コット
2025-04-23 20:54:21
1529文字
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夜の底は、海の底

すでにどうこうなっている🐸光♀の話

1000文字の小話を20個書いたら20000文字の文庫本ができるよね⭐︎っていう雑計画うちのひとつ

 間接照明に照らされたアクセサリートレイの上に、いくつかの真珠がコロンと光る。彼女が耳から外したピアスだ。
 これはリンクパールというもので、同じ貝で作られた真珠同士は同じエーテル波長を持ち、遠くの者と会話ができるのだとか。正直、少し信じがたい。
 腕の中で穏やかな寝息をたてる彼女を起こさないよう気をつけながら、なんとなくそれに手を伸ばした。
 使い方はエレクトロープと同じで、わずかに自分のエーテルを流し込めばいいらしい。
 柔らかく光る真珠に触れ、そっとエーテルを流す。その瞬間、『ファン』と不思議な音が鳴った。

「あ、やッべ」

 “どこか”に、通じた。直感的にそれがわかり、思わず小さく声を漏らす。

……あんた、誰だよ』

 感情を押し殺した声が、パールから響いた。
 ――男だ。
 ハッと大きく息を飲んだ瞬間、天地が視界ごとひっくり返る。

……ッ!」

 いつのまにか目を覚ましていた彼女が、裸のまま、喉元に刃を突き立てるようにオレの口を押さえている。身を貫く鋭い視線に、腹の底がゾクリと震えた。
  
 ――あぁ。このヒトは、こんな表情もできるのか。

……聞こえているか? それはオレの大事なヒトのリンクパールだ。あんたが何者か知らないが、事と次第によっては容赦しない』

 真珠から、怒りに震える男の声が響く。
 チラリとそちらに視線をやった彼女は、わずかに眉をあげた。
 音もなく長いため息をついて、オレを遥か高みから見下ろす。それから、細い指を唇にあて、しぃ、とかすかに空気を震わせた。
 『喋るな』だ。大きく数度あごを引いて、コクコクと頷く。

 ゆっくりとオレの身体の上から降りた彼女が、パールを摘み上げた。途端に、ふわりと柔らかな雰囲気をまとう。

……グ・ラハ? ごめんね、こんな時間に」

 今度は、パールの向こうの男が息を飲む番だった。

『ッあんた、大丈夫か!?』
「うん。……ちょっと、間違えて触っちゃったの」

 嘘ではない。“誰が”間違えたのか、言っていないだけだ。
 しんと静まるパールに向かって、彼女が優しい声で囁く。

「それで……何か、?」

 ――『何も聞くな』。暗に、そう言っている。
 しばしの沈黙のあと、真珠がかすかに震える。
 
……いや、何も。あんたが、無事なら。……声が聞けて嬉しかった』
「うん」
『おやすみ。……よい、夜を』
「アジントタ。良い夜を」

 ふわん、とエーテルが小さく渦巻き、音が途切れた。彼女はアクセサリートレイにパールを置き、呆れた瞳で振り返る。

「ッごめん。もう二度と、アンタの私物には触らない」
……悪いコ」

 悪いのはどっちだよ。喉元まで出かかった言葉を、かろうじて飲み込んだ。たぶん、これも言っちゃいけないことだ。
 何も聞いてはいけない。そうすれば、『望む形』のままいてくれる。――彼女はたぶん、そういう存在だ。
 リンクパールの男も、きっとそれを理解している。

……な。良いコにするからさ」

 するりと腕を伸ばし、その背中を抱きしめる。ゆっくりと唇でなぞる素肌は、滑らかであたたかい。
 
「さっき、怖い目で睨まれて、すっげぇ勃った」
……えぇー?」
「はは。その顔!」

 呆れて眉を顰める彼女に、ゾクゾクと腹の奥が震えた。
 もっとアンタのいろんな顔が見たい。欲しくて欲しくて、堪らない。
 声を失くした人魚姫のように口を噤めば、それを得られるのだと、気づいてしまった。

 彼女の柔らかな肌に唇を触れながら、心の中でそっと囁く。


 
『貴女に、もっと恋をしてもいいですか』