が抜ける。それでもむくれていると、白い手がビーマの両頬を優しく包み込んだ。
「わっはっは! 拗ねるな拗ねるな!」
――――――――!」
 あやすように撫でまわされ、ぼっ、と顔が熱くなる。綺麗というより可愛い笑顔に、胸の辺りがどきどきして苦しい。
「さて、なぜおれ様が人の形をしているのか、だったな?」
「ぉ、おう……!」
 初めてのことに戸惑うビーマを置いて、綺麗な人が喋りだす。
「それは単純に、品種改良が行われたからだ」
「ひん……?」
「ああ、これで分かるとは思っておらん。順に説明してやるからよぉく聞くのだぞ」
「ぅぁ、分、かった」
 綺麗な人に頭を撫でられ、言葉に詰まる。可愛いがいっぱいいっぱいで、どうにかなりそうだった。
「お前が見たことのある動物、それが昔々、お前が生まれるよりずぅっと昔からいる方の動物だ」
「俺が、生まれるより……って、どのくらい昔なんだ?」
「ふぅむ……そうだな。歴史書に載っていないくらい昔、で伝わるか?」
「レキシショ?! あんな分厚いのより前なのか?!」
 レキシショはよく知っている。兄貴のお気に入りの本の一つである。ついこの間、武器に丁度良さそうだと、ブンブン振り回して大目玉を食らったばかりだった。
「そうだ。そしておれ様たちは、割と最近――歴史書の真ん中くらいだな。その辺で生まれた」
「まんなか…………
 レキシショの真ん中と言われれば、確かにたくさんの時間が経っているのが分かる。ぎっしりみっちり文字の詰まった紙が、あれだけあればそれだけ時間もぎっしり詰まっているはずだ。
「動物は人の言葉が喋れん。けれどそれだと困る人間も出てきたわけだ」
「俺たちも本当なら話せないんだもんな……
 人の言葉が話せないから困る。なるほどその通り、ビーマもたった今、話せないと困る側になったところである。
「急に賢くなるな、流石のおれ様も戸惑うぞぉ? で、手っ取り早く人と動物を足してみようということになった」
「んぇあ?! いや言いたいことは分かるけどよ、上手くいくとは思えないぜ?」
 これは兄貴からのウケウリだが、生命いのちは奇跡の上に成り立っている。だからやまいや怪我は簡単に治せないし、生きているものには必ず終わりがある。生命いのちを操るというのは、とんでもなく難しいことなのだ。
「妙なところで鋭い……
「そこまでバカじゃねぇよ」
 ほとんどが兄貴か弟からのウケウリだけれども。
本当ほんとか~? ……とまあ、すったもんだ色々あって、無事おれ様たちが生まれたというわけだ」
「そっか、ちゃんと成功したのか…………
 目の前にある綺麗な顔を見つめ、それもそうかと思いなおす。成功していなければ、そもそもこの人は牛舎ここにいないのだ。
「だがお前の指摘通り、簡単にはいかなかったらしいぞ? 詳しいことは知らんがな」
「そっか」
 やはり兄貴の言っていたことは正しかったようだ。そんな中でも、この人が生まれてきてくれたことに、誰ともなく礼を言いたくなる。
「どうだ、おれ様の話は分かりやすかっただろう?」
「センセイよりよっぽど上手かったぜ!」
 ドヤ、と胸を張る綺麗な人に、ぱちぱちと拍手を送る。ビーマにもカテイキョウシがついているが、そいつの長ったらしい説明よりよっぽど分かりやすかった。
……そやつは教えるのが本業だろうに…………
「?」
 遠い目をする綺麗な人に、首を傾げる。何か変なことを言っただろうか。
「まあよい。ここからが本題だぞ」
「おう」
 空腹で丸まっていた背を、ちょっとだけまっすぐ伸ばしてみる。真面目な話を聞く時は、姿勢を正した方がいいと弟に言われたのだ。
「お前はいま腹を空かせている。そうだな?」
「ゔ」
 腹ぺこも腹ぺこ、腹と背がくっつくのも時間の問題である。……が、綺麗な人に指摘されると、どうにも恥ずかしい。
「であれば、おれ様がとっておきを食べさせてやろう」
「ほ、本当か……?!」
 綺麗な人の提案に、思わず身を乗り出してしまう。たくさんのことを知っている、綺麗な人の〝とっておき〟。気にならないわけがない。
「約束しよう。その代わり、お前が良いと思ったものをおれ様に貢ぐように」
「みつぐ」
 みつぐ、とは。こてんと首を捻ったビーマに、綺麗な人がにんまりと笑う。
「プレゼントしろ、ということだ」
……贈り物をすればいいってことか?」
「そうだ。お前が対価に見合うと思ったものを、持ってくるがいい」
 ようは食事と引き換えになるものを、ビーマが選んで持ってくればいい……ということらしい。ブツブツコウカンってやつである。
「ん〜……分かった!」
 ゾウトウヒンならメイドのアミーユに聞けばいい。あいつならビーマのふんわりした説明でも、ちゃんとしたものを選んでくれるはずだ。
「よォしよし! では取引成立だな!」
「ォアッ、――――?!」
 いきなりぎゅっと抱きしめられ、心臓が激しく暴れだす。見上げればすぐそこに綺麗な人の顔がある。そのあまりの近さにカッカと頬が熱くなった。
「ほれ、飲んでいいぞ?」
「? ッ! ッ?!」
 むにむにと頬に触れる、柔らかな胸の感触に息が上がる。ビーマにはそれだけでいっぱいいっぱいであるのに、谷間から甘い香りまでして、頭がおかしくなりそうだった。
「なんだ? 乳なぞ吸い慣れとるだろう? 人の子はみな母の乳で育つのだし」
「ちち……すう……
 ぐでんぐでんの頭で、綺麗な人の言葉を繰り返す。ちちをすう。……乳を、吸う?
「んん〜? ……ああ、雄牛の乳は初めてなのか。仕組みは同じだぞ〜?」
 頭の中でぐるぐると声が回る。
 ちち。すう。乳。減った。吸う。腹。……吸う。
 柔らかな肉を掌で掬って、桃色の突起に顔を寄せる。
 どくどくと耳の奥に脈打つ音を聞きながら、突起の先をちろりと舌で舐めてみる。この綺麗な人は、肌も甘いらしい。そうして本能のままに突起を舌先でつつけば、桃色がふるふると小さく揺れた。
 口の中に溢れた唾を飲み込み、喉を鳴らす。
 ――しゃぶりつきたい。
 抗いがたい何かに突き動かさるまま、胸の先に吸い付いた。
――――――……!!」
「甘かろう? 雄牛の乳は希少で極上だと評判なのだ。ついでに栄養価も高い」
 ちゅう、と吸い上げると口いっぱいに甘みが広がる。食事の時に出てくるミルクに似ているが、こちらの方がより甘くて口当たりがいい。
「ウム。気に入ったようだな!」
 相変わらず心臓は痛いほど跳ねていたが、空きっ腹が満たされるまで、夢中で乳を吸い続けた。
「次はおれ様への貢ぎ物も忘れるなよ〜?」
 右も左も満足いくまで飲みきったビーマに、綺麗な人が目を細めて笑う。イタズラっぽい顔に、きゅぅっと心臓が締まった。

❀❀❀

 後日。
「ほう。これは……
 まずは服を贈った。
 家畜である綺麗な人は、下半身に布を巻いただけの格好をしていた。このままではビーマの心臓が持たないので、領地一の仕立て屋に頼んで洋服を作ってもらったのだ。
 やっぱり綺麗な人は綺麗に着こなしていた。

 そのまた後日。
「うん?」
 次は耳飾りを贈った。
 兄貴に相談したら、シキベツタグの代わりにどうかと言われたのだ。
 我が家の牛には、どれが誰だか見分けがつくよう、シキベツタグが付いているらしい。人型牛は綺麗な人しかいないので、今まではタグを付けていなかったそうだ。
『お前のものと分かるようにしたらいいんじゃないかな?』とは兄貴のげんである。
 しゃらしゃらと金属の音が鳴り、ぴかぴか光る石のたくさんついた耳飾りを、やっぱり綺麗な人は綺麗に着飾っていた。

 更に後日。
……んん?」
 その次に首飾りを贈った。綺麗な人の胸元で、きらきらと金が煌めく。
 次に相談した弟が言うには、純金という、混ざり物のない金でできているらしい。
『兄様の大切な人なのでしょう? であれば、このような贈り物もいいのではないでしょうか』とは弟の言である。
 ぴかぴかの大きな石に、きんきらの純金で眩しい首飾りを、やっぱり綺麗な人は着こなしていた。

 もうちょっと後日。
「おい、待てッ」
 その次に指輪を贈った。アミーユが言うには、薬指にぴったり嵌るものがいいらしい。
 こちらはプラチナという別の金具に、ぴかぴかの石が花のように並んでいる。
 何度も手をにぎにぎして測った指輪は、無事綺麗な人の左手の薬指に収まった。石が光を浴びてきらりと輝くのに、何だか誇らしい気持ちになる。

 その更にちょっと後日。
「ドゥリーヨダナ!」
 綺麗な人の名前を呼んで、腕を引っ張る。
「どうだ? 気に入ったか?」
 牛の乳がドゥリーヨダナの〝とっておき〟ならば、これはビーマの〝とっておき〟。牛舎の一部を取り壊し、新たに家を建てて贈ったのである。
「いや……ウム……
(なんか屋敷が建っとるッ!)
……好みじゃねぇ?」
 歯切れの悪い反応に、ドゥリーヨダナの顔を伺う。兄弟やアミーユに相談しながら図面を作ったが、もしかしたら好みではなかったのかもしれない。
「悪くはない。悪くはないが……
 それでも口ごもるドゥリーヨダナを見つめ、問いかける。
「じゃあ何が気に入らねぇ? 欲しいものは? 何でも取ってくるぜ!」
 ドゥリーヨダナのためなら野の果て山の果て、どこにだって行くし何だって取ってきてやる。ビーマはドゥリーヨダナとの約束、ことに闘志を燃やしていた。
「ぃやッ! 充分だ! おれ様大満足ッ!!」
「なら良かった……。俺こういうのあんま詳しくねぇからよ」
(だろうなァッ!)
(一介の家畜に貢ぐ金額ではないぞ本当に!)
(さ、殺処分とかになったらどうしてくれるッ)
 急に叫んだドゥリーヨダナに首を傾げつつも、満足だと言うのに心の底から笑みがこぼれた。
 ――ドゥリーヨダナ。俺の世界一綺麗な嫁さん。
 お前は俺のもんだ。なあそうだろう?